消費税率が5%から8%にアップした2014年度、政府は医療機関の「損税」を認め、診療報酬を加算して補塡した。ところが、このほど病院への補塡額が足りていなかったことが明らかになり、厚生労働省は対応に大わらわだ。医療関係者からは「診療報酬で補うのは無理」との批判も噴き出している。
「補塡状況に極めて大きなバラツキがありました。消費税率が10%になる際は、可能な限り100%に近づくように補塡します」。7月25日にあった、診療報酬調査専門組織の「医療機関等における消費税負担に関する分科会」。厚労省の矢田貝泰之・保険医療企画調査室長(当時)は、居並ぶ医療関係委員らに陳謝し、頭を下げた。
医療機関は薬や機器の仕入れ、設備投資をする時に8%の消費税を負担する。一方、医療費は非課税なので、患者は受診時に消費税を払う必要がない。医療機関は一般小売店のように客から消費税を受け取れず、仕入れ時に負担した税額分を「損税」として被る。このため政府は、消費税導入時や税率の引き上げ時に、診療報酬や介護報酬に一定割合を上乗せしてきた。14年度の診療報酬改定では1・36%を加算。同年度の調査では、不足分についてほぼ穴埋めできているとしていた。
ところが、同省が16年度に補塡状況を改めて調査し、今回集計したところ、大きなバラツキが出た。診療所は14年度の補塡率が106・6%で、当初の105・72%を上回った半面、102・36%とされていた病院は、再調査で82・9%(16年度は85%)だったことが判明した。とりわけ、特定機能病院(14年度61・4%、16年度61・7%)や子ども病院(14年度71・1%、16年度71・6%)は充足度が極めて低かった。
上乗せは、約8000項目ある診療報酬本体のうち、初・再診料と入院基本料などにとどまる。当初から病院関係者は「赤字の穴埋めにならない」と主張しており、それを裏付ける今回の再調査結果には怒り心頭だ。全日本病院協会の猪口雄二会長は「厚労省データへの信頼が揺らぐ。修正後のデータも心配だ」と指摘し、他にも病院関係団体から「大病院ほど補塡率が低い実態が裏付けられた」といった批判が相次いだ。
データを誤った原因について厚労省は、入院日数の重複カウントがあったことや、医療機関の支払いのうち消費税のかかる部分が想定以上だったことなどを挙げ、次からは「修正可能」と説明している。だが、病院団体側は収まらない。14年度以降の不足分を計約1000億円と試算しており、全額の補塡を求める声もある。
ただ、不足分を穴埋めするなら、逆に診療所など100%超の施設に超過支払い分の返還を求める必要が出てくる。厚労省幹部は「そんなことできっこない」と漏らす。こうした中、25日の分科会で日本医師会の中川俊男副会長は「『税制上の対応』を組み合わせて検討していく必要がある」と提案した。医療費に「0%」の軽減税率を導入する案などが再び議論されることになりそうだ。ただ、財務省は強く反発しており、実現のメドは立っていない。
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