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未来の会

攻めの「病院広報」がもたらす様々な効能

攻めの「病院広報」がもたらす様々な効能
危機管理体制の構築、職員の意欲・求人・集患の向上

元看護師が殺人容疑で逮捕された旧・大口病院(現・横浜はじめ病院)連続点滴中毒死事件。2016年9月に事件が発覚した際、当時の院長の記者会見に首をかしげた人は少なくないだろう。約3カ月間で入院患者が48人も亡くなっているのに、院長は「内部の出来事だったため、県警に相談せず院内で処理するつもりだった」「いつ亡くなってもおかしくない重篤な患者がたくさん入院して来るから(人が亡くなっても仕方がない)と考えていた。異変は感じなかった」と危機意識の無さを露呈した。

 都内の病院の広報担当・A氏は「広報対応も含めて、危機管理の準備が十分にできていなかった印象を受けた。危機管理のマニュアルを作っておけば、医療事故や災害時に備えることができるだけなく、マスコミにも適切に対応できた可能性が高い」と指摘する。

 A氏が勤める病院では、経営者と部長クラスで危機管理マニュアルを共有し、経営者に記者会見の練習を促している。A氏は「経営者は必ず一度は記者会見の練習をした方がいい。マスコミ対応を軽視する方が多かったり、事前に打ち合わせをしても、多数の記者を前にすると緊張して失言してしまったりするからだ」とアドバイスする。

病院もブランディングする時代に

 また、A氏は「医療業界は危機管理を含めて広報宣伝ブランディングが他業界と比べて圧倒的に遅れている。医療は営利を目的としてはいけないという原則が影響していると思うが、経営環境の悪化から競合との差別化を図らなければいけない状況に陥っている中、医療機関の経営者は病院広報をもっと重視すべきではないか」と話す。

 A氏は以前、病床稼働率が下がっている病院の70代の理事長から集患の相談を受けた。10年以上ホームページを変更せず、広報も宣伝もしたことがないと言うので、まずホームページのリニューアルを提案、大まかな金額を提示したが、ホームページに何十万円も掛けて直す必要が分からないと言われた。「理事長は医療の質さえ上げれば集患に繋がるという考えが変わらなかった。地域に情報を発信し、自院を知ってもらうことを重視しなかった」とA氏。

 首都圏の病院グループの広報担当・B氏は「広報を重視する経営者であっても、意見が相違することがある」と打ち明ける。例えば、PRしたい診療科について、医師である経営者は医療業界の視点で選びがちだが、広報担当者としては患者やマスコミへの認知拡大の視点で特化した診療科の方を選ぶという。B氏の場合、経営者やスタッフがマスコミや患者に接する態度や身なりもチェックしている。広報担当者の意見に耳を傾けられるかどうか、経営者の姿勢も問われている。

 経営者が広報に対する意識が高くても、現場レベルの理解と協力がなければ、広報担当者も情報を収集、発信することが難しい。しかし、現場レベルの広報に対する意識は低いようだ。B氏は入職当初、現場から広報活動に対する批判や嫌がらせを受けたり、各地域の統括責任者クラスからも広報活動に対する理解をなかなか得られなかったりしたという。経営者のリーダーシップの下で、広報の重要性を院内に浸透させることが必要である。

 病院広報は他業界の広報と異なり、「医療広告ガイドライン」の厳しいルールを守って情報発信しなければならない。6月の改正医療法施行により、これまで規制の対象外だったホームページなどの掲載内容も規制の対象になる中、広報担当者は規制事項に抵触しないように自院のブランディングをする難しい舵取りを担っている。病院広報は総務部長や事務長が担当したり、外部の代理店に委託していたりするケースも多いが、本来の病院広報は専門知識と情報センスを持ち、院内を横串する行動力が求められ、マスコミへの人脈も求められるスペシャリストなのだ。

 媒体にも変化が起きている。「最近は中高年の方もスマホで医療機関のホームページを見ているので、スマホ専用サイトの制作にも力を入れている」とB氏。

スタッフのモチベーションも上げられる

 また、各施設やスタッフを紹介する社内向けのコメント欄を設けた広報誌や、取材してもらった記事で媒体から許可を得たものに関してはデータ化して各施設で共有しているという。各施設から「自院が載った記事を見ました」「家族が報道されたものを見てくれて、勤めていて誇りに思えるようになりました」「広報の見方が変わりました」などの意見が届くようになった。

 社内ブランディングは大切だ。ある病院グループの理事長はスタッフの家族に年1回感謝の手紙を送ったり、焼き肉会などのグループのイベントに家族も招待したりすることで、グループ内の団結心を醸造している。

 イベントなど様々な取り組みに関しては、ホームページやSNSにも掲載している。「昨年、DeNAの医療・健康情報サイトでパクリ記事や不正確な記事が問題になり、サイト情報の信頼性が疑問視されたことで、患者の情報リテラシーも上がっている。病院広報としても正確な情報、エビデンスに基づいた情報を発信していかなくてはいけないが、堅い記事だけでは読んでもらえない。イベント記事やSNS配信を通じて病院のイメージが向上する効果もある」(前述のA氏)。

 また、マスコミへの露出が増えることで、求人に対する応募者数が増えたり、記事が載った新聞や雑誌を持って来院する患者も目に付くようになったりしたという。広報活動が医療機関のイメージ向上に寄与し、様々な効果をもたらしている。

 ただ、効果と言っても簡単に数値化はできない。一般企業では広報担当でも、企業全体の戦略的な目標設定であるKGI(重要目標達成指標)や、業務レベルにおける目標設定であるKPI(重要業績評価指標)を設けられることがある。例えば、年間の交換名刺数やマスコミへの露出回数などを何ポイントと評価されたりする。

 都内のクリニックの広報担当・C氏は「医療機関の広報は短期間で効果が上がるものではない。院内啓発などにはある程度の期間を要するので、数値目標の設定はそぐわない」と話す。このクリニックでは外国人患者が増えている視点からブランディングや集患を重視した広報が経営者から評価されているという。例えば、英語版と中国語版のホームページの作成などだ。

 スポーツ選手・チームのスポンサーになり、病院の認知度やイメージを向上させることも一種の広報活動と言える。冬季五輪のスピードスケートで金・銀メダルを獲得した小平奈緒選手が所属している相澤病院の相澤孝夫理事長が多くの取材を受けた。バレーボールのV・プレミアリーグでは「埼玉上尾メディックス」が活躍することによって、同チームを運営する上尾中央医科グループ協議会の上尾中央総合病院などのブランディングに寄与している。病院広報は経営に直結した戦略性が求められる重要なポジションなのだ。

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