低消費電力、かつ長寿命で信頼性が高い
発光ダイオード(LED)照明の導入を検討する医療機関が増えている。従来の白熱電球や蛍光灯と比べて、その最大の魅力は、低消費電力、かつ長寿命で、信頼性が高いにことだ。そのメリットと導入リスクを考えたい。
LED照明の歴史は短い。1990年代に、日本人科学者により青色LEDが開発(2014年に赤﨑勇氏らがノーベル物理学賞受賞)されて以来、局所照明を中心として、照明に用いられるようになっている。出始めは高価だったが、近年は低価格化も進む。
医療機関における用途は、病室、診察室、検査室、処置室などの一般照明はもちろんのこと、手術室の無影灯や看護の夜間処置用の照明などにも広がっている。2011年の東日本大震災以降においては、計画停電、原発停止による節電などが実施されると、LED照明が注目を集めるようになった。
経済産業省の「エネルギー基本計画」においては、高効率照明(LED照明、有機EL照明)については、2020年までにフローで100%、2030年までにストックで100%の普及を目指すとの目標が明示されている。世界規模では、2020年には一般照明市場のほぼ70%をLED照明が占め、住宅照明においては70%以上になるとの予測もある。
国内の照明メーカーもLED照明に主力製品をシフトさせ、白熱電球や蛍光灯などの照明器具の生産を減少あるいは打ち切る方向にあり、今後はLED照明の普及が加速する流れは、必定だ。
電磁波ノイズやちらつき現象の懸念
一方で、医療現場は、医療用テレメーター(遠隔患者モニタリングシステム)を始めとして、精密機器が用いられていることから、LED照明が発生する電磁波ノイズによる機器の誤作動や受信障害への懸念の声もある。医療機関ではないが、LED照明による雑音障害は、実際に報告されている。例えば、商店街の街路灯をLED照明に替えたところ、アナログテレビやラジオに受信障害が起きた事例や、消防無線や自動車のキーレスエントリーの障害の事例などがある。
LED照明からの電磁波ノイズには、国際無線障害特別委員会(CISPR)の定めた規格があり、メーカー各社はそれをクリアした低ノイズの製品の開発を進めている。ただし、この許容値の周波数範囲は30〜300MHzまでのため、400MHz帯の雑音を発生させるような製品は、ノイズが医療用テレメータへの受信障害を引き起こす可能性が完全に消えたわけではない。
もう一つ、LED照明についての技術的な懸念がフリッカーだ。これは照明器具やディスプレイのような発光装置で発生する細かい、ちらつき現象を指し、めまいなどを起こし体調不良の原因になる。これに対してもメーカーは対策を講じており、例えば、光の脈動の少ない直流電流を安定して供給して、脈動を小さく抑えるなどして、ちらつきを起こさない製品を開発している。
従来の照明からLED照明に切り換えた場合、一般に照明にかかる電気代は、3分の1に削減できると試算されている。従来の40形蛍光灯が約42Wなのに対し、同形のLED照明の消費電力は14.9Wで済むからだ。加えて、医療機関の場合、24時間点灯のナースセンターや廊下など、24時間点灯する場所が多いために、電力料金削減効果はより高くなると期待できる。さらに熱を持ちにくいため、夏季の冷房コストの削減効果もある。
技術面の課題が克服されているもかかわらず、病院や学校などの公共施設では、LED照明導入が思うほど進んでいない現状がある。総務省の調査によると、全国の約8400病院のうち、LED照明導入を終えた施設は約4分の1にすぎない。
導入の大きな課題はコストだとされる。そこでレンタル方式や譲渡権付きリースのサービス製品も登場した。これらの方式では、削減された電気料金から工事費を含む設備費用を賄うことができるので、従来の電気代を電力会社に払う代わりに、初期投資に回すことができる。例えば、5年といった契約期間が満了した後は、所有権が借り手側に移るので、その後は長ければ10年近く、元々の照明代金の3分の2程度の削減効果が続くことになる。
またレンタル方式では、期間中は固定資産税や保守・修理費用などはレンタル先の業者が負担する。会計処理・法人税はオフバランスで処理できるために、節税のメリットもある。リース方式の場合は、オンバランスで資産計上しなくてはならない。
器具ごと交換するのでなくランプ単位で交換したり、部分的な導入で電気代削減効果を確認した後、他部門へも導入を進めたりするなど、きめ細かい導入ステップに対応している業者もある。
地震などで落下しても飛散しない
さて、導入効果はいかほどのものだろうか。まず、病院が明るくなることは、大きなメリットだ。節電のために照明を間引きしていたり、経年劣化で頻繁にランプ切れを起こしたりしていると、ただでさえ沈みがちな患者の心を上向かせることはできない。例えば、蛍光灯の場合、温かみを出すために暖色系にすることがあるが、LEDの自然な昼白色で施設内を統一し、電球色よりも明るくなり、白さがかえって清潔感を際立たせることにも繋げられる。
実は、LED照明には安全面のメリットもある。多くはガラス管ではなく、ポリカーボネート樹脂のプラスチックを採用していることだ。このため、もし地震などで落下しても、飛散することがない。この効果は、実際に東日本大震災でも立証されている。
また、万が一の停電時に自家発電装置を使用することもあり得るが、低消費電力で済むLED照明であれば、より多くの電力を医療機器へ供給することができるはずだ。
メンテナンスの手間も軽減される。例えば、看板用の水銀灯などは交換しにくいが、これを約40倍の長寿命とされるLED照明に替えれば、大幅に負担が減る。
全面的な導入に先立ち、一部の設備に入れた病院がある。例えば、ある病院では、まず手術室に導入した。内視鏡外科手術時においては、モニターの視認性を高めるため、室内の照明を暗くすることがある。しかし、暗過ぎると麻酔科医や外回りスタッフの業務に支障を来す恐れがある。そこで、2可変色LED照明システムを導入したところ、単に暗くするだけでなく、様々なシーンに適した色温度での設定が可能となっているという。
LED照明には、紫外線をほとんど放出しない、蛍光灯のように水銀を使用しない、という環境への負担軽減も期待できる。紫外線を発しない照明なら、電球に寄ってくる虫の心配もなくなる。地球環境にも患者にも優しい照明で、病院経営にも貢献できる。まずは、エネルギー使用量を把握するところから始めたい。
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