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未来の会

第124回 在留資格新設の議論が「移民政策」に移ることを警戒

第124回 在留資格新設の議論が「移民政策」に移ることを警戒

 政府は外国人の就労を目的とした在留資格の新設に踏み込んだ。介護や建設など人手不足にあえぐ業界の声に押された格好で、来年4月にもスタートする。

 ただし、抜本的な解決策にはなりそうもない。外国人受け入れに慎重な職員も多い厚生労働省は「いずれ議論が移民政策に移りかねない」(幹部)と身構えている。

 新たな在留資格は、最長5年の現行制度「技能実習生」の修了者や、一定の技能・日本語能力のある外国人が対象だ。業種は人手不足が目立つ農業、介護、建設、宿泊、造船の5分野。新資格は最長5年で、技能実習を終えた人なら最長10年間日本に滞在できる。今の仕組みは医師ら高度の専門職に限り就労目的の日本滞在を認めているが、この規制を緩和する。事実上、外国人の単純労働者受け入れに舵を切るものだ。2025年までに50万人超の労働者を確保できるという。

 「もう、外国人の受け入れもやむを得ないんだろうね」。今年2月半ば。単純労働分野での人手不足が続く現状を説明する官僚に、安倍晋三首相はこうつぶやいた。首相の耳には、人手不足で稼働できない介護施設の話などが入っていた。ここから事態は動き始め、在留資格新設を盛り込んだ18年骨太方針の閣議決定(6月)まで一気にことは進んだ。

 安倍政権は、外国人の単純労働者受け入れには慎重だった。首相を支持する保守層に反対する声が強かったためだ。しかし、保守層には人手不足の直撃を受ける農業や建設業に従事する人も多い。こうした人達の中には、背に腹は代えられず受け入れを求める人も少なくない。首相周辺も「今なら理解を得られる」と判断し、方針を転換した。ただし、「移民政策とは異なる」と位置づけ、対象は「一定の専門性のある仕事」として、表向きはまだ単純労働を認めていない。

 それでも、現在は127万人いる外国人労働者のうち、留学生などのアルバイトが23%、実習生が20%を占める。16年の厚労省の立ち入り調査では、実習生が働く事業所の7割で違反が発覚している。賃金不払いや長時間労働、不法滞在も横行している。外国人を安価な労働力とみなしていることが一因だ。

 新制度では受け入れ外国人の知識や技能を確認し、日本語能力試験も課す。ただし原則、家族帯同は認めない。「人」ではなく「労働力」として受け入れる姿勢に変わりはない。25年度に38万人の人手不足が想定される介護業界。首都圏の介護施設の経営者は「年間数万人の外国人労働者が増えるだけでは他業種との奪い合いになり、人手不足は解消されない。介護は日本語の壁もある」と話す。

 厚労省はジェンダー政策などを巡り、保守層やその支持を受ける自民党議員から煮え湯を飲まされてきた。そうした中、外国人の単純労働者受け入れだけは「保守層のおかげ」で何とか防いできた。それがその保守層も、極まる人手不足の前に安倍政権の方針転換を受け入れつつある。

 厚労省は「同志」を失った格好で、幹部は「新制度も一時しのぎにすぎない。今回、初めて『単純労働目的』の滞在を事実上認めたとも言える。外国人受け入れがなし崩しになるきっかけになるかもしれない」と漏らす。

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