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「文科省次官候補」が税金でこじ開けた医学部狭き門

「文科省次官候補」が税金でこじ開けた医学部狭き門
贈賄側は不祥事で辞任経験ある「東京医科大のドン」

教育行政を司る文部科学省を舞台に、前代未聞の「裏口入学」疑惑が発覚した。東京地検特捜部は7月4日、文科省の私立大学支援事業に選定されることへの見返りに、息子を東京医科大学(東京都新宿区)に合格させてもらったとして、文科省の局長を受託収賄容疑で逮捕した。入試の不正を防止する側の「税金」を使った不祥事に、文科省の信頼失墜は免れない。何よりたまらない↘のは、人気の高い医学部入試の不正で、不合格とされてしまった受験生だろう。

 これまでの報道によると、受託収賄事件の現場となった東京医科大は、2016年度に始まった文科省の「私立大学研究ブランディング事業」に応募したが落選。17年度に再び応募し、選定されて3500万円の補助金を受ける見返りとして、文科省科学技術・学術政策局長だった佐野太容疑者(58歳、7月4日付で大臣官房付)の息子を同大医学部医学科に合格させた疑いがもたれている。佐野容疑者に東京医大の関係者を仲介したとされる医療コンサルティング会社元役員の谷口浩司容疑者(47歳)も、受託収賄幇助の疑いで逮捕された。

京医大は補助金と箔付けのメリット

 文科省のホームページなどによると、ブランディング事業とは私立大の特色ある事業や研究のブランド化を支援する制度で、地域での事業化を目指す「Aタイプ」と世界的な先導的な研究を目指す「Bタイプ」の2種類がある。大学当たり2000万〜3000万円が5年間補助される事実上の「補助金」制度で、東京医科大は「先制医療による健康長寿社会の実現を目指した低侵襲医療の世界的拠点形成」のテーマでBタイプに選定された。初年度は3500万円が助成されたが、5年間で1億5000万円程度が受け取れる見込みだった。

 都内の私大関係者は「少子化により学生の奪い合いが必至の中、国の補助金は減らされる一方。ブランディング事業に選ばれれば、補助金と箔付けが得られる。各大とも教育の差別化を図り事業に選ばれようと必死だ」と明かす。

 選定されるのは簡単ではなく、事業が始まった17年度は応募した198校のうち、選ばれたのは40校と2割に留まった。東京医科大が選ばれた17年度は188校から応募があり、60校(約32%)が選ばれた。選定するのは有識者らの委員会で、佐野容疑者の意向がどう働いたかは不明だが、地検関係者によると、東京医大の事業計画書に助言するなどの便宜を図っていたとみられる。

 前代未聞の不祥事を起こした佐野容疑者とは、どんな人物なのか。社会部記者によると、早稲田大理工学部から同大大学院の修士課程を修了。1985年に当時の科学技術庁に入庁し、出身地である山梨県の山梨大副学長(出向)や大臣秘書官を歴任した。科技庁出身のエースで、元文科相の小杉隆氏の娘婿という血筋もあり、省内からは「将来の次官候補」との声が上がっていた。東京都港区麻布のマンションに一家4人で暮らしており、山梨県知事選への出馬が取り沙汰されるなど、政治へも意欲的だったようだ。東京医科大がブランディング事業に選定された際には官房長を務めており、直接の担当ではないものの、「職務権限があった」(捜査関係者)とみられる。

 一方の〝贈賄側〟となったのは、東京医大の臼井正彦前理事長(77歳)と鈴木衛前学長(69歳)=ともに事件を受け辞任=だ。臼井氏は05年、東京医大病院第二外科の手術で患者が相次いで死亡した問題を受けて特定機能病院を取り消された際の病院長で、不祥事の責任を取って辞任。しかし、08年に学長、13年に理事長に就任し、2期4年までというルールを変更して3期目も居座った「東京医科大のドン」(同大OB)である。

 特捜部はこの2人について「捜査に協力しており、他にも関与した人物がいる可能性がある」などとして逮捕は見送り、在宅で調べている。佐野容疑者らとの差について、社会部記者は「裁判で司法取引が導入された流れもあり、最近は取り調べに協力的かどうか、裁判を維持できそうかどうかで、待遇に差を付けることが多い」と話す。

 では、裏口入学はどう行われたのか。予備校関係者によると、東京医科大の入試は1次試験がマークシート式の学科試験で400点満点、2次試験が面接と小論文で100点満点だという。1次試験の採点は機械的に行われるため手を入れるのが難しいが、佐野容疑者の息子は「どうやら1次試験で加点されたらしい」(全国紙記者)。

「天下り」「加計」不祥事相次ぐ文科省

 息子は1浪中だったが、『週刊文春』の報道によると、センター試験直前に家族で海外旅行に行くなど優雅な浪人生活だったようだ。通常の贈収賄事件で賄賂とされるのは現金や高額な物品だが、「過去にはゴルフ旅行などの接待や芸者の演芸、性的関係などが賄賂と認定されたこともある」(同)。今回は医学部合格のための「加点」が賄賂と認定されたというわけだ。

 同大医学部の今年の受験者は3535人で、214人が合格。医学部の定員は厳しく決められているため、1人が不正に合格したとなれば、その分涙を呑んだ受験生がいるということになる。同大は救済措置を検討するが、1次試験は〝合格ライン〟周辺に大勢の学生が並ぶとされ、追加合格者を決めるのは難しそうだ。

 とはいえ、息子本人に裏口入学の意識があったかどうかは不明だ。同大の学生からは「不正があったと知らずに学んでいたとしたら、かわいそうだ」と同情する声も上がる。ある大学関係者は「私大医学部の裏口入学はそう珍しい話ではない」と断言し、「2002年、帝京大医学部が合格発表前に受験生側から寄付金を受け取っていたことが発覚した。近年はあまり聞かないが、寄付金によって合格を〝買う〟行為は水面下で起きているだろう」と推察する。

 開業医の子供など金銭的にゆとりがある受験生が多く、国内で医師免許を取得するには医学部を卒業するしかない現行制度下では、医学部の狭き門を不正なやり方でこじ開けようとする受験生がいるのは想像に難くない。だが、こじ開けたのが「入試の公正確保を求める」通知を全大学に出している文科省の官僚となれば悪質だ。しかもブランディング事業の補助金は他ならぬ税金なのである。

 文科省では昨年、元局長の早稲田大への再就職を省が斡旋していたことが発覚。組織ぐるみで「天下り」を斡旋していたとして、前川喜平・前事務次官らが処分を受けた。その後も「加計学園」の文書を巡り対応が二転三転するなど不祥事が続いている。

 目下、佐野容疑者は「ブランディング事業の選定に携われる立場ではなかった」「息子の医学部合格をお願いしたことはない」などと容疑を否認していると伝えられるが、逃げ切れるかどうか。前代未聞の「裏口入学疑惑」の全容解明が待たれる。

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