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未来の会

男性医師も子育てにコミットを

男性医師も子育てにコミットを

本誌の読者の属性をきちんと確認したことはないのだが、「男性医師」が一番多いのではないだろうか。おそらく「妻あり子供あり」という人がほとんどだろう。

 だとしたら、その人達に聞きたいが、育児にはどれくらい関わっているだろうか。「もう子供は手が離れた」という場合は、「どれくらい関わったか」と過去形になるが、男性医師、特に開業医の場合、医療とクリニックや病院の経営という“二足の草鞋”にならざるを得ず、さらに医師会や様々な会合での活動もあり、「正直言って、子育ては妻任せ」という人もいるのではないか。

女性医師に偏る子育て負担の問題

 一方、女性医師はどうだろう。女性医師で出産と育児を経験する人はどんどん増えつつあるが、よほどのことがない限り、「夫任せ」とはいかないはずだ。中には「夫も医師なので、ほとんど育児には関われず、私が病院勤務の合間、ほとんど一人で子育てをした」というケースもあるだろう。

 「医師であること」「子供がいること」は同じなのに、男性か女性かと言うだけで生じるこのアンバランス。ここに日本の医療を巡る大きな問題の一つがある。

 最近の医学部入試の状況を見ると、男子と女子の割合がほぼ等しくなりつつあり、医学部の中には「女子学生が4割以上」というところもある。早晩、「ウチはついに女子学生の割合が男子より多くなった」という医大、医学部も出てくるだろう。そうなると当然、「医師の半数(か、それ以上)は女性」という時代がやって来ることになり得る。

 私が研修医になったのは今から30年以上前だが、当時はまだまだ女性医師は少なく、そのキャリアパスも「男性医師に準ずる」という以上のものは見えてなかった。女性医師の妊娠、出産や育児はあくまで「例外事項」として扱われ、医局によっては「育児休暇を取って復職したい? 先例がないから分かりません」などと言って、「出産したら退職」を促すところもあった。

 私の医学部時代の女性の同級生達も、大学病院などで臨床や研究を続けたければ、結婚や出産は諦めるか、さもなくば妊娠と同時にいったん退職し、育児期間を経て、知人がやっているクリニックなどでパート医師として復職するか、というパターンが一番多い。

 妊娠を告げたら、医局長が明らかに迷惑そうな顔をして舌打ちしたなど、今ならマタニティハラスメントと言われるような話も聞いたことがある。

 その時から考えると、現在は隔世の感があり、大きな病院はたいてい「女性医師が出産、育児をしても仕事を続けられるキャリアパス」を用意している。出産して一定の育児休暇を取って復職して、しばらくは当直などを外す、あるいは臨床ではなくて、研究に専念できるようにして、その間に学位を取る、といった大学病院のプログラムを見ると、本当に良い時代になったな、とうれしくなる。

 ただ、冒頭で述べたように、「男性医師の育児参加」についてはまだまだ意識も低く、制度も整っていない、と言わざるを得ない。女性医師はパートナーに男性医師を選ぶ場合も少なくないので、女性医師が出産を経てスムーズに医療現場に戻るには、夫である男性医師の家事や育児への参加が不可欠であるにもかかわらず、そちらへの配慮はほとんどなされていないのが現実だ。

 先日、医療者向きのサイトで自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長の力山敏樹氏が、「夫である男性医師も子育てをシェアすべきです。育休を取るまでしなくても、2日に1回は子供の面倒を見るくらいは男性医師にもやってほしいし、特にそれを上司が理解していただきたい」と発言しており、注目を集めていた。 

 同大学では最近、「子育ても手術も続けたい」と希望する女性外科医もいるのだそうだ。そうなると、「2日に1回」どころか「子育てのメインは夫」となるケースもあって当然だが、同大学では男性医師の育児休暇取得申請はまだないという。

「家庭も仕事も大切にできる職場」作りを

 このコラムでも何度か書いてきたが、医師はもちろん「医療関係者」であるが、それだけにはとどまらず、世間からは「理想の人生を生きるモデル」でもあるのは否めない。医療技術や知識だけではなく、語学、歴史や哲学などの文系の教養、音楽や映画などの文化的教養もある程度、身に付けてほしいと思う。

 さらに、できることなら、ライフスタイルも後に続く人達がモデルにできるようなものであってほしい。今なら当然、「男性も積極的に子育てに関わる」という生活を実践し、「なるほど。夫婦でああやって協力し合えば、女性も社会で活躍できるのか」という実例となって見せる、ということだ。

 テレビで歴史ドラマなどを見ていると、未だに時々「女性は内助の功で男性の出世をサポート」という設定が出てくるので、もしかすると「これぞ日本の理想の家庭の在り方」と思っている男性もいるのかもしれない。

 もちろん、生き方は人それぞれ、女性の中にも「私は仕事を続けるよりも、家庭で子供や夫の世話をする方が幸せ」と考え、それをチョイスする人もいるだろう。それはそれで良い。

 しかし、少子高齢化で労働力不足が憂慮される今、特に医師不足も深刻となっている医療の現場では、「出産した女性医師が子育てに専念するために退職」などということになれば、すぐに目の前の診療にも差し障りが出てくる。

 本誌の読者には、自分が経営する病院の若手男性医師が「今日は僕が保育園の迎えなので、定時に帰りたい」と言った時に、「オトコが何を言ってるんだ!」と頭ごなしに怒鳴るような人はいないと思う。

 これからもそうしてもらいたいし、できるなら「ウチは女性、男性にかかわらず、働く人が家庭も仕事も大切にできる職場」というスタイルを作り上げてほしい。

 そういう病院やクリニックなら、きっと患者さんにも良い医療を提供できるはずだ。2日に1回とはいわず、男性医師も毎日、子育てにコミット。そんな時代が早く来ることを願う。

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