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未来の会

第116回 市場関係者が懸念する「新たなアベノリスク」

第116回 市場関係者が懸念する「新たなアベノリスク」

 朝鮮半島を巡り危機回避の動きが加速する中、日本国内では新たなリスクの浮上が懸念されている。呼び名は「アベノリスク」。このまま安倍晋三政権が続けば、市場の障壁となり兼ねないとの意味合いで、市場関係者を中心に流布している。1年以上続く「モリ・カケ」疑惑の異常さが、欧米の投資家心理を冷えさせてしまったことがその原因だという。〝株価連動型〟と言われる安倍首相の総裁3選に予期せぬ難題が持ち上がっている。

 アベノリスクは第2次安倍政権が発足した直後に盛んに言われた造語だ。大胆な金融緩和により、円安、株高を誘導した安倍政権の経済政策「アベノミクス」のマイナス面を指摘したものだ。当時の民主党などが「輸出依存型の大企業の優遇策であり、金利低下と円安で資産の目減りを強いられる庶民には何の利点もない」「金融緩和の出口戦略がなく、終局的に日本を経済危機に貶める」と吹聴した。

 株価上昇や円安効果により、大企業の業績が好転し、しばらく影をひそめていたが、株価が2万3000円前後で停滞を繰り返したころから、少し意味合いを変えて言われ始めた。

欧米投資家が嫌気するモリ・カケ醜聞

 自民党の経済閣僚経験者が語る。

 「海外の市場関係者にとって、第2次安倍政権以前の政権の不安定感は株式投資への障壁に映っていた。現政権はアベノミクスで株価を引き上げたばかりでなく、国政選挙をことごとく制し、『政権続投イコール安心して投資できる環境』という図式だった。ところが、『モリ・カケ』疑惑以降、雰囲気が変わってしまった。首相の妻の関与や海外でも名の知られる財務省が文書を改ざんするなど、一連のスキャンダルが、まるで発展途上国の独裁政権並みに映り、日本への不信感が生じたからだ」

 日本国民の多くが納得していないのだから、文化の異なる欧米の投資家に「モリ・カケ」が奇妙に映るのは当然だろう。

 市場関係者が解説する。

 「欧米の投資家がまず引っ掛かったのは『忖度』という言葉だった。政権のご機嫌をうかがい、役所の則を超えて、手心を加えるという意味だ、との説明で一応理解はするのだが、則を超えた役人が誰も逮捕されないことが不思議でならない。捜査当局までが『忖度』しているのではないかという疑念が生じている。まさに発展途上国の独裁政権と同じではないかと言うことだ」

 森友学園を巡る一連の疑惑で、大阪地検は5月末、前国税庁長官の佐川宣寿氏ら38人全員を不起訴処分にすると発表した。文書の改ざんや廃棄、国有地の大幅値引き売却など、そのどれもが刑事罰には当たらないとの判断を下した。不起訴処分を待って、財務省が内部調査の結果を発表したのは6月4日だった。麻生太郎・副総理兼財務相を含め、減給処分が示されたが、国民の多くが納得できるような内容ではなかった。

 これに対して、佐川氏らを証拠隠滅や背任容疑で告発していた醍醐聰・東京大学名誉教授らが間髪を入れず、大阪地検の不起訴処分を不服として大阪検察審査会に審査を申し立てたのは、当然の成り行きだった。

 醍醐氏らは、大阪地検の不起訴処分について「免罪した判断の甘さには驚かざるを得ない」などと批判。一連の問題を「行政、政治、国家の私物化と言われる事態」として、刑事事件として立件されなければ、「我が国の民主主義は地に落ちてしまう」とまで指摘した。

 申し立てを受け、検察審査会は今後、くじで選ばれた11人の市民が大阪地検の不起訴処分の当否を判断する。「起訴相当」か「不起訴不当」が議決されれば、大阪地検は再捜査を迫られることになる。

 「モリ・カケ」のモヤモヤはさらに続くことになり、財務省の内部処分により一連の疑惑に区切りを付けたいとの安倍政権の思惑通りに事は進んでいない。

 先述の市場関係者が困惑した表情で付け加えた。

 「隣国の韓国では前大統領が極めて似たようなことをして刑務所に入れられている。一方、日本では、担当大臣でありながら、放言・失言を繰り返す麻生財務相が居座ったままだ。非民主的国家ではないかという悪い印象を与えていることは間違いない。日本には諸行無常という独特の諦観の境地がある。政権の対応に不満はあっても、徹底的な糾弾は好まず、どこかで『しょうがない』と忘れてしまうのだ。しかし、海外の投資家は簡単に忘れない。政権さらには日本への不信が高まれば、ポートフォリオから外すこともあり得るのだから、安倍政権が続くことは株式市場のリスクの一つだと言わざるを得ない」

 安倍政権への不信感は地方の自民党組織にも影響を与え始めている。

 自民党選対関係者が語る。

 「自民党が常に上位を独占してきた地方の市議選で、落選者を出し、トップ当選を立憲民主党に奪われるような所が出てきている。地方組織から来年の統一地方選に向けて風当たりが強いとの苦情が頻繁に寄せられている。国会も疑惑の追及ばかりで、安倍政権の目玉政策は何一つ実現できていない。『自民党は何もやってないじゃないか』と支持者から詰め寄られれば、返答に窮してしまう。地方組織は皆頭を抱えている」

株価停滞なら総裁3選は黄信号?

 こうした状況を踏まえ、与党は政権の主要政策である働き方改革関連法案やカジノを中核とする統合型リゾート(IR)実施法案などを成立させるためには、国会会期を7月中旬まで延長するのもやむを得ないとの判断に傾いた。

 会期延長には政策実現という大義の他に、自民党総裁選をにらんだ深謀がある。石破茂・同党元幹事長ら総裁選のライバル達の口を封じることにある。石破元幹事長は、国会が終了するまでは総裁選に関する言及を控えると公言している。会期が長引けば、石破元幹事長らの表立った動きを牽制できるのだ。

延長に伴い、「既に限界状況」(自民党幹部)と言われる麻生財務相が野党側の攻勢で撃沈されるのではないかとの懸念もあるが、自民党幹部は一笑に付した。

 「麻生さんは、ある種の天才だ。良くも悪くも人の批判を全く気にしない。馬鹿と言えば馬鹿だが、偉大な馬鹿なんだ。それより、心配なのは経済の動きだよ。トランプ大統領の鉄鋼輸入制限は深刻だ。株価も停滞気味だし、安倍政権は経済で持っているからね」

 この自民党幹部は、安倍政権の存続自体が株式市場の障壁になり兼ねないという「アベノリスク」には否定的だが、「株価が下がれば安倍首相の総裁3選が危うくなるのは確かだ」と苦笑いを浮かべた。

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