「社会保障政策ではなく、バラマキの経済政策」との指摘も
安倍政権が昨年秋の衆院選で目玉公約と位置付けていた「幼児教育・保育の無償化」の骨格がようやく固まった。6月にまとめた政府の経済財政運営の指針「骨太の方針」に盛り込み、考え方を整理した。野党のみならず、与党からも「バラマキ」との批判が上がっている。
無償化の対象は、認可保育所や認定こども園、幼稚園を利用した場合で、0〜2歳児は住民税非課税世↘帯に限り、3〜5歳児の世帯は条件を設けない。認可外保育施設を利用する場合は、無償化とせずに補助上限を設け、市区町村に保育の必要性が認定された世帯に限る。0〜2歳児は4万2000円、3〜5歳児は3万7000円とした。2019年10月に消費税が10%に引き上げられる際に全面実施する。
安倍政権は昨年秋の衆院選で消費税を10%に増税する時期を延期するとともに、その使途を無償化に変更する方針を打ち出し、衆院選で勝利を収めた。しかし、選挙後すぐに無償化の方針を巡って政府内で混乱が生じた。内閣府や財務、厚生労働両省は無償化の対象を認可保育の利用者に限ろうとしたが、この方針が表面化すると一部の自民党議員や世論が反発した。
特に、認可外保育を利用していた保護者が「認可に入れずにやむなく認可外を利用しているのに、無償化の対象を認可に限るのはおかしい。公約に掲げた無償化は『全て』で公約違反だ」などとSNSで政府を強く批判。こうした声は国会にも届き、政府は認可外利用者も「無償化」の対象に含める方針に転換を余儀なくされ、認可外の対象範囲をどこまで認めるかの検討作業に入った。政策の最終取りまとめは昨年末から今年夏にずれ込んだ。
政策が二転三転したのは、安倍晋三首相は文教族が強い党内派閥「清和政策研究会」出身で、保育政策に詳しくないことが一因として挙げられる。さらに大きいのが経産省出身の今井尚哉・首相秘書官や新原浩朗・内閣府政策統括官らが主導したためだ。官邸関係者は「今回の混乱は、保育の細かな制度を知らずに無償化を打ち出した今井、新原の責任だ」と断じる。厚労省の職員は幹部、中堅を問わず、「無償化よりも、待機児童解消に繋がる認可保育の整備が先だ」と口をそろえる。
また、6月6日の衆院厚労委員会で国民民主党の山井和則・衆院議員が独自試算を公表した。試算によると、無償化に費やされる8000億円のうち、年収800万円世帯以上に約1500億円が配分されるものの、非課税世帯には約260億円しか届かず、「約6倍の格差がある」と批判した。出席していた与党委員からも「その通りだ」との声が漏れた。
さらに、保育の無償化や軽減策は一部の自治体で既に行われているため、保護者の新たな軽減に当たる分は8000億円のうち約6割に止まり、残りの4割は自治体の支出分を肩代わりするにすぎないことも判明。
保育の専門家は「穴だらけで何をしたい政策なのかが分からない」と批判し、ある野党議員は「これは社会保障政策ではなく、バラマキの経済政策だ」と指摘する。無償化の実施には法改正が必要で、来年春にも国会で法案審議が行われる見込みだ。野党には来年春の統一選や夏の参院選を控え、国会で反発して「政局」に持ち込もうとする動きもある。
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