オンタリオ州
カナダ中東部に位置し、面積は約108万km²(日本の約2.8倍)。人口は約1360万人(2014年)と、カナダの州の中で最も多く、国全体の人口の約3分の1が集まっている。
オンタリオ州の国内総生産(GDP)は約6745憶カナダドル(名目、2012年)と、カナダ全体のGDPの約4割を占め、日系企業が約250社も進出するなど、カナダの政治・経済の中心となっている州である。
州都は今回訪問したカナダ最大の都市トロント(約280万人、2013年)。ちなみに、カナダの首都は、同じオンタリオ州のオタワである。
オンタリオ州の平均寿命は2015年では男性80.2歳、女性84.1歳。また、多文化多国籍共生が特徴でもあるカナダでは、オンタリオ州も例外ではなく、3割近くが外国生まれの移民である。
カナダの医療保障制度
カナダではユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC、全ての人が適切な健康増進・予防・治療・機能回復に関するサービスを支払い可能な費用で受けられること)が行われている。その費用は国が20%、州が8%を負担する。ヘルスケアと教育は主に州政府が担当する仕組みである。
全住民の2.4%を占める先住民に関しては、オンタリオ州で受けることができるサービスは全て無料になっている。財源は税金で、年間600カナダドルの59%を医療に回すヘルス・プレミアムという形で徴収している。
1966年に医療法(Medical Care Act)が成立し、全国民に適用される公的医療制度(国民皆保険制度)が導入された。68年から72年の間に全ての州が同制度を採択した。
しかし、コアとされる医療は無料であるが、コアに入っていない歯科診療、処方薬剤費、リハビリテーション治療などは個人負担となっている。日本とは異なり、こういったサービスは企業が加入する民間保険などでカバーされている。また、リハビリでも脳卒中後のリハビリなどは公的保障で一定期間カバーされる。
州ごとの制度だが、カナダ国民がある州から別の州に引っ越しても同じサービスを利用できるポータビリティ性があり、さらにアクセスも保証されている。インフルエンザの予防注射などの公衆衛生サービスも無料である。カナダ全土で見ると、約70%が国、30%が自費や民間保険からの支払いになる。
65歳以上や低所得者に対しては、薬剤費は年間100カナダドルの免責金額(自己負担額)以上は無料とされ、2018年からは25歳以下にも同じサービスが適用されている。
日本の医療圏のように、Local Health Integration Network(LHIN)がケアの提供に責任を持っている。LHINと州政府の役割の分担は下記のようになる。LHINは病院、高齢者施設、コミュニティサービス、精神ケア、在宅ケアなどを、州政府は医師や看護師などの医療提供者、薬剤関連、救急搬送、高度医療などを管轄する。
英国同様にかかりつけ医の制度をとっており、94%の国民がかかりつけ医を登録している。かかりつけ医には、年齢性別などで補正した人頭払いがとられている。勤務医は米国のように、別にオフィスを持っている場合が多かったが、近年、雇用される方向にある。
英国と同じように、かかりつけ医や専門医への待ち時間の長さが問題になっている。かかりつけ医には70%の患者が同日か翌日には受診できているというが、股関節や膝関節手術などは4〜5カ月待ち、救急外来(ER)の場合には入院まで平均34時間かかるというデータがある。一方では、社会的入院も存在しており、オンタリオ州には約4000人いると想定されている。
トロント小児病院(写真)
トロント大学の付属病院である。正式名はThe Hospital for Sick Childrenであるが、市民からは「SickKids」の愛称で親しまれている。世界で第2位の規模を誇る小児専門研究病院である。ちなみに1位は米ボストン小児病院。トロント小児病院の病床数は453床。資金調達キャンペーン展開能力に優れ、カナダ国内で最大の寄付金額を集めている。
トロントのダウンタウンに位置するこの病院の周辺には、トロント・ジェネラル・ホスピタル(公立)、マウントサイナイ病院、プリンセスマーガレット病院(トロント大学医学部連携がん専門病院)があり、これら病院が地下のトンネルで繋がっていて、“病院銀座”とでもいうべき状況である。
トロント小児病院の概況は以下の通りである。
医師:723 人、医師を除く医療従事者:3297 人、管理者・サポートスタッフ:2333 人、平均病床占有数:287.5 床/日(病床数300床)、平均在院日数:6.48 日(以下、年間数)、入院患者数:1万6224人、退院患者数:1万6271人、ER 件数:7万3262件、外来患者数:31万2345人、オペ数:1万2574件、患者ケア(医療費)収入の内訳/MOHLTC(州政府保健)収入:89%、MRI:6台、PET-CT:1台(オンタリオ州で同病院のみ)。
カナダは国土が広いので、遠隔診療には力を入れている。オンタリオ洲では、オンタリオ・テレメディスン・ネットワークを通じてビデオ・カンファレンスを行うことができる。この費用は州から償還されるので、利用回数は増加している。
一方、患者と医師など医療者の間の遠隔医療については、医師の忙しさやコストを勘案して、医師は特別な場合のみ対応。栄養士などのスタッフが行うものを推奨している(トロント小児病院では1日15〜30件)。ただし、医師が行う場合にしか報酬は償還されないという。
トロント小児病院の場合は、患者が全国から来院するので、ビデオ・カンファレンスは全国的に行えるように設定されている。その他、簡単な手術の場合、術前の指示や、患者の自宅でのマネジメントを行ったり、バーチャルNICU(新生児集中治療室)を行い、地方の病院でのNICUのサポートを行ったりもしている。
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