財務省の決裁文書改ざん、防衛省による日報隠し……。官僚の不祥事が相次いでいる中、政界でまたも中央省庁の再編構想がささやかれ始めた。主要ターゲットは国土交通省など2001年に複数省庁が統合して誕生した官庁で、中でも裁量労働制に関する不適切データの使用によって安倍政権暗転の引き金を引いた厚生労働省はその筆頭格だ。
3月29日。首相の盟友、甘利明・自民党行革本部長名で各省庁に届いた文章は官僚達を緊張させた。01年の中央省庁再編から20年近く過ぎたことを踏まえ、各省庁に「生産性を発揮できる組織たり得えているのか」「社会・経済状況の変化による新たな行政需要と既存の行政体系との整合性」などをヒヤリングするとの内容で、省庁の統廃合を意識していることが明らかだったためだ。
「また厚労省か。いつまで足を引っ張ったら気が済むんだ」。2月末、厚労省の調査データの不備で裁量労働制の対象拡大が「働き方改革関連法案」から削除されて以降、安倍首相は再び同省への不信を募らせている。第1次政権時代の07年、年金記録漏れ問題を機に退陣に追い込まれた首相にとり、厚労省は鬼門であり続けた。そんな首相に、「厚労省は分割すべきですな」と進言したのが麻生太郎財務相だ。麻生氏は首相時代の09年、厚労省分割案をぶち上げながら断念している。
厚労省は医療、介護、年金、生活保護から、障害者福祉、健康対策、雇用まで幅広い業務を抱えており、分割には否定的な同省内にも「仕事量の割に人が少なすぎる」との声はある。麻生政権では厚労省を医療、年金、介護などを受け持つ「社会保障省」と、雇用や子育てなどを担当する「国民生活省」に分割する構想が論じられた。
この時は、幼稚園と保育所の一元化を巡る関係者の対立で立ち消えとなった。だが、16年5月には小泉進次郎氏ら自民党の若手が「社会保障」「子ども子育て」「国民生活」の3省に分割する案をぶち上げた。
厚労省の15年通常国会での政務3役の国会答弁回数は3584回。2位で2086回の外務省を圧倒している。14〜16年の通常国会への提出法案数も27本で、次点の総務省(25本)を上回った。こうした多忙さが厚労省分割案の下敷きにある。
今回は働き方改革関連が注目を浴びており、労働行政を分離させる案や、子育て分野を担う「子ども家庭省」の創設案などが浮上している。
とはいえ、安倍政権の求心力が低下している折、自民党が各省の抵抗を跳ねのけて再編を推進できる見通しは立っていない。官僚たちも「9月の自民党総裁選や来年の参院選で行革を争点に仕立てることで、支持率回復を狙っているのだろう」(厚労省幹部)と見透かしている。
それでも、一方で漠とした不安は消えない。別の厚労省幹部は「ウチの図体がでか過ぎるのは確か。国民の人気が高い(小泉)進次郎さんが案を温めている以上、いったん消えたとしても、くすぶり続けるだろう」と言い、肩をすくめた。
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