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未来の会

日医が東京五輪に向けて「テロ災害研修会」

日医が東京五輪に向けて「テロ災害研修会」
米の態で

東京五輪・パラリンピックまであと2年余りとなった4月4日、日本医師会(日医)は「日本医師会(テロ災害)研修会」を都内の日医会館で開催した。CBRNEとはChemical(化学)、Biological(生物)、Radiological(放射性物質)、Nuclear(核)、Explosive(爆発物)によって発生した災害のこと。研修会は4時間に及び、7人の専門家が講演を行った。

日本も決して例外ではない

 まず、イスラエル出身で現在は米国で活動する医師のロニー・カッツ・スタンフォード大学メディカルセンター教授が基調講演を行った。カッツ氏はスタンフォード大学で患者の治療と新人医師や医学生への教育に従事する他、アメリカ退役軍人省戦傷病研究センターの専門医としても活動、カリフォルニア州空軍大佐の任にもあるCBRNE医療の専門家である。

 カッツ氏は「米国で(Tactical Combat Casualty Care=戦術的戦傷救護)を教えています。イスラエルでは、専門家だけでなく、テロ災害が起きた時に自分達が何をすべきかを、市民は誰でも知っています。日本でも、一般の医師や市民が何をすべきかを学ぶ必要があります。世界がそうなってしまったからです」と述べた。

 カッツ氏は米国におけるCBRNEへの対策例をビデオなどで紹介。次いで、CBRNEの個別の特性を説明した。その上で、救命救急スタッフなどのファースト・リスポンダー(一次対応者)と医療提供者の早期の認識と報告、対応の重要さを指摘。また、「十分に練って練習した計画は、調和が取れた効果的な対応を生む」と、対応計画の立案や準備の重要性を強調した。特にバイオテロには四つのC(コマンド&コントロール:指揮統制)、コミュニケーション、コーディネーション:調整)が効果的であることを示した。参考文献と有用なWEBサイトも紹介した。

 基調講演に続き、6人の日本人専門家が登壇。テロ災害対策の「総論」を担当したのは山口芳裕・杏林大学医学部救急医学教室主任教授。山口氏は様々なデータをもとに、最近のテロの傾向を示した。テロ1件当たりの被害者が少なくなっていることから、小さなテロが多発する傾向にあることが分かる。被害者は一般市民が圧倒的に多く、生活の場が狙われる傾向にある。いわゆる「ソフトターゲット」だ。使われるのは爆発物が多く、テロ全体の半分余りを占める。つまり、「日常生活の中で、一般市民を対象に、爆発物などを使って、突発的に起きるのが最近のテロ災害である」と山口氏は言う。

 続いて、「化学剤テロへの最新の対応」と題して、箱崎幸也・NBCR対策推進機構特別顧問(横浜病院院長)が講演。化学剤テロでは、いち早く化学物質を推定して拮抗剤を投与することが救命救急に役立ち、サリンや神経剤VXなどに対しても、1分以内に不活化する拮抗剤が新しく開発されているという。こうした初動対処には、医療や消防関係者の役割が大きいと強調。

 化学剤を使用したテロが疑われる場合、米国国立衛生研究所の(Chemical Hazards Emergency Medical Management)のホームページにアクセスし、症状・兆候を入力することで、化学剤を同定することができ、対処法も教えてくれるという。箱崎氏は「テロ災害では、医療・消防・警察、自衛隊の現場レベルでの実践的な協働が、健康被害を最小限に食い止める」と語る。

 細菌などによるバイオテロ対策については、加來浩器・防衛医科大学校防衛医学研究センター教授)が登壇。平時と有事における感染制御策の違い、症候群分類とバイオテロ関連疾患、秘匿的攻撃を疑わせる兆候などを説明。「最後は医師に助けてもらうしかありません。全ての医師がバイオテロ発生時に対応できるよう、最低限の基礎的知識を持ってもらうことが大切」と話す。

 放射性物質と核に関しては、明石真言・量子科学技術研究開発機構執行役・放射線緊急時支援センター長が講演。被ばく医療の原則として「生命にかかわる外傷・熱傷、疾病などの治療を優先」とし、①被ばくによる症状はすぐに現れない②被ばく・汚染だけで緊急に治療が必要になることはない③汚染があっても搬送は可能と述べた。また、東海村JCO臨界事故などの経験から、放射線被ばくで即死は起きないこと、中性子被ばくは搬送要員にとって危険ではないこと、体内に線源が留置された患者の搬送は可能であることなどを説明した。

医師が止血手技に習熟する必要性

 爆発物に対しては、齋藤大蔵・防衛医科大学校防衛医学研究センター教授が担当。爆発物による外傷に対しては、TCCCの重要性が認められている。これは米国国防総省で、戦場で負傷した人に対する救命・救護処置の標準となっている。米軍戦傷者の死亡率は第2次世界大戦が19.1%、ベトナム戦争が15.8%だったが、イラク・アフガニスタンでは9.4%に低下。この死亡率低下には、TCCCの導入が寄与したと考えられている。

 最優先に行うのが出血のコントロール。通常の多発外傷に対する救急救護では「気道確保と頸椎保護」→「呼吸管理と胸部外傷処置」→「循環維持と止血」→「中枢神経障害の評価」→「脱衣と保温」という順番になる。一方、爆傷に対するTCCCでは「大量出血制御」→「気道管理」→「呼吸管理」→「循環管理」→「体温管理」と、出血制御が真っ先に来る。具体的には、四肢からの大量出血がある場合、速やかにターニケット(止血帯)を巻いて止血する。

 齋藤氏は「米軍のTCCCの止血に関する手技を救急医療システムに根付かせていくべき。医師は止血手技に習熟する必要があります」と話す。TCCCのエビデンスを基盤に、テロなどの不測の事態が発生した際の救急救護・医療を「Tactical Emergency Medical Support」()というが、TEMSのガイド本『Tactical  Medicine Essential』の翻訳本『事態対処医療』の編集も齋藤氏は担当している。

 最後に「現場の対応」について、井上忠雄・NBCR対策推進機構理事長が講演。重要施設の管理者が認識すべきこととして、①初動対処の重要性②気象・地形の影響の把握③基礎知識の重要性④防護資機材の保有⑤教育・訓練の重要性⑥危機管理態勢の整備・見直し⑦現場における連携を挙げた。また、CBRNEに対応した医療情報の入手先として、日本中毒情報センター、CHEMM、世界保健機関ガイダンス(生物・化学兵器への公衆衛生対策)などを紹介した。

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