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未来の会

医薬品の物流管理と使用指針でコスト削減

医薬品の物流管理と使用指針でコスト削減
用対効評価もコスパ医薬品の極めを後押し

病院の収益構造を考える際に、医療材料と共に、コストの2本柱となるのが、医薬品である。病院経営管理指標(厚生労働省、2015年度)によれば、一般病院における材料費比率は18.6%で、そのうち医薬品費は9.6%と半数余りを占める。

 薬剤の発注や在庫管理などは、どこの病院でも、薬剤部の業務と位置付けられる。薬剤費を削減するためには、何より余剰在庫を抱えないことが鍵だ。このため、近年は、院内物流管理システムであるSPD(Supply Processing and Distribution)を採用している所が増えている。

 SPDは、コスト削減が至上命題の米国で、1990年代に導入された仕組みだ。病院が使用・消費する物品(医療材料、医薬品ほか)の選定、調達・購入方法の設定、発注から在庫・払出・使用・消費・消毒・滅菌・補充に至る一連の物品の流れ(物流)、取引の流れ(商流)及び情報の流れ(情流)を、コンピュータ・システムで一元管理し、トレーサビリティなど医療の安全性も担保する。原価管理などにより、病院経営改善・効率化に貢献できるとされる。

 薬剤の場合、SPDを卸業者に委託することで、卸業者は、オーダーに基づいて薬剤部に払い出す。請求は、使用された分を補充する際に生じるので、在庫削減の効果は高い。

 SPDと並び、注目されているのが院内の推奨医薬品リスト「フォーミュラリー」である。こちらも、元々米国生まれの手法である。米国では、マネジドケアと言われる民間の保険制度があるが、そこに加入して薬剤費の給付を受ける場合、保険者が、保険償還対象医薬品リスト(フォーミュラリー)への収載などを条件として、製薬企業との間で償還額の値引き、すなわち購入量に応じたリベートの交渉を積極的に行う。リベートを含む償還額と自己負担額を合算した額は最も安くなるという仕組みになっている。 

 フォーミュラリーはガイドラインと共に、処方の適正化のために有用である。例えば抗菌薬は、米国感染症学会は2007年、適正使用を推進するための具体的な活動内容を示したプログラムを提唱。その中でも、フォーミュラリーの作成と抗菌薬の使用制限が打ち出され、医師と薬剤師が積極的にチームで介入している。

広がるフォーミュラリーの取り組み

 国内における院内フォーミュラリーの先駆けは、聖マリアンナ医科大学病院(川崎市、1208床)である。

 2012年度の診療報酬改定では、病棟薬剤業務実施加算が新設された。これは、薬剤師が日中病棟に常駐して、服薬指導に加えて、薬学的管理業務を担うことを目的とした加算だ。同院では、薬剤師の病棟配置はいち早く確立されており、さらに、薬剤師業務の見える化のため、フォーミュラリーの作成、医薬品使用実態調査(Drug Utilization Study:DUS)、医師と薬剤師による共同薬物治療管理(Collaborative Drug Therapy Management:CDTM)の取り組みも進められた。

 フォーミュラリーを、有効性、安全性及び経済性を考慮した医薬品の使用指針と位置付けられ、標準薬物治療を推進する。同院の薬剤部では2014年4月、後発品を考慮に入れたフォーミュラリーを作成した。同種同効薬の採用がある場合は、後発品などの安価な薬剤を優先し、有効性や安全性に明らかな差がない場合は新薬の採用を認めないとすることが盛り込まれた。それに先立ち、2006年から、後発品が市販されれば、速やかに先発品から切り替えるようにしている。

 フォーミュラリーの運用結果は数字として表れ、2016年度の院内薬剤購入費は、前年度比で約2000万円削減されたという。削減効果が大きかったのは、バイオ医薬品であるG-CSF製剤で、後発品のバイオシミラーの採用で約1480万円、さらに経口プロトンポンプ阻害薬(PPI)も後発品の使用推奨で約550万円削減されたという。2017年4月時点で、院内の後発品数量割合が90%を超えたとされる。

地域医療連携推進法人制度で共同購入

 フォーミュラリーの取り組みは、大学病院に留まらず、最近は、中小病院にも広がっているようである。

 例えば、新座病院(埼玉県新座市、128床)でも、院内でフォーミュラリーを策定し、活用している。同院は、急性期一般病棟は32床だが、回復期リハビリテーション病棟96床というケアミックスの病院である。回復期リハ病棟においては、薬剤費は出来高ではなく入院料に包括されるため、その抑制は病院経営上大きな意味を持つ。同種同効薬が多いため、先発品しか存在しない成分と後発医薬品が存在する成分について、有効性や安全性、経済性を細かく比較して優先順位を付け、後発医薬品の使用を推進している。

 新薬を採用する場合には、既存薬を絞り込んでいかなくてはならず、フォーミュラリーは有用だ。例えば、糖尿病治療のDPP-4阻害薬は、先発品だけで10品目以上あるが、全て採用するのでは効率が悪い。代謝・排泄、服用回数などを吟味した上で、採用品目を絞り込んでいかなくてはならない。

 2017年4月に始まった地域医療連携推進法人制度は、さらなるコスト削減に繋がると期待されている。異なる法人同士がネットワークを組み、施設の枠を超えて共同購入ができるようになった。品目当たり、あるいは全体の発注量が増え、価格交渉が有利に運べるはずである。

 さらに、当該地域内で採用される薬剤が統一されれば、薬の取り違えの抑止といった安全面でのメリットも生まれるだろう。

 薬価制度も後押しする。従来、保険適用される薬の公定価格(薬価)は2年に一度,前年の市場実勢価格を調査の上で改定が行われていた。2016年12月、薬価改定は1年ごとに短縮されるようになった。これまで通り、全品の薬価調査は2年ごとに実施されるが、価格乖離の大きな品目については中間年に4大卸による調査が行われる。より短期間で薬価引き下げとなれば、改定後に在庫分を持ち越すことが赤字に直結し、高額のバイオ医薬品などでは、赤字額も大きくなる。

 さらに、革新的新薬創出の促進に向けて研究開発投資を促すため、新薬創出・適応外薬解消等促進加算制度のゼロベースでの抜本的見直し、費用対効果の本格的導入などにより、真に有効な医薬品を適切に見極める。費用対効果の評価は、既収載品については2018年度から試行導入されるが、将来的に欧米のように新規収載品に導入することもあり得る。

 臨床的な有効性や安全性などを文献で評価する力を備え、フォーミュラリーの作成も手掛け、さらには経済性についても知識を持った薬剤師の存在はより重要になってくる。

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