厚生労働省の次期幹部人事で最大の注目事は、蒲原基道・事務次官(1982年、旧厚生省)の動向だ。昨年の就任以来、1年限りでの勇退が既定路線だが、労働官僚から「あと1年続投することを狙っているのでは」と警戒する声が上がっているためだ。
83年入省組を中心に有力な対抗馬がひしめき合う中、次期事務次官レースは目が離せない状況になっている。
蒲原氏は佐賀県出身だが、鹿児島市のラサール中高に通い、東京大学法学部を卒業した。生活衛生局水道環境部計画課を振り出しに、大臣官房人事課長や社会・援護局障害保健福祉部長、官房長、老健局長を歴任した。宮下創平・元厚相の秘書官も務めた。特に、障害福祉分野や大臣官房畑が長いのが特徴だ。省内では「政策面では障害福祉施策に関心が高い」との声がある。
一方で、永田町への根回し能力に長け、時間さえあれば議員会館事務所に出入りしている」(省幹部)と評判だ。ある自民党厚労族のベテラン秘書は「蒲原氏は腰が低く、我々のような秘書とも気軽に接してくれる。敵を作らないタイプだ」と評価する。
昨年夏の幹部人事では、一時は本命視された岡崎淳一・前厚生労働審議官(80年、旧労働省)が、働き方改革関連法案の内容を巡って塩崎恭久・前厚労相との関係を次第に悪化させたことが大きく影響して失速。老健局長として介護保険法改正に取り組み、財務省の反発を抑えて小幅な改正に落とし込んだ蒲原氏が岡崎氏を追い越して事務次官に登り詰めた。
ただ、蒲原氏の1年下の83年入省組は、旧厚生系では鈴木俊彦・保険局長や樽見英樹・官房長、木下賢志・年金局長、武田俊彦・医政局長と揃い、旧労働系も宮川晃・雇用環境・均等局長が控えており、「人材は豊富」(中堅職員)。本命は鈴木保険局長とされ、省幹部の間では「83年入省組で事務次官を何年か回すことも考えられる」との声も漏れる。このため、蒲原氏の1年での勇退は既定路線とみられている。
この見方に疑問を唱えるのが、村木厚子氏以来、二代続けて事務次官ポストを奪われ、煮え湯を飲まされている一部の労働官僚だ。蒲原氏が主導して大臣官房審議官を集めた部局横断的な政策プロジェクトチームを立ち上げたり、若手官僚が集まる勉強会の後見人を蒲原氏が務めたりしていることに着目し、「もう1年続けるための布石では」(労働系幹部)といぶかる。
とはいえ、蒲原氏就任後の厚労省は不祥事続きだ。約600億円の年金支給漏れや年金データ入力ミスによる約20億円の過小支給といった年金関連の不祥事の他、労働分野でも裁量労働を巡る調査結果に異常値が多発する問題も発覚し、働き方改革関連法案を修正する事態に。
加えて、働き方改革関連法案の与党内手続きでは、労働官僚に任せたため木村義雄・元厚労副大臣の反発を抑えきれず、法案提出は当初目指した2月初旬から約2カ月も大幅に遅れた。最終的に蒲原氏も根回しに動いたが、時すでに遅かった。
蒲原氏をよく知る厚生官僚は「蒲原氏は野心に乏しく、続投を望むような人ではない」と話し、不祥事続きで続投の機運も萎んでいる。久しぶりの短命の事務次官に終わりそうだ。
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