「無痛分娩」提言で分かった
産科と麻酔科の不協和音
無痛分娩で新生児や妊婦の死亡や障害が相次いで報じられたことを受けて発足した厚生労働省研究班が3月末、提言を公表した。安全に無痛分娩を提供するために、医療機関や学会が行うべき対策をまとめたものだが、「問題がある医療機関でも引き続き無痛分娩を行える実効性のない中身だった」(厚労省担当記者)というから驚きだ。
研究班は、北里大学病院の海野信也病院長(産婦人科)が代表を務め、主に産婦人科と麻酔科の医師がメンバーとなって検討を重ねてきた。ただ、その検討内容は「産科麻酔」が中心。研究班は「麻酔以外の部分は、無痛分娩でなくても起きる」と検討内容を麻酔に絞った理由を説明したというが、報じられてきた無痛分娩の事故の中には麻酔に関係ないものも含まれることから、当初から研究班の方針に疑問を呈するメディアは少なくなかった。
その上、「まとまった産科麻酔についての提言も、産科医が1人しかいない医療機関でも無痛分娩ができる産科医に甘い内容だった」と担当記者。麻酔科を代表して会見に出席した麻酔科医は、産科医が産科麻酔を兼務する場合について、「不測の事態が起こった場合の責任は重い。兼務しなくて済む施設以上に、スタッフの教育や設備の準備などに万全の体制をとっていただきたい」と苦言とも受け取れるメッセージを読み上げる始末だ。
内情を知る関係者は「麻酔科としては、麻酔科医が関わらない無痛分娩は避けてほしい。しかし、産科麻酔ができる麻酔科医が少ない現状でそれを言えば、育成が十分でないと自分達が責められる。妥協せざるを得なかったのだろう」と推察する。安全な無痛分娩のためには産科と麻酔科双方の努力が必要だが、不安は残ったままだ。
マスコミを懐柔したつもりで
刺された東京労働局長
「何なら皆さんのところに行って、是正勧告してあげてもいいんだけど」
これが酒の席での発言なら目くじらを立てまい。しかし、れっきとした会見での発言だというから穏やかではない。しかも発言の主は、実際に「皆さん」と名指しされた在京マスコミ各社の指導監督権限を持つ東京労働局の勝田智明局長なのだ。
マスコミを恫喝したとも受け取れる勝田氏のトンデモ発言が飛び出したのは、3月30日の記者会見。野村不動産への特別指導に関する質問のやり取りの中で出たものだ。全国紙記者によると、東京労働局は昨年12月、裁量労働制の違法適用で野村不動産を特別指導したことを公表。一企業への特別指導は通常は公表しないだけに、裁量労働制の拡大を盛り込んだ働き方改革関連法案の提出を控え、「行政指導を厳しくやっていく」労働局の姿勢をアピールしたのでは、との疑念が出ていた。
その後、特別指導を発表する直前に勝田氏が「プレゼントもう行く? じゃ、やろっか」などと発言していたことも発覚。行政指導を記者へのプレゼントと表現したのは明らかに不適切だが、この時点で各社が報じなかったところをみると、当時はマスコミ懐柔に成功していたのだろう。ところが、恫喝発言で風向きは一転。勝田氏は謝罪と釈明に追われ、処分を受ける立場となった。
厚労省関係者によると、勝田氏は東大法学部を卒業後、1982年に旧労働省に入省。旧厚生省出身の蒲原基道・事務次官の同期に当たる。人当たりも良く、部下の評判も悪くない。全国の労働局の中でも最上位に位置する東京労働局長を「上がりのポスト」に、退官するとされてきた。そんな官僚の晩節を汚したのは、良好な関係を築いてきたはずのマスコミからの〝プレゼント〟だった。
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