医療情報集約と高齢者施設
今回は、安倍昭恵首相夫人も訪問したという日本にゆかりのある高齢者施設「イザベラハウス」と、意外に進んでいるニューヨーク州での医療情報の共有化を見てみたい。まず医療情報の共有化についてである。筆者の認識では、米国の医療ICT(情報通信技術)の進歩は、保険者や病院といった民間セクターが中心であって、州や非営利セクターの役割は少ないと考えてきたが、そうでもなかった。
Healthix
Healthix は全米で最大規模の公共非営利の医療情報交換組織(Health Infor-mation Exchange: HIE)である。組織の起こりは2005年に遡るが、統合を重ね現在のHealthixは2012年にできた。その後も統合を重ね、現在ではニューヨーク市全域と近隣のロングアイランドの地域の病院から、病院、長期ケア施設、亜急性期医療施設、健康保険会社、小規模地域保健センター、開業医、診療所まで約4400施設と繋がり、登録患者数は約1600万人となっている。従業員は少なく55人の組織である。
また、他の公共/民間HIE と接続し、データを共有しており、この中でも重要なパートナーはSHIN-NY (Statewide Health Information Network for New York:ニューヨーク州全土の医療情報ネットワーク)である。
これによって、より容易にセキュアに(高セキュリティー環境で)患者ケアが医療従事者間で連携できる。個人情報はオプトインで許可を取っている。情報共有、連携体制により、患者ケアの品質やスピードの向上ばかりでなく、不必要な検査の重複を避けることもでき、コスト削減にも繋がる。実際、2017年10月には、4万8125件の患者サマリー、3470件の電子カルテが会員によって閲覧された。もちろん、ケアを提供する会員の間での直接のメールなどでのやり取りも行われる。
その中のデータには、患者の名前、性別、人種、対応言語、アレルギー、投薬、投薬に対するアレルギー、喫煙の有無、予防接種歴、通院歴や身長・体重・血圧 ・BMI(肥満度指数)といった簡単なバイタルサイン(生命兆候)、さらには薬局からのデータ、薬剤データ、患者の問題リスト、検査結果、放射線科のレポート並びに画像、病気の診断名、行われた手技、認知力、もし入院したことがあれば退院の時の指示及びサマリーなどがある。
収集管理されたデータを基に行動を起こすことも、この組織の特徴である、例えば、かかりつけ医には当該患者がどこかの病院のER(救急救命室)を受診した場合、あるいはナーシングホーム(重度の寝たきり老人などを対象とした医療と福祉が一体となった福祉施設)に入所した場合、その情報がリアルタイムに連絡される。患者が万が一死亡した場合にも情報がメールで送信される。2017年10月において、こういった情報が90万4646件配信されている。
また、収集したデータの予測分析によりPopula-tion Health Management(PHM)という観点から、地域の人口の 慢性疾患の予防から予後までのリスクの低減化に活用もできる。
現在は、補助金ニューヨーク州政府の補助金事業として行っており、無料であるが、どこかで持続可能な事業化を求められるか旺盛があるかもしれないということであった。
イザベラハウス(写真①)
新聞事業で成功したドイツ移民のアンナとオズワルドのオッテンドルファー夫妻は、27歳で亡くなった娘イザベラを追悼して、1875年にイザベラハウスを開設した。現在は高齢者施設として無宗派の NPOが運営している。
イザベラハウスのある場所は移民が多い貧しいエリアであるが、ソフト面の評判が良く、共用施設も充実しているため、入居者は医師や高校教師、大学教授、公務員などのインテリも多い。また、このエリアは今後の再開発も期待されている。
イザベラハウスは705室の大型ナーシングホームと、78室(2017年11月現在は85人の入居)のシニアハウジング(高齢者のみが居住者となる住宅)の二つの施設を中心とする複合施設である。ナーシングホームには重度の患者も入居している。例えば、2人の医師が勤務する(昼間のみ)あるフロアには、人工呼吸器を付けた患者が集められていた。
ここでは支払いはメディケア(高齢者・障害者向け公的医療保険制度)になり、長期入院者の多くはメディケイド(低所得者・身体障害者向け公的医療制度)に移行していく。リハビリも充実しており、1日2時間毎日行われる。
元気で健康な時にシニアハウジングに入居し、健康状態が衰えていっても同じ敷地内の介護付きのナーシングホームに移れるので安心である。また、状態に応じて様々なサービス、介護、健康な入居者は種々のアクティビティー、例えばフラダンスや太極拳などに参加できる。
シニアハウジングには日本人の入居者が多いことでも知られ、現在は45%くらいが日系人という(写真②)。2014年に安倍昭恵夫人も訪問した。日系人が多い理由は。1990年代にジョージ湯沢という日系人が当時のイザベラハウスの最高経営責任者(CEO)と懇意で、日本人を多く紹介したからだという。
1カ月の料金は、一日2食、テレビ代金、冷暖房費を含んで、スタジオ(約450平方フィート)で2400ドル、1ベッドルーム(700平方フィート)で2800ドルと比較的高額であるが、米国では現在の入居者の時代には年金も多く、年金で支払って少し余裕があるくらいであるとのことであった。シニアハウジングの入居者向けにホームケア(在宅医療・看護)も行われており、自費の場合には1時間20〜22ドルであるという。
ちなみに、日本の地域包括ケアと同じ考えで、NORC (Naturally Occurring Retirement Community) が行われていた。これは、60歳以上の人が少しでも自宅に長くいられるようにという、ニューヨーク州のプログラムで、1000人くらいのコミュニティーを対象として、チームで様々なアクティビティーを提供するものである。補助金事業なので無料で行われ、イザベラハウスは3カ所を担当しているという。
LEAVE A REPLY