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ずさん業者と契約、「年金機構」の不祥事止まらず

ずさん業者と契約、「年金機構」の不祥事止まらず
大量の個人情報のデータ入力を外部丸投げしていた驚き

またもや年金の不祥事が起きた。日本年金機構(水島藤一郎理事長)が委託した民間業者が大量の個人情報のデータ入力を処理できていなかったことが発覚したのだ。

 年金の不祥事といえば第1次安倍政権を襲った年金記録問題が思い出されるが、2015年にもサイバー攻撃を受けて大量の個人情報が漏洩する事案が起きている。第1次安倍政権を崩壊させた原因といわれた厚生労働省関連の不祥事が、再び政権の信頼を失墜させている。

 全国紙記者によると、不祥事の発端は今年2月、約130万人分の年金受給額が本来よりも少なかったことだった。ところが、日本年金機構はこの事実を記者会見などで広報せず、ホームページでひっそり知らせただけ。

 その後、日本年金機構が委託した東京都豊島区の情報処理業者「SAY企画」が大量の入力ミスや入力漏れを起こしていたことが支給ミスの原因だったと発覚した。

 「機構がこの事実を発表したのは3月20日。前日にNHKが『SAY企画が中国の業者に入力業務を再委託していた』と報じ、翌日に記者会見して全容が明らかになった」と全国紙記者は振り返る。

 記者によると、日本年金機構はこの日の会見でSAY企画が中国の業者に作業を再委託していたことは認めたが、「中国の入力作業ではミスは見当たらなかった。大量の入力ミスがあったのはSAY企画の作業の方だった」と説明した。

 日本年金機構によると、ミスが起きたのは、年金受給者が所得税の控除を受けるために同機構に提出する「扶養親族等申告書」の入力作業。

 日本年金機構は一般競争入札を行い、昨年8月に約1300万人分の申告書入力業務を「SAY企画」に約1億8200万円で委託した。その際、同機構は2人一組で手作業で入力することなどを指示し、SAY企画側からは約800人体制で入力作業に臨むとの内容で仕様書が提出されたという。

億円弱の業務困難な「ランクC」企業

 ところがその後、同社の作業に遅れやミスが目立つようになった。厚労省などの説明では、昨年10月には機構は作業の遅れを把握しており、数回にわたって同社に行くなどして実態を調べたという。

 すると、800人で行うとしたはずの作業は百数十人で行われており、手作業で行うとしていた入力も、機器に読み込ませてデータ化するずさんなものだったことが分かった。

 機器の読み取りにミスがないかのダブルチェックもできておらず、漢字が別の字に変換されたり、ルビが間違っていたりするものも目立った。

 さらに昨年末ごろ、日本年金機構に「SAY企画が業務を海外の業者に委託している」という内容の通報が入った。

 これを受けて同機構が今年1月に行った特別監査で、入力作業の一部が中国・大連の会社に再委託されていたことが判明した。入力データは個人情報のため、当初から契約で、別業者への再委託を禁止していた。

 SAY企画の説明によると、中国で作業を行ったのは、SAY企画の切田精一社長が役員を務める現地法人。いわば関連会社のようなもので、切田氏は「再委託との認識はない」と釈明している。

 現地で行われたのは、扶養親族の一部の名前の漢字とルビの入力作業で、SAY企画が画像データをその部分だけ切り出して送り、中国の業者が入力を行っていたという。

 幸いデータが漏洩した事実は確認されず、ミスもなかった。

 では、SAY企画はなぜ、ずさんな作業を行ったのか。

 前出の全国紙記者によると、日本年金機構はSAY企画のずさんな入力作業に気付いた昨秋以降、代わりの業者を探そうとしたのだという。ところが、確定申告の時期や年度末と重なり、他の入力業者は見つからなかった。そのため契約を続け、新たなデータを手渡すなどしていた。

 「800人で作業する」としていたはずのSAY企画が人を雇えなかったのも、時期的な人手不足があった可能性がある。こうして対応が次々と遅れた結果、今年2〜4月の年金支給額に過不足が生じることとなった。

 確かに、「契約内容」を裏切ったのはSAY企画であり、日本年金機構は一義的には被害者だ。

 だが、「そもそも契約内容に無理があった」(経済ジャーナリスト)と同機構の契約内容を非難する声は根強い。一般競争入札に応札したのはSAY企画だけだったが、このジャーナリストは「同社には1300

万人分もの膨大なデータを処理するほどの体力や信頼はなかったのではないか」とみる。

 同社は厚労省など官公庁からの受注が多く、日本年金機構から業務を受けるのもこれが33回目。回数だけをみれば信頼度の高い企業といえるが、その契約の多くは数十万円から数百万円の規模だった。

 営業実績や自己資本額などから付けられるランクでも、同社は予定価格300万〜1500万円の業務に入札できる「ランクC」。1億820

0万円もの大型契約を取れる企業ではない。事実、日本年金機構以外との業務契約を比べても、今回の契約金額は突出して大きい。

 それにもかかわらず、この業者に委託した理由は何か。

 日本年金機構は一連の問題を巡る第三者による検証委員会を立ち上げ、6月をめどに検証結果を明らかにするとしている。

 ただ、これで問題の原因が明らかになるとはとても思えない。

年金への不信をダメ押しする事態

 国民からみれば、年金受給者やその家族、職場の情報と大量の個人情報を扱う日本年金機構が、データ入力を外部に丸投げしていたこと自体が驚きである。

 厚労省担当記者は「旧社会保険庁が解体されて日本年金機構ができた際、大規模な人員整理が行われた。その結果、多くの業務が外部委託されることになった」と解説する。

 そもそも、社会保険庁が廃止されたのは、受給者の情報などをコンピューター入力した際に正しくデータを引き継がずにミスを放置してきた、いわゆる「年金記録問題」が契機だ。これを受けて新設された組織で、またも同様の事態が起きたとなれば、ただでさえ不信感が強い年金への信頼は完全に失墜するのは必至だ。

 第1次安倍政権を崩壊させた原因の一つは年金記録問題だった。盤石だったはずの第2次安倍政権の足を引っ張ったのはもっぱら森友、学園問題だったはずが、厚労省では年金の入力ミスに加え、働き方改革関連法案を巡り智明・東京労働局長が失言して更迭される問題も起きた。

 安定感抜群の加藤勝信・厚労大臣がかろうじて支えているものの、国会で野党の追及を受け、日本年金機構の水島理事長が謝罪する姿も見慣れたものになった。

 「安倍政権と厚労省はことごとく相性が悪い」と政治部記者は皮肉混じりに語る。年金入力ミス問題は、支持率急落に悩む安倍政権の「終わりの始まり」になりかねないと懸念されている。

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