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未来の会

医療・介護分野のAI活用 企業のフロントランナーたち

医療・介護分野のAI活用 企業のフロントランナーたち
医師の働き方の変革、医療や介護の質や安全の向上にも繋がるAI(人工知能)の利活用が進んでいる。医療や介護の分野におけるAI関連事業に取り組む先端的な企業、日本アイ・ビー・エム、情報医療、エクサウィザーズ3社のトップや担当者に事業の現状と展望を聞いた。
ワトソン・・・・・・日本アイ・ビー・エム株式会社
ヘルスケア分野で期待を集める
今後、さらなる可能性の拡大を

──現在、ワトソンの日本の医療分野での活用はどこまで進んでいるのですか。

溝上 診断支援でのAI活用は今の段階では将来を見据えた研究領域での活用が進められています。各社が研究領域で技術を磨き、政府がAIについて指針を示す段階までくれば、次第にビジネスが拡大していくのでは、と思います。

──AIの診断支援活用に向けて重要なポイントはどのあたりなのでしょう。

溝上 一つは、AIは「データから学ぶと」いう、マシンラーニング(機械学習)の技術を使っていますので、「振るまい」が変わっていくわけです。例えば、米国で「高血圧」の閾値が変更されたということがありました。そういった場合にAIはガイドラインを読み込み、すぐに反映させられます。従来は、人間がデータを更新しないと変わりませんでした。そのような振るまいの変化は従来の医療用ソフトウエアには見られなかったことで、どう規制していくかという議論も場合によっては必要になるかと思います。

──では、現在の使われ方として、どのようなものがあるのでしょう。

溝上 病院向けではなく、製薬企業向けの創薬研究支援のための「ワトソン・フォー・ドラッグ・ディスカバリー」は検索だけではなく、予測の機能があるということで注目を集めています。主に論文の読み込みなのですが、研究者としては、どの論文にも書かれていないような新規性の高い薬と疾患の関係性を仮説として出したいわけです。例えば、米ベイラー医科大学と2010年に共同研究した例として、「p53」というがんの抑制遺伝子に関するものがあります。p53はがん化しそうな遺伝子を自然消滅させる力を持っています。このp53をリン酸化、つまり活性化するには、ある種の酵素(リン酸化酵素)が必要になります。その酵素は何なのかを調べていったのです。人体の酵素で分かっているものが500種類。p53をリン酸化する酵素は、その当時26種類分かっていました。残り474種類を一つずつ調べると経費も時間もかかります。それで、大量の論文の中からヒントとなる仮説を見つけようというミッションになるわけです。論文には様々なリン酸化酵素がいろいろな表現で記述されています。474の酵素について、それがどのような表現で記述されているか。表現方法を定量化してランキングしていくと、いくつかが該当することが分かったのです。

──ワトソンはどれぐらいの量の論文を読み込むものですか。

溝上 創薬支援のためのワトソンはPubMed(生命科学や生物医学に関する参考文献や要約を掲載するMEDLINEなどへの無料検索エンジン)の全ての論文のアブストラクト(要旨)や特許情報、医療ジャーナルの主だったものを読み込んでいて、総量で数千万件にもなり、人間が読める量をはるかに超えています。

──医療画像診断支援システムへの利用は?

溝上 これは、アメリカでも臨床での利用までいっていなくて、いくつかの病院で電子カルテのテキスト情報と診断画像から読み取れる情報がマッチするかどうかは調べました。例えば、大動脈弁狭窄症という病気ですが、カルテと画像とに不整合がないかをチェックします。そこでは3割ぐらいの患者さんに不整合が見つかったというリサーチ内容が発表されました。これは、診断ミスに繋がる可能性もあり、AI技術の信頼を勝ち得ていく手段にもなります。

──国の政策も含め、今後はどのように動いていくのが望ましいですか。

溝上 ヘルスケアのデータは個人情報なので、情報漏洩が最も注意すべき点です。拙速に動いて技術の信頼を損なうことの方が問題でしょう。一方で、慎重過ぎるとネガティブな面が強調され、研究のスピードが遅くなり、そのことがヘルスケア産業や次世代の医療システムの実現のスピードを遅れさせてしまう。その兼ね合いが難しいですね。

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