務医時代は臨床一筋だったが、22年前に父の後を継いで病院の理事長に就任。入院患者がおむつをすることで尊厳を失っていく姿を目の当たりにし、患者の「尊厳の保障」を重視するようになった。以後、「過去の生活になかったものは極力排除する」ことを指針に、医療・介護サービスを提供してきた。くしくも、今回の診療・介護報酬同時改定で、「長期療養のための医療」と「日常生活上の世話(介護)」を一体的に提供する介護医療院が4月に創設された。日本慢性期医療協会(日慢協)も介護医療院のあるべき姿を追求するため、日本介護医療院協会を4月に設立。日慢協理事から会長に就いた江澤和彦氏に話を聞いた。
◆介護医療院の特徴は何ですか。
江澤 私は介護医療院への「参入」という言葉を使っています。介護医療院のポイントは、転換モデルではないということです。これまでの延長線上にあるものではありません。「住まい」と「生活」を「医療」が支える新しいモデルなのです。日本介護医療院協会ではこうした理念を重視し、広く伝えていきたいと考えています。
◆医療に加え、生活の視点が大切なのですね。
江澤 はい。介護医療院は、「長期療養」を担う医療サービスと、「生活支援」を担う介護サービスの両面を持っています。医療機関は長期療養については得意ですが、生活支援については得意ではないかもしれません。介護医療院が生活支援の役割も果たしていくという点は重要です。
これまでの生活習慣を続けてもらう
◆生活支援施設としての役割とは?
江澤 例えば、間仕切りをどうするかという問題です。住まいと生活という観点からすると、単純に間仕切りを設けるだけでは済みません。自分の「居場所」と思えるような環境を作らなければいけません。まず、ハード面では、落ち着ける住環境を作るべきです。私の病院や施設では、患者さんに家具などをドンドン持ち込んでもらっています。仏壇を置くだけでも違います。ソフト面では、病院側の都合で患者さんの生活のペースを変えないことが重要です。私達の老健(介護老人保健施設)のユニット型では、起床時間や食事時間はバラバラです。長年、朝にニュースを見ながら、温かいミルクを飲むといった習慣があるとしたら、それに合わせます。80年ほど続いた習慣を今から変えるのはつらいことだからです。従来の医療機関や介護施設ではそうした個別対応はあまりないかもしれませんが、生活習慣を守ることはソフト面の配慮としては欠かせません。
◆これまでの生活を守っていくわけですね。
江澤 家具や音楽にも配慮が必要です。例えば、これから団塊の世代の患者さんが増えてきます。施設や個室などに流れる音楽も演歌から洋楽などに変わってくるでしょう。ビートルズやサイモン&ガーファンクル、もしかしたらマイケル・ジャクソンかもしれません。世代に合わせた居場所作りが大切になります。生活環境も工夫をして、自立して過ごせるようにするといいでしょう。私は設備の設計にも取り組んでいます。構造などを工夫すれば、トイレなど職員を呼ばずに、本人が1人で出来るようになるからです。介護医療院の届け出を行った日から1年限定で算定出来る「移行定着支援加算」は、1人当たり1日93単位なので年間約34万円、60床であれば約2000万円の収入となります。そういったものを活用して設備の改修を行い、居場所作りに取り組んだらいいと思います。
◆院内の行事や地域との交流は?
江澤 餅つきなど季節ごとの年間行事やレクリエーションの開催も、生活施設としての介護医療院の役割になります。こうした取り組みは病院でも介護療養型医療施設でもあまりやっていません。また、地域交流も重要です。住民交流イベント、住民カフェ、認知症カフェ 、祭り、公民館での健康教室や介護教室などです。報酬には繋がらない部分はありますが、住民とのネットワークを作るのには大きな意味があります。街中のブラックホールにならず、地域と交流することが大切です。地域包括ケアの中心は住民であり、異業種や異分野との連携が重要になります。町内会、民生委員、警察や消防、金融機関、教育関係者などの方々です。医師会、病院、クリニックなどと住民が直接連携を取っていきます。地域貢献活動は、老健の在宅強化型等においても要件に取り込まれ、制度上も評価され始めています。私のサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)でも、地元住民にボランティアとして入ってもらっています。住民の目が入り、透明性が保たれ、地域と交流をしていくことは、介護医療院の生命線の一つだと思います。
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