日本医師会(日医)の横倉義武会長は、昨年10月に世界医師会(WMA)会長に就任した。故武見太郎・元日医会長(1975年就任)、故坪井栄孝・元日医会長(2000年就任)に続き、日本人では3人目。世界に目を向ければ、十分な医療を受けられない多くの人々が存在する。そうした状況に対し、世界保健機関(WHO)と連携し、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC、全ての人が適切な健康増進・予防・治療・機能回復に関するサービスを支払い可能な費用で受けられること)を推進していくのが重要な仕事になるという。WMAの話に加え、今回の診療報酬改定、日医の今後についても話を聞いた。
——WMA会長に選出された経緯について教えてください。
横倉 次期会長は、会長に就任する1年前に決まります。一昨年10月に、台湾の台北でWMA総会が開かれ、そこで選挙が行われました。加盟国がそれぞれ1票を持ち、そこに会員1万人につき1票が上乗せされます。当時、加盟国は112カ国で、会員数による上乗せ票が、全部で50票くらいあったのではないかと思います。立候補をしたのは、私の他に、クロアチア、ナイジェリア、中国の医師会会長でした。その中から選ばれたということです。会長の任期は、昨年10月からの1年間です。
——選挙活動はなさったのですか。
横倉 票を集めるための特別な活動はしませんでした。ただ、私は2010年からWMAの理事に就いていて、いろいろな機会において発言してきましたから、私がどんなことを考えているかは、多くの方が理解してくれていたと思います。また、日医は長年にわたってWMAへの貢献をしてきましたので、そういうことに対する評価もあったのではないかと思っています。
——WMAにおける日医の存在感は?
横倉 そもそもWMAは、第2次大戦中に戦争犯罪的な医療が行われたことに対する反省から、医療倫理を大切にする世界的な組織が必要だということで、1947年に世界27カ国の医師が一堂に会し、第1回総会を開催したことをきっかけとして作られました。戦勝国によって作られた組織ですので、日医の参加が認められたのは1951年になってからでした。その後、武見太郎会長の時代から積極的に国際活動を行っていて、それ以降、WMAの中で日医の存在感が増していきました。
——予算の面でもですか。
横倉 日医の会員数は現在約17万人で、WMAにも登録しています。各国医師会が支払う会費は会員数に応じて決まるので、日医は経済的にも大きな支援をしています。
医療を受けやすい環境作りに取り組む
——WMA会長としてやりたいことは?
横倉 世界中でもいろいろな地域があり、健康や医療に関して抱えている問題は様々です。アフリカやアジアには、まだ十分に医療が行き渡っていない地域がありますので、まずは医療を受けやすい環境作りをしていきたいと思っています。今、全ての人が良質な保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられるようにしようということで、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの活動が進められています。これを推進していくことが、WMAの重要な仕事であると考えており、WHOとも連携しながら仕事をしていくつもりです。
——WHOとの話は進んでいるのですか。
横倉 昨年12月に、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの会議を日本政府が開いたのですが、そこにWHOのテドロス・アダノム事務局長(エチオピアの元保健相・元外相)をはじめ、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)事務局長や世界銀行総裁など、健康を守ることに関わる世界機関のメンバーが来日しました。その時に、アダノム事務局長といろいろな話をしたのですが、世界医師会とぜひ協力してやっていきたいということでしたので、業務提携を結ぶことになりました。この4月にスイス・ジュネーブのWHO本部を訪問して、協定書を交わそうと準備を進めています。
——医療が十分でない国や地域に対して、具体的にどんなことをされるのですか。
横倉 一つの例を挙げれば、母子健康手帳の普及に取り組んでいくことなどがあります。母子健康手帳は、戦後すぐの時期に、母と子供の命と健康を守ることを目的に、日本で生まれたものです。これが今、多くの国で大きな役割を果たし始めています。現在、JICA(国際協力機構)を通じて、その国に応じた母子健康手帳の普及が行われていますが、それを世界医師会という組織の力を利用して、より広めていきたいと考えています。
——会長就任時に、日本の医療システムを世界に発信したいと発言していますね。
横倉 日本も戦争が終わったばかりの頃は、非常に厳しい医療状況でした。ところが、1961年に国民皆保険となったことで、医療にかかるのにあまり経済的な心配をしなくてもよくなりました。自分が支払える範囲の額で、医療が受けられるようになったわけです。この日本の国民皆保険というシステムは、日本の経済復興に大きな役割を果たしましたし、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの一つのモデルとしても、非常に高い評価を受けています。他の国でも実現できるようにしていかなければならないと思います。
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