元高校国語教師で仲の良い患者でもあるA氏から年賀状が来た。いきなり一句、「門松は冥途の旅の一里塚 めでたくもありめでたくもなし」。一休さんの作だ。実に含蓄に富んでいる。私もまた、この味が分かる年代になったということだ。現在務めている神奈川県医師会理事の仕事を少しセーブしようかと考えていた矢先だった。限られた人生、1年ごとに精一杯頑張ろうと気持ちを新たにした次第。
昨年秋、日本医師会から「医師の働き方」に関する膨大な量のアンケートが送られてきて、担当の私にお鉢が回ってきた。択一式ではなく、文章での回答の上、締め切りまで日にちがない。関係の方々に電話で問い合わせをしたりして、3日間、睡眠時間2時間で仕上げた。
政府の働き方改革実現会議が昨年3月、働き方改革実行計画を決定した。基本は長時間労働の是正と時間外勤務の上限設定で、勤務医が対象。罰則付きの上限規制を2019年度に導入しようと、政府は労働基準法改正案の成立を目指しているが、医師に関しては施行後5年後をめどに適用する。
聖路加国際病院や北里大学病院に労働基準監督署の指導が入ったことは、行政の本気度の現れか。現場からは以下の問題点が挙げられる。
①地域医療の立場から
・救急、周産期医療からの撤退
・外来診療の縮小
・僻地医療の縮小、廃止
・高度医療、長時間手術への影響
②病院経営の立場から
・医師の増員に繋がり、病院経営に直結する。
・医師獲得競争となり、有料人材紹介会社の存在が大きくなる。
民間の人材紹介会社のサービスは実に丁寧だ。医師という職種は基本的に交渉の苦手な人達が多い(給与、当直、休暇など)。転職先を探している医師側に寄り添って病院側とやり取りする。成約率も高く、緊急時の求人にも対応してくれるので、高額と知りつつ依頼してしまうのが現状だ。
③大学の立場から
・派遣先の病院からの医師の引き上げが始まる。
・医師の地域による偏在が加速されることになる。
対策として大きくクローズアップされるのは、各都道府県に設置されている医師バンク機能の充実と女性医師の活用だ。医学部学生の約40%、30代では約30%が女性医師という中、妊娠・子育て中の女性医師の勤務継続のポイントは、時間外勤務・宿日直・当直の免除、保育所・病児保育の確保である。
これらに向き合わないと、診療科目による偏在にも大きな影響が出そうだ。今こそ日本医師会の交渉力が問われている。確かに現在の医師法は昭和23年に制定されたもので、現代に適合するかは応召義務や一般労働者と同じかということも含めて議論の余地は残されている。
団塊の世代の元外科医の私にとって、月20〜25日の当直は当たり前だった(大学のduty、ICU当直、アルバイト当直、先輩からの押し付け当直、同期生からの頼まれ当直)。当直明けの翌日もフル勤務後また当直! 一人前になるには、当然だと思っていた。
その経験があったから、その後のいかなる辛さもへっちゃらだった。唯一自慢出来るのは、愚痴を言わないことだ(笑)。
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