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未来の会

「都立病院」の経営問題を考える

「都立病院」の経営問題を考える
経営委会は式は非効独法を提

慢性的な赤字を続けてきた東京都立病院も、いよいよ改革のメスを入れざるを得ないようだ。2018年1月末、都立病院の経営形態を議論していた有識者による都立病院経営委員会(委員長=大道久・日本大学名誉教授)は最終報告をまとめ、抜本的な経営基盤の強化策の検討の必要性と共に、独立行政法人への移行を促した。都は18年度からの6カ年の中期計画で最終報告を盛り込む予定とされる。

年間赤字額は400億円

 対象は八つの都立病院で、広尾病院(渋谷区、478床)、大塚病院(豊島区、508床)、駒込病院(文京区、815床)、墨東病院(墨田区、765床)、多摩総合医療センター(府中市、789床)、神経病院(府中市、304床)、小児総合医療センター(府中市、561床、小児病院)、松沢病院(世田谷区、898床、精神科病院)である。

 報告では、現行の直営方式(地方公営企業法の一部適用)は非効率として見直しを迫り、最も柔軟で都立病院にふさわしい経営形態として、独法を提言している。年間の赤字分約400億円は一般会計から繰り入れられている。救急医療はもちろん、小児や周産期あるいは感染症医療などの政策医療、救急医療、精神科医療、災害医療を維持しなくてはならないとはいえ、民間病院からすれば桁違いの赤字額である。

 少子化で生産年齢人口が減少を続ける中で、期待される役割を果たし、地域医療への貢献にも応えなくてはならない中で、経営の改善は待ったなしだ。

 厳しい経営環境に置かれているのは、どこの自治体も変わりはない。国は15年に「新公立病院改革ガイドライン」をまとめており、地域医療の中で果たすべき役割を明確にするように求めた。

 東京都もガイドラインを受けて改革に取り組んでいるが、何しろ規模が大きい中で、改革は停滞している。報告書で浮かび上がった問題点を、順に見てみよう。

 まず、医業収益を見ると、12年度以降において、収支比率80%前後、すなわち赤字経営で横ばいが続き、16年度には都の一般会計からの繰り入れが約400億円に達した。政策医療を担うという、都の言い分はもっともな点もあるが、同じく不採算な医療を担っている同規模(400床以上)の自治体病院や公的病院などと比べても、収支率は低い。

 この原因として、経営委員会では、人件費と委託費を挙げる。すなわち、職員の年齢構成・経験年数に大きな差があり、給与勧告制度の適用などの相違から、人件費が膨らんでいる。また、医薬契約の方法(単年度ないし複数年契約)や委託内容・範囲などの違いから委託費も高い。また、医療機器や資材の購入費もある。民間病院は、複数年契約による値引きなど、コスト削減努力をしている。一方、単年度契約ではそうした工夫の余地はないどころか、業者は民間で利益が圧縮された分、都立病院で挽回しようという動きさえあるという。

 経営状況を改善するための努力として、例えば、会計の特例を設けるなどして、地方公営企業法の一部適用なども行っているが、効果が十分出ているとは言えない。

 今後、少子高齢化の一層の進展により患者動向が変化し、策定された地域医療構想によって機能分化・連携が推進されるなど、医療を取り巻く環境が、より厳しい方向に想定される中で、再度の機能見直しは不可欠だろう。例えば、特定機能病院は、全国に85あるが、そのうち15が都内に存在しており、棲み分けが必要だ。

 こうして、報告では、都立病院の三つの機能として①行政的医療の安定的かつ効率的な提供②特性や専門性を生かした高水準な医療の提供③地域医療の充実への貢献を挙げている。

 一方で、高水準な医療提供のためには、機能の拠点化・集約化も必須だ。報告では、都立病院には、高度・先駆的な技術の開発・導入、チームでの患者支援、複数診療科を持つなどの総合診療基盤を活用した身体合併症患者の受け入れの推進、臨床研究の推進などに加えて、都立病院が一体となって、その特性や専門性を一層効果的・効率的に発揮し、都民に還元出来る仕組みづくりの必要性も謳われている。

 そして、これらの機能を全うするための大前提が、経営基盤の強化だ。在院日数短縮傾向を踏まえた新規入院患者獲得などにより、収益力を向上させ、8病院のスケールメリットを生かした経費の圧縮(共同購買の推進や価格交渉力の強化)のため、病院経営に必要な知識とノウハウを有する人材の育成・確保が不可欠となる。

 こうして、浮上した一般地方独立行政法人への転換のメリットは、独自の意思決定など管理者の権限強化、病院の実状に合った弾力的な人事、さらには予算単年度主義を排して経済性を発揮することが出来る、といった点にある。

強いリーダーシップは不可欠

 もちろん、経営形態を見直すだけで改善が図れるわけではないが、全国893ある自治体病院のうち、16年3月末時点で81病院が独法化された。神奈川県では、10年に県立5病院を独法化したが、赤字補塡のための一般会計からの繰り入れは、09年度の約131億円から16年度には約104億円まで圧縮された。経営が効率化され、組織運営や人事面も弾力的な対応が可能になったことが要因とされる。それ以外にも09〜13年度に独法化した49病院は、約8割で経常収支が改善した。

 一方、独法化において、最大のボトルネックと予想されるのが、職員の身分の変更で、都の場合、約7000人とされる職員が公務員でなくなることで、労働条件が悪化したり、医療サービスが低下したりするのではないかという声も、一部で聞こえてくる。

 今回の都立病院の独法化の問題は、寝耳に水といったわけではない。むしろ、都の取り組みは早く、01年、石原慎太郎知事1期目に「都立病院改革マスタープラン」が策定され、当時16病院あったのが、現在の8病院に再編された。さらに、09年度には特に専門性が高かった老人医療センター、隣接する老人総合研究所と一体として独法化され、健康長寿医療センターとなって後、医師や看護師は増員され、医業収益は92億円から130億円に増えた。そして10年前の07年度、経営委員会は独法化を提言しながら、都議会で強い反対に遭って立ち消えになっており、病院改革は足踏みしているのだ。

 都立病院の独法化は、民間病院においても、無縁ではなかろう。特に、都内の病院においては、地域の医療機関との連携や都立病院のネットワーク化の強化を速やかに行うことが求められている。そして、何より大事なことは、強いリーダーシップなしには病院が立ちゆかないことを、他山の石として学ばせてくれることかもしれない。

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