JCI認証を受けることで得られる
国際水準に達した医療機関と評価
挨 拶
尾尻佳津典・「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」代表(集中出版代表) 「JCI認証を受けた病院を取材しますと、『想像以上にハードだった』『先行して取得した医療機関にアドバイスしてもらった』というのが共通した話でした。そこで、今回は日本で最初にJCIを取得した亀田メディカルセンターのお話を伺うことにしました」
原田義昭・「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」国会議員団会長(自民党衆議院議員) 「この勉強会も20回目です。今回はJCIについて、貴重なお話を伺います。JCI認証受けるまでにはいろいろなご苦労があったと思いますが、それが多くの方々の参考になり、ヒントになるだろうと思っています」(ビデオによる挨拶)
◆JCI認証を目指した背景
亀田メディカルセンターを構成する亀田総合病院と亀田クリニックは、日本で最初にJCIの認証を受けました。その後、東京・京橋にある亀田京橋クリニックも加えて、JCIの認証を受けています。
最初に認証を受けたのは2009年ですが、その数年前まで、私はJCIの存在を知りませんでした。ただ、アメリカの医療施設認定合同機構のJCAHO(Joint Commission on Accreditation of Health-care Organizations)の認証を目指したことはありました。
JCAHOは1950年代から、アメリカの医療機関の安全性などをチェックしていて、これを受けていないと、保険会社からの支払いがスムーズにいかなかったりしたため、アメリカの病院の多くはJCAHOの認証を受けていました。
我々がJCAHOの認証を目指したのは、米軍病院との関係があったためです。亀田総合病院はハワイから米国籍の副院長を招き、その医師を通じて神奈川県横須賀市の米軍病院と交流があり、米軍病院から患者が送られてくるようになったのです。
横須賀の米軍病院は小さな病院で、扱える疾患が限られていたため、それまではフィリピンかハワイの米軍病院に患者は送られていたのですが、千葉県鴨川市の亀田総合病院なら横須賀からヘリコプターで15分の距離です。アメリカ国籍の医師もいるということで、たびたび患者の受け入れを行っていました。
それをきっかけに、周辺のアメリカ人の受診が増え、アメリカの民間保険を扱えるようにしました。そして、アメリカの保険会社から支払いを受けるなら、うちもJCAHOの認証を受けた方がいいだろうということになったのです。
しかし、残念ながら、これは断られました。JCAHOは北米の病院と、世界に展開する米軍病院の審査はするが、それ以外はしないということだったのです。
その後、JCAHOがJC(The Joint Commission)に変わって、そのインターナショナルバージョンが、1998年に作られました。それがJCIです。亀田メディカルセンターが認証を受けたのは2009年ですが、それを目指して活動を始めたのは2006年頃です。
JCIを取ろうと思った理由は二つありました。
一つは、国際化を目指す必要があったからです。日本の人口減少を考えた場合、グローバルな病院に育てていかなければ、生き残れないと考えたのです。
もう一つは、インターナショナルバージョンを日本の病院が取得していないと、日本の医療がガラパゴス化してしまう危険性があると考えたからです。世界の国々から日本の医療は特別だと見られてしまうのはまずいのではないか、と考えました。それで、JCI認証を目指すことにしたのです。
◆JCI認証の特徴と評価方法
JCIとは、「患者安全」や「医療の質と改善」など、認定基準となっている1202項目を満たしている医療機関に与えられる認証です。現在は世界68カ国の約1000の医療機関が認証を受けています。日本では24の医療機関が認証を受けています。
JCI認証を受けるのは大病院だと思っている人もいますが、それは誤解です。JCI認証には「病院」「大学付属病院」「外来診療」「在宅診療」「検査機関」「長期ケア」「医療輸送」「初期診療」「臨床診療」など、いろいろなプログラムがあります。外来だけのプログラムでも受けられますし、在宅診療や検査機関でも受けられるのです。
JCIの評価基準は14の章に分かれていますが、その中で最も重要なのが「国際患者安全目標(IPSG)」です。この章にクリア出来ない項目が一つでもあると、再審査になってしまいます。審査するのは全部で1202項目。それをクリア出来て認証が受けられることになります。
審査期間と審査内容は、医療機関の規模や事業内容によって異なります。審査チームは、一般的には医師1名、看護師1名、事務管理者1名で、これより増える場合もあります。この審査チームが数日間にわたり、朝から晩まで審査を行います。亀田メディカルセンターの場合、5〜6人の審査チームが4〜5日間審査を行いました。
◆JCI取得までの苦労
JCIの認証を受けるために、まず取りかかったのは、取得のためのガイドを和訳することでした。我々が日本で最初でしたから、日本語で書かれたものは全くなく、全てが英語です。当時でも、亀田メディカルセンターの職員数は二千数百人で、全ての職員にJCIが何であるかを理解してもらわなければなりません。どうしても和訳が必要で、それにかなりの時間を取られました。
JCIの審査には、トレーサーと呼ばれる患者追跡調査があります。患者が来院してから退院するまでの治療内容や記録などを、全てレビューする審査です。
患者のカルテをチェックする他、治療に関わった職員への質問、使用した器材の確認など、審査は多岐にわたっています。決められていることが、その通りにきちんと行われているのかをチェックするのです。
そのため、JCI認証について、ある医師だけが詳しくても駄目なのです。一連の流れの中で、誰が質問されるか分かりません。通訳は付きますが、全ての職員がJCIを理解している必要がありました。
審査の過程で困ったのは、文化の違いともいうべき問題でした。例えば、「この医師は本物の医師なのか証拠を示せ」と言われます。運転免許証には顔写真があるので本人と分かりますが、医師免許には顔写真がありません。看護師に関しては免許もなく、証明しようがありません。
日本にいると、なぜそんなことが重要なのか不思議ですが、当時インドでは医師の半数がニセ医者なのだという話でした。世界の各国で審査するためには、医師が本物であると証明する必要があったのです。
◆JCI取得後の職員の変化
JCIは3年ごとに更新する必要があります。そのためには、3年おきにバタバタするのではなく、普段からの継続的な取り組みが必要になります。それをやるのは現場で働いている人達です。
例えば、亀田メディカルセンターで病院内を改装するような場合、そこで働いている職員たちの間で、「感染管理の観点からこれでJCIの審査を通るだろうか」という話になります。病院の全ての職員が、そういうことを考えるようになっているのです。JCIを取得し、それを更新するために日々取り組んでいく中で、自然に医療安全に目が向くようになったといえます。
今後のことを考えた場合、JCIを取得したからということではなく、医療の国際化には取り組んでいかなければならないと考えています。今後、日本の人口は減少していき、数十年後に半減することは避けられません。今後しばらくは医師不足の状態が続きますが、20〜30年のうちには、医師過剰時代を迎えます。その時代のためにも、日本の医療が海外進出するためのルートは作っておく必要があると思っています。
亀田メディカルセンターは、JCIの評価基準の活用と、3年ごとの審査チームとのディスカッションを通して、世界基準の医療の質を維持していくことに努めています。
尾尻:「JCI取得までの準備期間は3年だったようですが、専任の職員を置いたのですか」
亀田:「思い立ってから3年ということで、具体的な準備を始めてからはそんなにかかっていません。初めてJCIの認証を目指した時は、経営企画部の2人の職員と、アメリカとの保険の交渉などをしてもらっていたジョン・ウォーカー氏を中心にして、この3人には専従のような形で取り組んでもらいました」
尾尻:「日本で2番目にJCI認証を受けたNTT東日本関東病院では、どうだったのですか」
落合慈之・NTT東日本関東病院名誉院長:「亀田メディカルセンターから1年半ほど遅れて認証を受けました。亀田先生にはいろいろ教えて頂き、ジョン・ウォーカーさんにも来て頂いたりしました。私達もガイドを日本語訳するところから始めました。JCI認証を受けるために最も重要なことは、職員の一人一人が、日々きちんと医療安全などについて考えていることだと思います。準備期間は、うちの場合は半年ほどでした」
井手口直子・帝京平成大学薬学部教授:「認証を取ろうと取り組むことで、結果的にスタッフのモチベーションや誇りに繋がっていくということが、よく分かりました。質問が二つあります。一つは、トレーサーの患者さんはどのように選ばれるのか、ということ。もう一つは、日本の医療には違和感がある審査項目があったかどうか。あったとしたら、どのようなものだったのでしょうか」
亀田:「トレーサーを行う患者は、審査チームがアトランダムに選んでいます。手術のあるケースやないケースなど、ある程度バラエティーがあるようにしているようです。もう一つの質問ですが、どうしようもなかったのは、初回審査時には、看護師や技師の資格が有効かどうかの証明をする術がなかったことです。NTT東日本関東病院ではどうでしたか」
落合:「医師の免許はいくらでも偽物が作れるので、証明したことにならないと言われました。仕方なく大学から卒業証明書を取り寄せ、医師の医籍登録を照会して作りました。看護師に関しては、それも出来ないので、学校に問い合わせて卒業生であるという証明書をもらいました。それで十分だとは言われていませんが、日本の事情だとして、少し緩くなっているのかな、と思います」
加納宣康・医療法人沖縄徳洲会千葉徳洲会病院院長:「亀田総合病院に20年間いまして、JCIの取得も内側から見てきました。私自身は見ていただけですが、それでも大変であることはよく分かりました。認証された時は、本当にうれしく思いました。千葉徳洲会病院の院長をやっていると、『JCIを取りたいでしょうね』とよく言われますが、苦労を知っているだけに、『俺が院長の間は取らなくていい』と言っています(笑)。ただ、亀田総合病院が先頭を切ってやったおかげで、日本の医療にいろいろな波及効果があり、全体のレベルを上げるのに貢献してくれたと思っています」
瀬戸晥一・一般財団法人脳神経疾患研究所附属総合南東北病院・南東北グループ顧問:「日本の保険会社はJCIには全く関心を示しませんが、これはなぜでしょうか。また、南東北病院は陽子線治療やBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)を備えており、がん医療の先端を走っているつもりです。この部分だけ分離してJCIの認証を受けることは可能でしょうか」
亀田:「日本の保険会社が関わろうとしないのは、混合診療が禁止されているからでしょう。これさえ認められれば、熱心に取り組むと思います。現状では、ほとんどが保険診療を優先させなければならず、保険会社の入り込む余地は極めて少ないわけです。もう一つのご質問に関しては、病院全体でなくても、粒子線治療部分を切り離して認証を受けることが、話し合いで可能だと思います。」
尾尻:「JCIの基準がアメリカ基準になっているという点について、真野先生はどうお考えでしょうか」
真野俊樹・多摩大学大学院教授:「亀田先生の講演にもあったように、アメリカの基準でやっているのはJCです。インターナショナルバージョンのJCIは、各国の法律などにある程度合わせるので、アメリカと一緒というわけではありません。私が気になるのは、JCIと日本医療機能評価機構の評価の違いです。その点についてお聞きしたいのですが」
亀田:「医療機能評価機構も以前は取っていましたが、うちはISOもJCIもあるので、それ以上取ると年がら年中審査になり、負担が大き過ぎるので、現在はISOとJCIだけです。医療機能評価機構の評価も、内容はかなり近くなっていると思います」
草野敏臣・ミッドタウンクリニック理事長:「東京ミッドタウンクリニックも2015年にJCIを取得し、先週、2回目の審査を終えたところです。うちも外来部門と同じフロアに歯科と形成外科がありますが、これを切り離して認証を受けています。JCI認証に当たって当院が苦労したのは、常勤医師は十数人ですが、非常勤医師が100人もいる点です。その人達の資格証明に大変苦労しました。非常勤医師の多いクリニックがJCI認証を目指すのであれば、準備をしておいた方が良いと思います」
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