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第111回 テレビのイメージ合戦で占う総裁選の行方

第111回 テレビのイメージ合戦で占う総裁選の行方

 久々に衆院選、参院選、統一地方選といった「大型選挙」のない今年、東京・永田町の話題の中心は安倍晋三首相の自民党総裁3選と、それと密接に関わる憲法改正手続きの行方である。総裁選の前哨戦はSNS時代に合わせたイメージ合戦だった。人気タレント・出川哲朗の質問にうんちくを傾けた石破茂元幹事長に対し、安倍首相は大御所・ビートたけしのバラエティー番組で愛嬌を振りまいた。党員、支持者の「いいね!」獲得を目指し、序盤の攻防が始まっている。

安倍・たけしvs石破・哲朗、勝敗は?

 「バンカーから出ようとして転がって、その後、すっくと立った。で、何事もなかったように出て行った。これ、BBCで放送されたんです。その後、APEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議に行ったら、首脳達が言うんですよ。『安倍さん体が柔らかい』って。それで、トランプ大統領が皆の前で『安倍さんは素晴らしいゴルファーだけど、体操選手としても一流だ』と。『この柔軟性はすごい』と言われたから、(私も)『外交は柔軟性ですよ』と」

 正月3日に放送されたビートたけしの番組。安倍首相は日米首脳ゴルフで派手に転んだ話の顛末を語り、スタジオの爆笑を誘った。バンカー内で一回転し、何事もなかったように立ち上がったシーンはネットでも注目されたが、APEC首脳会議の席で、これを逆手にとって「外交は柔軟性」と切り返した裏話は、視聴者に好感を持たれたようだ。

 番組はたけしが突っ込み、安倍首相がかわしたり、ボケたりするスタイル。視聴者には、きさくで飾らない人柄と映ったようで、党内の評判も上々だ。自民党若手が語る。

 「右派で攻撃的なイメージが定着しつつあり、心配していたが、今回の番組で、幾分解消出来たんじゃないかな。フィギュアスケートが好きで、浅田真央ちゃんのインスタをフォローしているというのも良かったね」

 一方、石破元幹事長が出演したのは「出川哲朗のアイ・アム・スタディー」というバラエティー。2015年には抱かれたくない男性タレント

No.1だったのが、今や視聴率を最も稼げるタレントとなった出川の冠番組だ。世事に疎い出川が専門家に素朴な疑問をぶつけるという趣向で、石破元幹事長は先生役として登場した。お題は「Jアラート(全国瞬時警報システム)」。のっけから「新しくできたジェラート」と語る出川に、石破元幹事長は「日本の将来は大丈夫ですかね」とぼそり。石破元幹事長から説明を受けた出川から「(Jアラートという言葉は)難しいですね、もうちょっと分かりやすく『日本警報』の方がおじいちゃん、おばちゃんも分かるんじゃないですかね」と向けられ、「うん、まあ考えます」と応じた。

 注目されたのは、次の遣り取りだ。

 石破元幹事長「ミサイルが撃たれてすぐに鳴らすので、撃たれた段階では正確にどこに落ちるかが言えないんですね。正確じゃないよねってご批判は頂いているんです」

 出川「そんな小さな批判気にしないでいいですよ。ほとんどの人達は『Jアラートしてくれてありがとう』って思ってますから」

 石破元幹事長はしばしばシステム運用の問題点を取り上げ、安倍政権の対応を批判してきた。今回もその文脈に持ち込もうとしていたようだが、出川の対応で政権批判の機会を逸してしまった。システムの運用には確かに問題があるのだが、「やってくれてありがたい」という出川の素朴な発言に二の句をつげなくなったのだ。

 ネットの反応は「出川が言っているのが普通の感覚」「あの場で政権批判を持ち出そうとした石破をイノセントな出川の発言が封じた」と石破元幹事長に批判的な声が多かった。党内の評価もいまいちだ。安倍支持派でも石破支持派でもない中堅議員はこんなことを言っている。

 「石破さんは出川のキャラクターを見極めて言い方を変えるべきだったのに、『俺は詳しいんだ』という軍事おたくの部分ばかりが出てしまった。相手に真意を伝えることより、自分が伝えたいことを優先するような態度だから、せっかくバラエティーに出たのに好感度は上がらなかった。年末年始のイメージ合戦は安倍さんに軍配だな」

 批判する者には目をむいて怒りを露わにする安倍首相の態度はしばしばメディアの批判を招くが、応えたくない質問には呼吸を置き、すかしたり、ボケたりしたりする芸当も身に付けている。一方の石破元幹事長は何事にも精一杯のうんちくを傾け、筋を通そうとする性癖がある。専門家同士の議論なら、それは美点にもなるのだが、時として、相手に合わせる柔軟性が欠けているとの批判も招く。自民党幹部が語る。

 「森友・加計問題で野党から追及された安倍首相は『印象操作は止めろ』と盛んに抗弁したが、今回の総裁選はその『印象操作』が重要なカギになるんじゃないかな。安倍首相はかなり巧みだ。バラエティーで憲法改正の話は持ち出さないしね。石破元幹事長は、論争は巧みだが、共感を広げる技術は拙い。近視眼的なんだな。国民の目にどう映るかという観点が足らない。9月までに、その辺を改善出来るかどうかだな」

 この自民党幹部は、総裁選は安倍首相と石破元幹事長の事実上の一騎打ちになると予想している。

「キーマンは岸田文雄政調会長だ。ただ、立ち位置は難しい。安倍首相からの禅譲を期待して、今回、立候補を見送れば、次は専門筋に評価の高い河野太郎外相や人気者の小泉進次郎副幹事長との勝負になる。世代交代が絡む総裁選だから、どちらかと言えば、旧世代の岸田政調会長は悩ましい。安倍首相と連携を取りながら、出馬する場合だが、石破元幹事長に負けるようだと、お先真っ暗だ。野田聖子総務相は支持基盤が出来ていないし、小池百合子東京都知事の衆院選での失態で、女性ブームにも陰りが出てきた。結局、大本命・安倍と穴馬・石破の一騎打ちじゃないか」

参院選前の「改憲」発議なら混乱も

 大本命と目される安倍首相だが、悲願の憲法改正への道のりには、もやがかかった状態が続いている。自民党憲法改正推進本部の改憲案策定が遅遅として進まない上、昨年秋の衆院選で6議席を失った公明党が改憲への消極姿勢を強めているためだ。

 何とか党内調整を終えたとしても、来年の参院選で改憲発議に必要な3分の2の勢力を維持するのはかなり難しいとみられており、党内では参院選前の「発議」を模索する動きがある。ただ、こうした動きは、党内の反安倍勢力を刺激し、総裁選に影響する可能性も出てくる。

 「過去には、大差を付けて逃げた大本命がいきなり予後不良になったGIレースもあった。9カ月は案外長い。総裁3選、言うは易く、行うは難し。一日一日が大切だ」。自民党長老はそう言っている。

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