有料職業紹介所の問題点も顕在化
より良い医療を提供するためには看護職員の力が不可欠である。しかし、看護職員が全国的に不足していると言われながら、有床・無床診療所を対象にした雇用状況の調査と対策は行政でもほとんど取り組まれていない。
現状を直視しようと、全国保険医団体連合会(保団連)は2017年7〜8月、全国の無床診療所と有床診療所を対象に「診療所における看護職員確保アンケート」を実施(有効回答数1953)、17年12月のマスコミ懇談会で中間報告を公表した。
有床診は日常的に看護職を募集
看護職員の雇用状況については「足りていない」という回答が、有床診で40.4%、無床診で21.5%あった。保団連は「この数値は調査時点での充足状況であって、1年を通して見れば、さらに多くなるのではないか」と分析する。
募集状況に関しては、有床診で47.7%、無床診で20.5%が「募集している」と答えている。有床診では看護職員が「足りていない」と回答した比率を上回る数字となっている背景として、保団連は「日常的に看護職員を募集せざるを得ない状況にある」と推測する。
募集する看護職員については、有床診が「新卒・既卒に関係ない」(63.2%)としているが、無床診では「経験ある看護職員」を望む比率が高い(54.0%)。
募集方法・効果を見ると(以下、複数回答)、診療所全体では「職員からの紹介」が54.3%と最も高い。次いで「ハローワーク」(51.5%)、「有料職業紹介所」(42.1%)、「新聞やタウン誌など」(28.3%)が続く。この順番は有床診・無床診別に見ても同じである。
看護職員を定着させるための対策と効果としては、診療所全体では「有給休暇の確保、残業縮小」(59.9%)でトップ。他には「業務外での親睦」(56.3%)、「近隣と同水準以上の賃金」(55.6%)、「会議で職員から意見を聞く」(53.5%)なども定着率を高めている。自由記載では「院長の魅力を磨いている」という回答もあった。医師の人間性も重要そうである。
また、定着対策で必要なこととして、診療所全体で「診療報酬の引き上げ」(63.7%)、「保育所増設や保育料の公的補助」(55.8%)、「無料職業紹介事業の充実」(52.1%)などが挙げられた。この他、「看護職員の偏在解消」「看護業務の見直し」「看護学校の増設や定員拡大」などを求める声も寄せられた。准看護師の養成拡大や7対1看護への規制強化の必要性を指摘する意見もあった。
利用している募集方法として3番目に多かった有料職業紹介所だが、自由記載からいくつもの問題点が明らかになった。特に多かったのは「紹介手数料が著しく高い」という指摘。紹介所の手数料は、紹介した看護職員の年収の20%が相場で、紹介所を利用した診療所が支払った1年間の手数料平均額は89万円に上った。
他にも「短期間で職場を転々とさせ、仲介料を稼ぐ業者がいる」「紹介する看護職員の身元確認がいいかげん」「仲介料などの条件が看護職員に知らされていない」「ハローワークに求人を出している診療所に、ファクスや電話でしつこく売り込む」といった指摘があった。
また、携帯電話を使って簡単に就労斡旋する有料職業紹介所が増えたことで、ハローワークやナースバンクの利用者が減り機能しなくなってきているという報告もあった。
簡便な就労斡旋により、転職への抵抗感が少なくなっている看護師の中に、診療所を転々としているケースが増えているという。しかし、転職を繰り返すことが看護師としてのスキルアップに繋がらず、メンタル面での不調に陥る場合もあるようだ。自ら転職先を探さないため、就職しても愛着が生まれにくい状況が、定着を難しくしている点も自由記載で指摘されていた。有料職業紹介所への規制を求める意見もあった。
18年1月から施行された改正職業安定法に対して、保団連は「手数料の規制がない」「手数料返戻金制度は『望ましい』規定で有効性が乏しい」「ハローワークの求人情報を入手し、事業者に紹介斡旋する迷惑行為への規制がない」などの問題点を挙げた。また、「無期雇用契約者に2年間は転職勧奨を行わないとあるが、有効性が乏しい。就労中の職員への連絡そのものを規制すべき」との意見も述べた。
看護職の養成・就労支援が喫緊の課題
厚生労働省が推計した「2025年に必要な看護職員数」は約200万人。年間3万人ぺースで増加しても、約190万人にしかならず、約10万人不足する。このような状況にアンケート結果も踏まえ、保団連は17年11月、政府に対して要望書を提出した。
看護職員の不足の実態、有料職業紹介所の問題点を指摘するとともに、アンケートで回答の多かった項目を説明。政府に対して、①診療報酬を大幅に引き上げること②看護職員の就労支援を行うこと③無料職業紹介所を充実すること④看護学校への国庫負担の創設、学費免除や就学援助金の拡充、看護学校の増設や定員拡大を行うこと⑤看護職員の偏在解消、看護業務の見直し、簡素化を図ること──の5項目を要望した。
25年までに構築を目指す地域包括ケアシステムにおいて、診療所は地域医療を支える重要な担い手の一つである。そこでの看護職員の確保は切実な問題であり、早急な対応が望まれる。
有床診は年間約400施設、多い時には約900施設が減少する中、日本医師会(日医)も17年8月、全国有床診療所連絡協議会会員を対象に、「有床診療所の現状調査」を実施(有効回答976施設)。
有床診が地域包括ケアシステムで果たしている役割を聞くと、「専門医療を担う」「大病院の後方支援」「中小病院の後方支援」などの回答があった。
また、有床診が地域包括ケアシステムの中で機能を果たすための課題を尋ねたところ、「看護職員の数が不足している」という回答が最も多く、続いて「介護職員の数が不足している」「地域連携を行うスタッフがいない」「医師の数が不足している」などが挙げられた。
日医は今年1月9日の記者会見で公表した「平成29年度有床診療所委員会答申」の「看護職員不足への対応」の中で、有料職業紹介所の問題点を挙げるとともに、利用する場合は少なくとも払戻金制度の有無や、早期離職者数を調べた上で判断する必要があると提案している。
また、15年から始まった看護職員の離職時の届出制度と、ナースセンター事業の周知・拡充は、将来の看護職員確保の打開策になると指摘。都道府県医師会と都道府県有床診療所協議会が連携し、ナースセンター事業を支援していくことも重要であると述べている。
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