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未来の会

第94回 ベルソムラでカタプレキシー誘発

第94回 ベルソムラでカタプレキシー誘発

 前回、不眠は主観であり、睡眠時間が短い=睡眠不足(睡眠負債がある状態)とは異なること、睡眠不足は害があるが、不眠の人はむしろ長生きであること、睡眠剤(睡眠導入剤)を服用すると、うつ病や事故、依存症、感染症、がんを誘発し、死亡の危険度が2〜4割増加することを述べた。

 薬のチェックTIPでは、74号(2017年11月発行)でベンゾジアゼピン剤とは機序の異なる新しい睡眠剤スボレキサント(商品名ベルソムラ、MSD社製品)についての評価を行った。その概要を紹介する。

スボレキサントの効果はわずか

 スボレキサントは、「不眠症」を適応に14年11月に承認発売されたオレキシン受容体拮抗剤である。臨床試験ではプラセボに対して優越性が証明されたとしているが、その効果は、臨床用量を3か月継続して、主観的睡眠潜時が5.2分間短くなり、主観的総睡眠時間が10.7分長くなった程度である。つまり、プラセボより5.2分早く寝つき、10.7分長く睡眠出来たという程度の効果であった。

オレキシンは、生体防御反応の要

 オレキシンは、視床下部に存在する神経細胞から分泌される脳内物質である。単なる覚醒作用だけでなく、外界からのストレスなどに反応して、生体を防御するために必要な行動や自律神経機能を一斉に生じさせるマスタースイッチの役割も果たしている。また、正常細胞を増殖させる一方、腫瘍細胞に対しては増殖抑制作用があるというように、生体の防御、正常機能の維持に非常に重要な役割を持っている。従って、その拮抗剤は、様々な害を起こすことが容易に推察出来る。

血中濃度が持続し、日中も作用する

 スボレキサントの最高血中濃度到達時間(Tmax)は1.5〜3時間、半減期は10〜11時間である。日中も高い血中濃度が持続する。毎日服用すると、14 日間使用後の日中の血中濃度は、服用初日の夜間の血中濃度にも等しい濃度となる。臨床試験で、昼間の眠気、記憶障害、疲労、睡眠時随伴症状(悪夢や夢遊症など)、ナルコレプシー様症状(情動脱力発作や入眠時幻覚、睡眠時麻痺)、自殺念慮が用量依存的に増加していた。

臨床試験死亡例はカタプレキシーが強く疑われる

 海水浴中に溺れた3日後に、低酸素性虚血性脳症により死亡した40歳女性について、メーカーは関連を否定しているが、溺れそうになり強い情動刺激で脱力発作(カタプレキシー)が起こり、泳ぐことも呼吸も困難となり死亡した可能性がある。因果関係は強く疑われる。スボレキサントが投与された犬が、特別食を与えられ、カタプレキシーを起こしている。

免疫抑制、発がん性、個人差にも要注意

 スボレキサントの正常細胞機能の低下、増殖抑制、免疫抑制、腫瘍増殖などの可能性について、今後も監視が必要である。また、CYP3Aで代謝されるため、代謝の遅い人では害が出やすく、CYP3Aで代謝される他の薬剤との併用は危険である。

結論

 「不眠」は睡眠不足と異なり害はない。スボレキサントは、死亡に繋がる重大な害を含め様々な害があり、使用すべきでない。

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