時代を変革するAIの最新手法を
医療分野で活用するために必要なこと
尾尻佳津典・「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」代表(集中出版代表) 「最近、私もAIに関する本をいろいろ読んでいるのですが、その中に気になった内容がありました。AIには『強いAI』と『弱いAI』があり、弱いAIと組んで仕事をした企業は、その数年後には、悲惨な目に遭うことになるというのです。AIについて学ぶことの必要性を強く感じました」
原田義昭・「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」国会議員団会長(自民党衆議院議員)「大変難しい分野だと思いますが、最近はAIの必要性が明らかになってきて、この流れに乗り遅れてしまうと、産業や経済のみならず、国全体がどうなるか分からないという状況になっているようであります。皆様がAIをうまく取り入れ、ご活躍されることをお祈りいたします」
◆予防医学へのAIシステム導入イメージ
予防医学に必要なのは、定期的な診断で患者の状況を把握することと、アドバイスによって患者に行動変容を促すことです。ただ、全ての人にこれを実施し続けることは、医師の数などから考えても不可能です。しかし、定期的な状況把握と改善行動の提示を、AIで自動化することが出来れば可能になります。データさえ蓄積可能なら、人間に変わってAIが行うことが出来るのです。
AIがカバー出来る予防医学の範囲は、AIが優秀であれば、データを蓄積するほど広がっていきます。予防医学に必要なデータは、ウェアラブル(身に付けて持ち歩くことが出来るコンピュータ)機器で取得可能なデータと、カメラやマイクやセンサーで取得可能なデータの2種類あります。前者には、心拍数、血糖値、呼吸数、体脂肪率、走行距離、歩数、睡眠時間、視野、瞬きの回数などがあります。後者には、動作、姿勢、音声などがあります。
予防医学AIは、病気の予兆の早期検出だけでなく、地域全体の病気の予測や生活習慣病の地域特性なども発見する可能性があります。特にウェアラブル機器による情報が多く集まる場合は、生活習慣病を発症する人が、どのような食事や行動をするのか、どのような身体特性があるのかを、AIが知ることになります。
予防医学では、行動変容をどう促すかが大きなテーマになります。新しい行動を習慣化させるのに活用出来るのがゲーミフィケーションです。ゲームの要素を入れることで、楽しみながら行動変容プログラムを実行出来ます。AIを使うことで、ゲームの内容を個人に合わせることも可能です。
ウェアラブル機器で取得出来るデータや、カメラやマイクで取得出来るデータにDNA情報を加えることで、その人が将来どのような病気になりやすいのか、高精度に予測出来る可能性があります。
予防医学にAIが利用されるようになると、その延長線上に介護福祉のAI化が見えてきます。さらに、訪問医療や訪問介護まで包括することが出来るでしょう。また、遠隔地にいる患者に対する医療行為も、AIの力を借りることで可能になるかもしれません。遠隔医療が実用化すれば、この仕組みを国内だけでなく、海外に広げることもできるようになるでしょう。日本の質の高い医療を世界中に提供出来るようになると考えています。
◆予防医学へのAI活用の提案事例
予防医学にAIを活用している海外の事例を紹介します。
・海外事例① 階層化病態分類の自動化
膨大な量のカルテが書かれていますが、その約80%が利用されていません。この状況を改善するため、カルテを一定の形式に直して、データベースとして保存します。
・海外事例② 睡眠状況のモニタリング
睡眠のモニタリングを自動化し、レポートを書くのも自動化して、これをAIに蓄積させ、睡眠について研究させます。睡眠段階、呼吸の状態、足の動きなどの検知も行います。
・海外事例③ 服薬のモニタリング/リマインド
服薬時刻になると患者にリマインドし、患者は服薬時の動画をスマートフォンで撮影し、それをクラウド上のAIに送ります。AIは患者の顔識別を行い、薬の種類や量をチェックします。そのデータはレポート化されて医療機関に送信されます。
・海外事例④ 関節置換手術前後のリハビリサポート
数百の患者データと、機械学習に基づくプログラミング作成アルゴリズムにより、患者一人一人に最適なリハビリプログラムを作成します。
・海外事例⑤ サプリのレコメンド/販売
質問に答えてもらい、その結果から、その人に適したサプリメントをレコメンドします。データが蓄積されていくに従って精度が高くなります。
・海外事例⑥ 治療薬となりうるペプチドの特定
特定の病気の治療に有効な分子の組み合わせを、食品の中から検出します。新薬開発の補助的な役割を果たします。
・海外事例⑦ 同程度の病気リスクのある患者をグルーピング
リスク要因を共有する患者の集団を作り、トポロジカル・データアナリシスという新しいアプローチ方法で膨大なデータを分析し、将来の病気になるリスク、医療費などの予測に役立ちます。
・海外事例⑧ 医療データ管理用プラットフォーム
健康に関するデータを個人が管理出来るプラットフォームを提供します。データを理解しやすい見せ方にして提供することで、人々が健康のためにより適切な行動を取れるようになります。
・海外事例⑨ 胎動のモニタリング
胎動のデータを取得出来るウェアラブル機器をお腹に貼り、そのデータがスマートフォンやPCに送られてきます。胎児の健康状態を予測し、アドバイスすることに利用されています。
・海外事例⑩ トレーニング/ダイエット/リハビリのサポート
動作、心拍数、消費カロリーなどが測定出来るウェアラブル機器でデータを集め、AIがトレーニングや食事やリハビリについてレコメンドします。アスリートのトレーニングにも活用出来ます。
以上が、予防医学に関する主な海外事例です。国内事例は見つかりませんでした。
◆AI技術の詳細
機械学習とは、機械が何かを賢く学ぶための方法論の一つです。機械学習をするには、「どんなところに注目したらよいか」という「特徴量」を人間が決め、データを集めます。そのデータから何かしらを機械が自分で発見し、自分で学習していけるというのが機械学習の基礎技術です。
学習方法には、入力と出力の関係から学ぶ「教師あり学習」と、出力(正解)がないのでデータの構造や関係性を調べる「教師なし学習」とがあります。教師あり学習では、正解があるので、予測が間違っていたら修正するということを繰り返します。
得られるデータから新しい特徴を出させようという場合には、ニューラルネットワークという技術が必要になり、脳科学的アプローチの方向に進んでいきます。多層ニューラルネットワークは、脳の神経回路のようにネットワークが構築され、そこに電流が流れて情報処理を行います。まさに脳のように働くのです。
ディープラーニング(深層学習)は、サイエンスもプログラミングも出来る人材でないと作ることが出来ません。日本の会社があまり成果を出せないでいる理由がここにあります。数理問題を扱うデータサイエンティストとプログラミングを行う人の間に溝が出来てしまうのです。9DWでは、AI開発者とは、サイエンスが出来、プログラミングも出来る人であると定義していて、そういう人しか採用していません。だから、AIの開発が出来るのです。
◆これから求められるAI技術
今後、あらゆる分野で、AIシステムが既存のシステムを改革していきます。それにより、人間は人間がやるべき仕事をすることになります。医師の仕事であれば、初期問診や事務的な書類を書く仕事などは、AIが自動的に処理し、医師は人間らしい仕事に時間を使えるようになります。
それを実現させるのが汎用性AIです。これは人類最後の発明になると考えられています。なぜなら、汎用性AIは人間と同じような知性を持つようになり、このAIが新しい技術を開発することになると考えられるからです。だからこそ、汎用性AIは、軍事産業がない世界唯一の国である日本で開発されるべきです。このシステムで実現されるべきは世界平和で、戦争の兵器として利用されることがあってはなりません。だからこそ、世界に先駆けて、この日本で平和利用を前提としたAIを開発することが急務であると考えています。
尾尻:「海外のAIは日本語が出来ないのですか」
井元:「日本語の精度は非常に低いはずです。医療ではWatson(IBMが開発した質問応答システム・意思決定支援システム)が診断に手を付けていますが、日本に広がってこないのは、英語は出来ても日本語が出来ないからです」
高久史麿・地域医療振興協会会長:「医師の超過勤務が問題になっていますが、AIを使うことで解決出来るのではないかと思います。その時、費用の問題はカバー出来るでしょうか」
井元「単一の病院から依頼があってAIを開発した場合は、それなりの額の費用が発生します。病院の人件費を削減出来ても、開発費を賄えるのかという話になります。我々は医療分野のジョイントベンチャーを立ち上げました。AIの開発はそちらで行い、病院は我々のサービスに接続して働き方に関するアシストを受けるという形なら、病院にとって大きな負担にはならないでしょう」
鈴木昭・医療情報推進機構理事長:「医療にAIが導入される時代になった場合、病院はどのような人材を採用するとよいでしょうか」
井元:「病院がAIシステムの運用を行うのであれば、特殊な能力が必要かもしれません。しかし、例えば問診を自動で行うAIが出来、それを導入するという場合、AIの運用は運用会社に任せ、病院が特殊な技術者を抱えなくても良い形になるでしょう」
齋藤淳・ジョンズホプキンス大学精神医学リサーチアソシエイト:「強いAIは個人を理解していくという話でしたが、データ解析を依頼した人物をAIが理解していき、この人ならこのデータをもらうとこう判断するだろうと予測して、データの一部を出さないとか、そういうことをするようになる可能性はありますか」
井元:「開発者がそういう機能を入れるかどうかという問題です。AIは知的なシステムですが、それを知性と勘違いされ、意思が生まれるのではないか、と考えられることがよくあります。しかし、これはシステムであって、意思が生まれることはありません」
猪俣武範・順天堂大学医学部眼科学教室医学博士:「AIが医療に導入されると、医師がAIを使いながら医療を進めるハイブリッドの時代が来ると思っています。その場合、法的責任がどこにあるかが重要な問題になると思いますが」
井元「法整備がなされていないので、開発する側は、最終的には人間が判断するという形のシステムを設計せざるを得ません。ハイブリッドで手術する場合でも、法律上は人間が執刀することになります。最終的にどこをどう切るかは、医師の判断に委ねられるという設計にする必要があるのです」
服部智任・社会医療法人JMA海老名総合病院病院長 :「汎用型AIが出来ると、労働力は少なくて済みそうです。急性期病院は人を多く採用していますが、かなりの人が不要になるのでしょうか」
井元:「我々は歯科技工士の代わりに歯をデザインするAIを開発しましたが、歯科技工士がいなくてもよくなったわけではありません。CADシステムを使う仕事が簡略化されただけなのです。結局のところ、仕事は減らなし、奪われないと思います」
長堀薫・横須賀共済病院病院長:「AIがCT画像診断のようなパターン認識が得意だとしたら、皮膚科の診断や病理診断にも応用可能ではないかと思います。その場合、放射線科の医師や病理の医師は、AIで置換可能なのでしょうか」
井元「皮膚科の診断や病理診断にAIを利用することは可能です。ただ、医師をAIに置換出来るということにはなりません。診断に自信が持てない時に、他の医師とディスカッションしたりすると思いますが、そのディスカッションの相手がAIになるということです。そのため、放射線科医や病理医が診断可能な症例数が飛躍的にアップする、という変化が起こるのだと考えてください」
名和利男・サイバーディフェンス研究所専務理事・上級分析官:「私が専門とするサイバーセキュリティの分野では、アメリカにおいてサイバー防御にAIの活用が始まっています。現在は人間が攻撃を行っていますが、攻撃にAIが使われると、人間では太刀打ち出来ないような気がします。そうした場合、防御側もAIを使うということになるのかと思っています。そういった未来像、AI対AIの戦いとして、どのような姿が考えられますか」
井元:「攻撃側が人間で、防御側がAIだったとしても、防御側が不利な状況になります。攻撃側は何でも手段を取ることが出来ますし、それを進化させることも出来るからです。しかし、特徴やパターンは、膨大なログの状態から、人間が把握することが出来ないものでも、AIなら特徴を見つけることが出来るのではないかと思います。AIがアシストしながら、防御側の人間の手を借りて、やっていくことは出来るのではないでしょうか。それは、現在の技術でも可能だと思います。攻撃側の技術をAIに学ばせることが出来るかについては未知数です。ただ、未知の攻撃方法をAIが発想するところに至るまでには、AIの技術がもう少し進化する必要があるのではないかと思います」
山口和之・参議院議員、理学療法士:「医師の偏在、医師不足という問題があり、医師がいない場所をカバーする技術が求められています。テレビカメラがあり、看護師がそこにいれば、AIを使うことで診療は可能なのでしょうか」
井元:「予防医学の延長線上に、医師の偏在の解消ということも見えてくると思います。AIが診断を出来るなら、医師がいない場所でも、看護師が1人いて情報を引き出せば、後はAIシステムで診断可能です。働き方改革で病院にAIが入るようになれば、医師は雑用から解放され、空き時間が増えてくるはずです。医師の空き時間をAIがマッチングして、僻地の患者さんに対するAIの診断が正しいかを医師が判断するようにすると、僻地の医療行為を都市と同じ頻度で行えるようになります」
尾尻:「画像診断の話がありましたが、ビッグデータを活用することで、画像診断の性能は高まると考えて良いのですか」
井元:「我々のアプローチではそうなっています。医療界からデータを提供して頂けると、どんどん精度は高まります。CTやMRIは、撮影する時の設定によって画像が変わりますが、多種多様なものを学習させることで、そういったことも考慮して診断することが出来るようになります」
長堀:「放射線科医や病理医は不足しているので、AIが画像診断や病理診断に寄与することが出来れば、急性期病院にとっては福音となります。出来ることがあれば協力したいと考えています」
猪俣:「シンガポールを見てきましたが、ナショナルベースで同じ規格でデータを集めるといったことが行われていました。そういった試みが世界中で始まっていて、日本でも必要なのだと思います」
井元:「データを集めた時の規格の統一化はAIにさせることが出来ます。AIが判断して同一規格に直しますので、まずは生データをいかに効率良く大量に集めるか、ということが最大の課題になると思います」
邱実・QUEST-ETERNAL GROUP会長:「ビッグデータを集めることが出来る人工衛星とAIをマッチングして、何か役に立つサービスを提供することが出来ますか」
井元:「人工衛星が地球を1周する間に数千枚単位の地表の写真が撮れたとして、人間には解析不可能ですが、AIを活用することで、いろいろなことが分かってくる可能性があります。NASA(米航空宇宙局)が打ち上げた地球観測衛星は、1ピクセル5㎜の解像度で地表を撮影出来ます。そういうデータがあると、例えば、資源が埋まっている場所などの解析も出来るだろうと思います」
松尾成吾・森山記念病院院長:「昨年8月、東京大学医科学研究所から、治療に難渋していた白血病がWatsonの診断に従って治療して良くなった、という話が報告されました。1年以上がたちますが、AIは臨床の現場で実用化していません。手軽に使えるミニWatsonのようなものは出来ないのでしょうか」
井元:「WatsonはAIといっても、自己学習はしないし、自己改変もしません。あの白血病の種類は解析することが出来ましたが、それだけだと思います。他の事例に関しては、あのシステムではまだ診断が出来ていないので、1年たっても何の進捗もないのでしょう。Watsonがやれるのは、自然言語に関わる認知向上です。文章や音声は解析可能ですが、それ以外は出来ないようです。開発者たちはWatsonをAIとは呼ばず、コグニティブ・システム(認知システム)と呼んでいます。あの白血病に関しても、英語で書かれた論文を解析し、診断書の文章を読み込んだ結果です。残念ながら、そこに止まっています」
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