欧米ではベンチャー由来の新薬が多数
厚生労働省は、医薬品や医療機器分野におけるベンチャー企業の育成に乗り出している。7月末に「医療系ベンチャー振興推進会議」(座長=本荘修二・本荘事務所代表)を立ち上げ、2018年度予算の概算要求で前年度から予算額を大幅に拡充させた。将来的に国際競争力のある成長産業に押し上げるのが狙いだ。
ベンチャー企業への「投資」は、14年9月から今年8月まで厚労相を務めた塩崎恭久氏の号令で始まった。日本銀行出身で経済政策に詳しい塩崎氏は、自民党政調会長代理時代から医療分野の成長戦略に関心を寄せてきた。15年12月、自身の私的懇談会として「医療のイノベーションを担うベンチャー企業の振興に関する懇談会」(座長=本荘氏)を開催し、昨年7月に報告書をまとめた。
その報告書では、医療分野を「成長と発展のポテンシャルが大きい分野」と位置付け、欧米では「ベンチャー由来の新薬が多数」と分析。「医薬品の開発動向やジェネリック医薬品の普及拡大などから医療系ベンチャー振興は緊喫の課題」と指摘した。国内では大学など研究機関の開発水準は高いものの、ベンチャー企業は少なく、資金面での財政支援も弱いといった課題がある。施策の方向性として、規制緩和や人材育成、きめ細やかな個々の実情に沿った支援策の展開などを挙げた。報告書を受け、厚労省は早速、今年4月に医政局経済課内にベンチャー等支援戦略室を新設した。
塩崎氏の退任間際の7月末、懇談会の発展形ともいえる医療系ベンチャー振興推進会議の初会合が開かれた。塩崎氏は挨拶で「欧米ではバイオ医薬品などのイノベーションの中心はベンチャー企業に移っている。日本は出遅れ気味で、これを打開するためには報告書の提言を大胆に実行しないといけない」と決意を述べ、今後の方針を示した。その方針が①医療系ベンチャー企業の振興に向けて省内横断的に支援策を講じる②長期的な視点に立った人材育成に重点を置き事業を継続的に発展させる③ベンチャー等支援戦略室をはじめ省を挙げてより実効性のある支援体制作りを目指す——ことだ。最終的には、ベンチャー企業が生み出すイノベーションが国民の健康増進や生命維持に貢献する好循環「エコシステム」を構築したい考えだ。
ベンチャー企業には既存の治療薬では十分な効果が見込めない疾患に対する医薬品の開発が期待されていながらも、国内の医療系ベンチャー企業は約200社に止まっているのが現状だ。
厚労省は、革新的な医薬機器の早期承認に向けた規制緩和として7月末に関係省令を改正。一定程度の症例を得られた段階で必要な臨床データを追加的に収集することを条件に前倒しで承認する。知財管理や薬事規制などに詳しい人材を登録出来るデータベースを構築するなど多面的な支援策を打ち出し、18年度予算には前年度の1・5倍に当たる9億4000万円を要求した。
強力な推進役だった塩崎氏が8月の内閣改造で退任したが、「後任の加藤勝信氏は塩崎氏ほどの意欲はないが、メンツを潰すようなことはしないだろう」(厚労省関係者)との見方が強く、ベンチャー企業育成の流れは続きそうだ。
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