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未来の会

第88回 医薬品業界トップ企業の「いわく付き」商品

第88回 医薬品業界トップ企業の「いわく付き」商品
虚妄の巨城
武田薬品工業の品行

 「業界のトップ企業」という称号は、格別の響きがある。社員にとっては誇りだろうし、社会的受けも他社とは当然、違うものがあるはずだ。自動車のトヨタ、家電の日立製作所、あるいは非鉄金属の住友電工にせよ、その地位にふさわしい一種の「格」を、長年に渡って確立しているように思える。だが、こと医薬品業界に関しては、少し事情が違うのではないか。

 そこでの「業界のトップ企業」である武田薬品については、右に挙げたようなメーカーとある面において異なるからだ。つまり、社会的にどこまで認知されているかは別にして、どう贔屓目に見ても、「いわく付き」としか表現しようがない商品が目に付く。

スネに傷持つ「アクトス」と「ブロプレス」

 例えば、他社が羨むような利益を上げた武田のブロックバスター(年商1000億円を超える新薬)である「アクトス」(糖尿病薬))や「ブロプレス」(降圧剤)ですら、「スネに傷」を持つ身だ。

 「アクトス」は2011年に、薬害防止を目的とする民間の医薬品監視機関である「薬害オンブズパースン会議 」が、厚生労働省に対し、販売中止と回収を求める文書を提出している。膀胱がんリスクを示す疫学研究の結果に基づいて回収に踏み切ったフランス保健製品衛生安全庁や、膀胱がん患者への使用を禁止し、膀胱がんの既往症のある患者へ慎重投与などを勧告した米国食品医薬品局(FDA)の例にならってだ。

 「ブロプレス」も同様。厚労省は15年6月、武田に対し、京都大学EBM共同研究センターを中心に行なわれた「ブロプレス」の大規模臨床研究「CASE‒J」で、統計的有意差がないにもかかわらず、脳卒中などの発現率が低く見えるグラフを広告資材に用いたことを重視。医薬品医療機器等法で禁止している誇大広告に当たるとして、業務改善命令を出したのは記憶に新しい。

 武田の近年のスキャンダルはこれに留まらないが、この二つだけをとっても、「業界のトップ企業」の矜持などおよそ感じられないお粗末な結果だ。

 しかも「アクトス」関しては、武田は未だ膀胱がんリスクを認めていない。「ブロプレス」は「医者に出されても飲み続けてはいけない薬」という評価が生まれており、本誌でもお馴染みの浜六郎医師は「高価。炎症、免疫を抑えるため、がん、感染症が増加する」と、「ほぼ不要」の薬品と断じている。

 他の「業界のトップ企業」で、これほど主力商品が酷評され、社会的問題を引き起こしている例があるだろうか。もっとも、「医は仁術」ならぬ「医は算術」を地で行く薬品業界のこと、そこでの「トップ企業」だからこそ、スキャンダル体質はあって当然なのかも知れない。

 だが、「ほぼ不要」な「ブロプレス」は特許期限が切れても、ここ数年はやりの「配合剤」に姿を変えて生き残っている。この配合剤とは、いまや巨費を投じても新薬を開発する可能性が狭まった業界において、ジェネリック医薬品(後発医薬品)が出るのを封じるための手段となっている。薬の特許期限が切れるのを間近に控えた薬を、他の薬と合体させて「新薬」として堂々と申請するのだ。そうすると、結果的に承認されるならば、また再び「特許期限」が生じ、その間、ジェネリック医薬品の登場が遅らせられることになる。

 患者は、服用する錠剤の数を減らすことに繋がるメリットも生まれる可能性があるが、何のことはない。開発の費用も時間もかからない安直な製品を、「新薬」と称して売る商法だ。おまけに予期しない副作用が出かねず、その場合、原因を特定しにくいという深刻なデメリットが避け難くなる。しかも、「ブロプレス」と異なり、特定の疾患を生む危険性を指摘された「アクトス」も、しっかり「配合剤」になっている。武田の「メタクト配合錠LD」などで、こちらは重篤な乳酸アシドーシスを起こす場合があり、死亡に至った例も報告されている。

「ネシーナ」に関しては匿名の告発

 海外で危険性が騒がれたこの「アクトス」に懲りたのか、武田は国内で3番目のDPP‒4阻害薬「ネシーナ」を10年に発売した後、武田は今後集中すべき3領域(がん、消化器、中枢神経系)から、かつてあれほど儲けた糖尿病を除外してしまった。それでも糖尿病の治療薬は「アクトス」の騒動とは別の意味で、「医薬品業界トップ企業」の恥部をさらしている。

 昨年10月12日、櫻井充・民進党参議院議員(内科医)は国会に、「東京大学の研究不正の調査のあり方に関する質問主意書」を提出した。主な内容は、同大学の「医学部と分子細胞生物学研究所に所属する教授6人がそれぞれ発表した計22本の論文データについて、不自然な点が多数あるとする匿名の告発があり、同年9月、東京大学は研究不正の有無について本格的な調査を始めた」と指摘。「調査委員会の委員の選考や研究不正の調査を実施する範囲について、不十分」ではないかと、追及したもの。

 そして、そこでは「今回告発対象となっている6人の教授のうち2人について、過去の研究不正の調査にも問題があるという指摘」があり、「(そのうちの)1人、糖尿病・代謝内科の教授による過去の研究不正の調査については、大学側の予備調査で、問題なしと結論付けられている」ことに対し、強い疑義を唱えている。この「1人」とは、寄付金などを通じて武田と「周囲の誰もが認めるベタベタの関係」(『選択』15年7月号)とされた、門脇孝教授を指す。

 門脇教授は、前述の「ネシーナ」について「『単独または多剤併用時の安全性及び有効性に関わる情報を発信してまいります』と、研究目的を説明」した事実がある。だが、武田が資金などを提供し、「この臨床研究は、武田による、武田のためのお手盛り似非研究」(同)だったとされる。

 同誌によると、武田は①門脇教授の医局に「奨学寄付金」名目で年1000万円を渡し、②「寄付講座」を名目に年3000万円を入れ、さらに③教授自身に「武田科学振興財団」による1500万円の「武田医学賞」を与えていた。臨床医にすぎないこのような教授に、新薬の安全性を「評価」させようとしたのだから、武田はよほど「ネシーナ」に自信がなかったのか。

 それにしても、「業界のトップ企業」にしては、あまりに姑息なやり方だろう。あるいは、医薬品業界自体が他業種と比較し、それだけ異様な世界だということなのか。

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