「人財・教育」の重視を掲げながら
新入社員の研修中自殺が発覚
中堅製薬会社「ゼリア新薬工業」で22歳の新入社員が研修中に精神疾患に陥り、新宿駅で飛び込み自殺していたことが明るみになった。判明したのは両親が起こした損害賠償請求訴訟からだが、2015年には中央労働基準監督署から「自殺は社員研修による精神疾患が原因であり、労働災害に当たる」と認定されていたのである。
かつて「地獄の特訓」が持てはやされたが、まさに地獄の特訓の犠牲者だ。「人命を救う」ために存在するのが医薬品メーカーのはず。新入社員が自殺したことで、ゼリア新薬の存在価値が問われている。
社員研修会社による「地獄の特訓」
事件が起きたのは4年前の13年5月。早稲田大学文学部を卒業し、ゼリア新薬の医薬情報担当者(MR)として入社した村西雄太氏が新入社員研修中の18日、自宅に帰る途中、新宿駅で電車に飛び込み自殺したというものだ。
ゼリア新薬の新入社員研修は入社早々から始まり、8月まで続く長期研修。内容は、まず4月10日から12日までの3日間を社員研修の専門会社「ビジネスグランドワークス(BGW)」が担当、東京・代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターで「学生気分から脱却、社会人としての自覚を身に付けさせる意識改革、行動変革の研修」を行う。
中身は地獄の特訓と言ってもいいような精神鍛錬だ。続いて、会場を研修施設に移して、ゼリア新薬自身が泊まり込みで医学・薬学の詰め込み研修を8月まで行う。自殺事件はBGW社の精神特訓の終了後、ゼリア新薬が引き継いで間もなくの出来事。村西氏は様子がおかしかったことから自宅に帰って待機するように言われ、その帰宅途中の自殺だった。
1年後、両親は中央労働基準監督署に労働災害保険給付を請求。労基署がゼリア新薬の人事部と研修担当者から新入社員研修の内容、様子を聴取した。
また、ラインでの友人とのやり取りなどから、村西氏が「意識行動変革研修で吃音を指摘されたり、過去のいじめの経験を吐露させられたりして相当強い心理的負荷を受けた結果、5月上旬には精神疾患を発症し、自殺に至った」と判断。15年5月に労災を認定した。
この労災認定を受け、遺族は東京簡易裁判所にゼリア新薬とBGW社を相手に損害賠償を求める調停を申し立てたが、BGW社、ゼリア新薬共に反発し、調停は不調に終わった。
すると、その3日後、逆にBGW社が遺族を相手に債務不存在確認請求訴訟を提起。調停不成立の時、遺族から訴訟を起こすと言われたことに対して「BGW社には責任はない」という先制防御策だった。
遺族側はこれを受け、ゼリア新薬、BGW社、BGWの当時の担当講師を相手取って東京地裁に1億510万円の損害賠償請求訴訟を起こしたという経緯だ。
遺族側の玉木一成弁護士が言う。ちなみに玉木弁護士は「過労死弁護団全国連絡会議」事務局長を務め、この手の問題の専門家だ。
「自殺した新入社員はひ弱ではなかった。両親によれば、空手をやっていたそうで、心身ともに強健。友人も多く、事件後、友人達が追悼文を集めた文集を作ってくれたほど。本人は『安倍晋三首相がゼリア新薬のアサコールを服用したことで、難病の難治性大腸炎が治ったと語ったことからゼリア新薬に就職した』と語っていたそうだ。労災認定で指摘されたように、BGW社の研修で精神的に追い詰められた。なにしろ、ゼリア新薬の研修担当者が『BGW社の研修は大きな声で厳しく指示するなど、自分には出来ないことをやってくれている』と語っている。軍隊式の研修だった」
中でも、本人を最も傷付けたと言われているのが、講師から吃音を指摘されたことと、過去のいじめを語らされ、同僚に知られたことだとされる。
「吃音と言っても、ご両親や友人達は誰も吃音だと思っていない。初めて聞いたと言っている。周囲の人が気付かない程度のようです。講師が『吃音だ』と断定したことで、反抗したくなくて認めたようだ。いじめも両親や友人達は聞いたことがない。むしろ、リーダー的な存在だったという。研修では各自に自分の欠点を言わせるスピーチがあり、彼は何か言わなくては怒鳴られると思って、いじめられた話を創作したようだ。この話が後に、同期の仲間に知られるようになったことにショックを受けた。研修参加報告書に『ショックはうまく言葉に表すことが出来ない』と書き遺しているほど。BGWの研修では常にバカヤロー呼ばわりされる人格否定が続いた」(玉木弁護士)
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