1956年福島県生まれ。81年東京都立北多摩看護専門学校卒業(看護師)。82年東京女子医科大学看護短期大学専攻科修了(助産師)。83年福島県立総合衛生学院保健学科修了(保健師)。99年産能大学大学院経営情報学研究科修了(経営情報学修士)。2005年国際医療福祉大学大学院博士後期課程修了(保健医療学博士)。83年東京女子医科大学病院。91年杏林大学医学部付属病院総合周産期母子医療センター師長。03年同看護部長。10年日本看護協会常任理事。17年6月会長就任。
時代のニーズに合わせて医療が変貌していく時代にあって、看護の在り方も変わろうとしている。地域包括ケアシステムの中では、在宅療養のリーダーとしての役割も期待される看護職。特定行為研修はどのように進んでいるのだろうか。また、診療・介護報酬の同時改定を来年度に控え、日本看護協会は何を要望していくのだろうか。新しく会長に就任した福井トシ子氏に話を聞いた。
——新会長としての抱負を。
福井 日本看護協会は2015年に『看護の将来ビジョン』を公表しています。これが少しずつ動き始めているのですが、25年に向けて、さらに進めていく必要があります。会長の任期は2年ですが、この2年間は、その将来ビジョンを、看護界に浸透させていくことも必要だと考えています。公表しましたが、それが看護界に十分に浸透するためには、まだ期間が必要です。
——どのようなビジョンなのですか。
福井 これまでの看護の仕事は、救うこと、治すことに重点が置かれていました。しかし、高齢者が増えるに従って、病気を抱えて生きること、癒やすこと、支えること、暮らしと共にあること、といった方向に重点をシフトしていかなければなりません。これらのことが看護の将来ビジョンの趣旨です。
——それが十分に浸透していないのですね。
福井 病院の中で働いている看護職にとっては、はっきりと飲み込めていないところもあると思います。しかし、一人一人の看護職がそれを理解し、自分の将来も見据えて、どんな力を蓄えていかなければならないのかを、しっかり理解している必要があります。人口構造が変わり、疾病構造が変わり、国の財政が悪化すれば、看護も変わらざるを得ません。
——看護の仕事の範囲が広がりますか。
福井 働き方改革で議論されていますが、医師の勤務環境を改善しようという動きがあります。医師の数を増やさず、勤務環境を良くしていくために、他の職種を活用した方が効果的ではないかというのが国の狙いです。タスクシフティング(業務の移管)や、タクスシェアリング(業務の共同化)と言っていますが、そのような流れの中で、看護は診療の補助業務の方にシフトしていくことになるのだろうと思います。これは、医師の代わりに診療の補助業務を行うということではなく、看護の延長線上に診療の補助業務を行うようになるということです。
医療と介護を繋ぐ看護
——来年度は診療報酬と介護報酬の同時改定があります。看護協会は何を要望しますか。
福井 大きくは四つあります。一つ目が「効果的・効率的な医療の実現に資する看護機能の強化」です。二つ目は「医療と介護をつなぐ看護機能の強化」、三つ目は「安全・安心な医療・看護提供体制の整備」、四つ目が「医療・介護提供体制を支える看護職員の労働環境の整備」となっています。
——中でも一番力を入れているのは?
福井 どれも重要ですが、強いて一つ挙げるとすれば、「医療と介護をつなぐ看護機能の強化」です。国が進めている流れによれば、地域包括ケアシステムを構築し、その地域で在宅医療が必要な場合には、医療機関と同等のケアを提供出来るようにすることが必要です。そのために期待されているのが、病院で働く看護職が地域でも看護を行っていくということです。それによって、患者さんのケアを切れ目なく継続出来るようにしていくことになります。
——特定看護師についても要望していくのですか。
福井 特定行為研修を修了した看護師ですね。特定行為研修制度が保健師助産師看護師法に位置付けられて、2年ほどになります。厚生労働省は、25年までに2桁万人必要、としていますが、研修を修了しているのは、まだ583人(今年3月末現在)です。そこで、在宅医療を進めていく時に、特定行為研修を修了した看護師を活用出来るように、診療報酬で評価することを要望しています。特定行為研修を修了した看護師は、在宅医療の現場で最も必要とされている存在です。
——特定行為を行える利点は?
福井 行えるのは徹底的な治療ではなく、医療行為とケアです。そのような対応のために、医師に往診して頂くより、研修を受けた看護師が看護の延長線上で実施した方が、よりタイムリーに医療行為とケアを行うことが出来ます。
——まだ人数があまり増えていないようですが。
福井 研修制度について、現場の人達の理解が進んでいないからだと思います。この研修では臨床推論、フィジカルアセスメント、薬理学、病態生理学などを勉強する必要があります。共通科目で315時間の研修があり、さらに特定行為の種類に応じた勉強が必要です。従って、そういった教育環境が整っていないと、必要な教育がなかなか受けられません。地方であっても病院が教育機関として申請すれば研修を受けられます。しかし、この仕組みが出来るまでに紆余曲折があったことも関係して、一斉に進めていくには、まだコンセンサスが得られていない状況なのかもしれません。
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