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第113回 「医師の偏在」是正策を巡り厚労省は混乱

第113回 「医師の偏在」是正策を巡り厚労省は混乱

 地域で働く医師を育てる大学医学部の「地域枠」について、厚生労働省は対象者を地元出身者に限る方針だ。地域への定着率が高い地元出身の医学生に支援を集中し、卒業後、出身地でそのまま勤務してもらうことを狙う。

 ただ、即座に効果が出る政策ではない。医師の偏在是正策を巡る厚労省の対応は混乱が続いており、地方での医師不足がどこまで改善されるかははっきりしない。

 医学部の地域枠は、地方での医師確保を目指したものだ。卒業後9年間程度、大学のある都道府県内で働くことを条件に奨学金の返済免除をする例が多い。国は2008年度から医学部の定員増で拡充を図り、71大学が導入した16年度の募集数は計1617人。ただし、地元出身者はその半数で、卒業後に大都市へ転出してしまう人も少なくない。

 厚労省の調査では、出身地の都道府県にある医学部に進学した人の78%が「地元で勤務する」と答えており、同省は地域枠を地元出身者向けに限った方が効果的と判断した。

 国は毎年4000人程度医師数を増やしてきた。14年は25年前より10万人増の約31万人に達し、厚労省は「このままでは40年に1・8万〜4・1万人の過剰になる」と推計している。地方を中心とする医師不足は、「勤務地や診療科が偏っているのが原因」というわけだ。しかし、一方では「医師の総数自体がまだまだ不足している」との見方もあり、関係者の間でも意見が割れている。

 「偏在」か「総数の不足」かはさておき、地方での医師不足が今なお続いていることは誰も否定できない。地域枠の拡充といっても、「一期生」がようやく臨床研修を終えたところで、効果が出てくるのはまだ先。こうしたことを踏まえ、厚労省の「医療従事者の需給に関する検討会」の分科会は昨年6月、「病院長になる条件として、医師不足地域での一定期間勤務の義務付けを検討する」といった、強制策を含めた医師の偏在対策に関する中間まとめを公表した。

 ところが今年4月、塩崎恭久厚労相の私的な有識者検討会「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」は、強制的な偏在対策に否定的な報告書をまとめ、医師の配置に国が口を出すべきだ、という議論は下火になってしまった。医師の自主性を重視する勢力が塩崎氏に働き掛けた結果、とみられている。

 こうした不透明な方針転換には、「需給に関する検討会」や厚労相の正規の諮問機関である社会保障審議会医療保険部会のメンバーを中心に不満が爆発。ビジョン検討会が、医療の方向性の一つに「高い生産性と付加価値を生み出す」を掲げたことへの批判も強く、日本病院会の相澤孝夫会長は「基本的な物の考え方がおかしい。社会保障は国民に安心、満足、豊かさなどを提供するもので、もともと生産性は低い」と指摘している。

 このたびの内閣改造で塩崎氏が厚労省から去り、加藤勝信氏が後任に就いた。同省には「塩崎さんがいなくなった以上、ビジョン検討会の議論はなかったことになる」と明言する幹部もおり、混乱は当分避けられそうにない。

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