■これから求められるAI技術に対する9DWの考え
今後、医療だけでなく、あらゆる分野で、AIシステムが既存のシステムを改革していきます。それによって、人間は人間がやるべき仕事に従事することになります。医師の仕事であれば、初期問診や事務的な書類を書く仕事などは、AIが自動的に処理していくことになり、医師は人間らしい仕事をする時間を確保していくことになります。
そういったことを実現させるのが、汎用性AIであると我々は考えています。これは人類最後の発明になるだろうと考えられています。なぜなら、汎用性AIは人間と同じような知性を持つようになるので、このAIが新しい技術を開発することになると考えられるからです。
だからこそ、汎用性AIは、軍事産業がない世界唯一の国である日本で開発されるべきです。このシステムで実現されるべきは世界平和なのです。この技術が、戦争の兵器として転用されることは、あってはなりません。だからこそ、アメリカやヨーロッパに先駆けて、この日本で平和利用を前提としたAIを開発することが急務であると考えています。 講演後に、国会議員のお二人からご挨拶をいただきました。
三ツ林裕巳(衆議院議員・医師):「レベル4のAIを、日本が世界に先駆けて開発していくことが重要だという話に感銘を受けました。医師とAIが議論することを目指しているというお話がありましたが、これからの医療には、まさにそれが必要だと思っています。遠隔医療をはじめとした日本の進むべき医療についても、AIを活用していくことが非常に重要だと感じています」
冨岡勉(衆議院議員・医師):「AIの進歩は、楽しみにしている反面、どうなるか予想もつかないな、という思いもあります。今後、開発がどういう方向で進むのか。政府としては、軍事面への関与も、並行して進めていかなければならないでしょう。それが、大方の政治家の考えです。平和目的というお話がありましたが、それだけで大丈夫かなと考えている1人であります」 質疑応答では、次のような発言がありました。
小野泰輔(熊本県副知事):「熊本城の石垣の修復は20年かかると言われていますが、9DWがやれば5年で終わるとおっしゃっています。石垣に関しては、崩れる前の平面的な写真と、崩れて転がっている石があるだけです。その程度の情報で、石垣が修復できるという根拠を教えてください。歯を生成するAIの技術を利用するのですか」
井元:「そうです。我々は歯だけを生成するAIを開発したのではありませんから、どんな物でも対応できます。崩れている石の3次元データと、崩れる前の石垣の2次元データを学習することで、崩れて転がっている石が、どこにはまるのかを推論することができます。また、どこかが歯抜けになってしまっていたら、そこにはまる石がどういう形をしているか、かなり高精度の3次元データを出せるでしょう。熊本城の石垣で、崩れたのは明治時代以降に修復した部分で、江戸時代に作られた部分は崩れていません。修復する場合、崩れる前の状態に戻すのか、江戸時代の技術を復元するのか、という問題もあります。AIの技術があれば、どちらを選択することもできます」
馬渕茂樹(医療法人トータルライフ医療会理事長・院長):「診断と治療をAIが医者に変わって行う時代がくるのでは、と感じます。そのとき、責任の所在はどうなるのでしょうか」
井元:「医師とディスカッションし、医師をアシストできるところにとどめようと考えているのは、まさにその問題があるからです。診断までを全自動でやってしまうと、誤診したときに誰が責任を負うのか、という問題が生じます。法的にもグレーな状態です。これは医療だけでなく、たとえば自動運転で事故が起きた場合などでも同様の問題が生じます。まだ議論されている段階で、答えは出ていません。そこで、アシストシステムにとどめるべきと考えています。AIとディスカッションし、最終的には人間が人間に対して診断を下すのがよい、というのが我々の考えです」
馬渕:「AIを使えば、どうしたら犯罪が成功するかを学習させることで、完全犯罪も可能なのでは、と考えてしまいます。そうした悪用することに対する歯止めとして、国際的な取りは組みとか、ルール作りなどは行われているのですか」
井元:「国際的なルールとして、アメリカのNPOなどが作っているものがあります。しかし、法的な拘束力があるわけではないので、あくまでも開発者の倫理観にゆだねられているわけです。システム開発会社としては、そのシステムにアクセスできる人を制限したり、アクセスできる人をAIに判断させるとか、そういった形で悪用できないシステムを設計すべきであると考えています」
荏原太(医療法人すこやか高田中央病院院長):「レベル4のAIが出した答えの妥当性は、どのように検証するのですか。囲碁の開発プログラマーが、『どうしてこの手になったのかわからない』と言っています。それが正しいかどうかの検証はどうすればいいのでしょうか」
井元:「9DWが開発した歯の生成も、MRIやCTによる画像診断も、我々は医療の専門家ではないので、結果が医学的に正しいかどうかは判断できません。そこで、歯科技工士や医師の方の意見を逐一うかがっています。一緒に成長しているといった状態で、それが精度検証になっています」
福本敏(東北大学大学院歯学研究科小児発達歯科学分野教授):「歯の生成に関してですが、欠損歯が何本の場合まで生成できるのでしょうか。たとえば、まったく歯がない状態から予測することはできるのですか。できるとしたら、どのくらい時間がかかるのでしょうか」
井元:「今のシステムで可能なのは最大6本です。前歯が全部、犬歯から犬歯までなくても対応可能ということです。歯と歯の間を補完するシステムなので、歯がすべてないと厳しいのですが、奥歯が1対あれば、残りの歯をすべて生成することはできます。ただ、精度と時間がビジネスとして見合わないので、6本までとしています。取り込むデータの症例数をもっと増やせば、すべての歯の生成もできると考えています」
落合慈之(NTT東日本関東病院名誉院長):「AIは競馬の予測ができますか。地震の予測や天気予報ができますか」
井元:「競馬については実際に行っています。ただ、当てることに主眼を置いているわけではなく、競走馬の生体を高精度に予測するエンジンを作るために、これまでのレース成績、騎手、気象状況、馬場状態といったことを、過去10年分のデータを学習させ、予測できるのかを実際に研究しています。パドックに現れた馬の動作解析から、馬の状態がどうなのかを読み取る、といったことも行っています。最終的には、競走馬のセラピーですとか、調教師のアシストをするAIが作れないか、ということに取り組んでいます。
我々はたぶん出来ると考えています。地震の予測については、データによりけりです。何らかの因果関係を見つけ出すのに、AIは有効ではないかと考えています。大地震が起きるときに、鶏卵の生産数が30%下がったとか、乳牛の乳の生産量が20%落ちたとか、そういったデータは残っています。本当に因果関係があるのかないのか、議論の余地があると思います。ただ、これまではそれを人間が考えていたわけですが、AIにもっと大量のデータを与え、複合的に捉えさせたら、答えが出るかもしれません。答えを出すための足掛かりとしてAIを使うのは有用だと思います。天気に関しても同じです。全地球的なシミュレーションはあまたありますが、局所的な高精度の天気予報をするシステムが開発できる可能性があります」
瀧山博年(東京大学大学院医学系研究科腫瘍外科医員):「ディープラーニングを使い、胃カメラの画像から胃炎や胃がんの診断ができるか、ということをやっていて、もうすぐ完成という状況です。研究していて感じるのは、やがて私自身の診断能力を超えていきそう、ということです。 そうなったとき、AIの診断に対して、『それは違う。私はこう思う』と言う自信がなくなってくると思います。AIに対して、『イエス』という医者ばかりになってしまうのではないか、という懸念があります。また、いくつかの会社がAIを作り、それらの下した診断が食い違ったときに、現場では悩みが生じそうです。AIが乱立した時には、誰が規制していけばいいのでしょうか。開発者側がやるべきなのか、医療者側がやるべきなのか、あるいは研究者1人1人なのか」
井元:「我々の考えは、特に医療に関しては、性能の差によって答えに食い違いが生じた場合、できれば開発者側と医療者側の両方で委員会を作り、意見を戦わせるべきだと考えています。ただし、ディープラーニングのシステムそのものに、どうしてそう診断したのか根拠を示せる機能をつけられるならです。それをつけられないとしたら、その技術はレベルが低すぎると思います。診断を下した根拠のチューニングは開発者側がしているはずで、どういう病変を、どういう形としてとらえたから、こういう診断になったと、自然言語で出力できるはずです。それを見て、医師側が納得するのかしないのかの問題です。
最終的に人間の診断を超えてしまうだろうというのは、ご懸念の通りで、そうなってしまうと私も思います。ただ、今のところ特化型AIなので、他の部位の病変があるような場合、人間の発想力や推理力が上になる場合もあります。議論を交わすためのシステムにすべきだと思います。それでもAIが超えてしまった場合には、囲碁界のように、人間がAIに学ぶという形になればよいのではないかと思います。
小西千尋(日本臓器製薬株式会社事業開発本部課長):「慢性疼痛の領域で、診療支援を行うAIを用いたシステムの開発を担当しています。電子カルテの患者様の個人情報の取り扱いに関する法律の改正がありましたが、開発者として特に留意していることがありましたら教えてください」
井元:「個人情報がAIの推論に重要であるなら、取り扱いをいろいろ留意すべきだと思うのですが、そうでない場合は、なるべくマスキングして、個人情報は我々も持たないという形で作業できるように開発を進めるべきと考えています。氏名、出身などの個人情報が本当に必要であるなら、それを扱わなければなりませんが、そこまで個人情報が必要になることはあまりありません。ただ、法改正があったので、画像診断の情報も個人情報ということになるので、それを扱う場合には、セキュリティを担保して開発を進めていきます。具体的なことは企業秘密になりますので、セキュリティ自体に工夫を凝らしているとしかお伝えできません。
康井制洋(地方独立行政法人神奈川県立病院機構副理事長):「これから医師になる人たちに、どのように教育していくかは重要な問題です。専門医制度でも教育について、いろいろ議論されています。AIは医学教育でどのようなことができるでしょうか」
井元:「人間の臓器の形がどうなっているのかを高精度に学んだAIがあれば、外科の研修医たちが行う手術の研修を、VR空間の高精度な3D空間上で行うことができるようになると思います。内臓の疾患も、ビジュアル的に教えることによって、理解を深められるだろうと考えられます。また、経験を積んだ腕のいい外科医のヒアリングを含めることにより、それを教材として提供することで、研修生が自学できるシステムを作り、それをAIが管理するといったことも可能ではないかと思います。ニーズがあれば、そういったところも開発したいと考えております。
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