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未来の会

必要な人に届くべき「先進医療」

るのに考えること

 最先端の医療技術を用いた高度な治療は、臨床研究を経てその有効性が評価され、最終的に公的医療保険に導入されて、多くの人が利用出来ることになって、初めて成功に値するといえる。

 「先進医療」は、保険外併用療養制度=従来国が禁じてきたいわゆる混合診療を公に認めた制度で、先進医療として認可されると、その治療自体は自己負担となるが、それ以外の入院費や検査料といった付随する医療費は保険適用となる。

 先進医療の認可に当たっては、医療機関が、厚生労働省に対して先進医療技術としての申請を行うことにより、先進医療技術審査部会で諮られる。同会議は、専門的な学識経験を持ち、 保険診療にも精通した15〜20人の委員から構成されている。

 技術的妥当性(有効性、安全性、技術的成熟度)に加えて、社会的妥当性(倫理性、普及性、費用対効果)などが審査され、承認が妥当と判断されれば、中央社会保険医療協議会(中医協)に回されて最終決定となる。

 さらに実施可能な医療機関の施設基準を設定した後に先進医療として実施されて、評価療養の対象となる、先進医療として承認された医療技術は、2年ごとに医療保険に導入すべきか否かが評価され、適当とされれば、やはり中医協において最終決定される。

 先進医療を申請するためには、医療技術に優れたスタッフを備えており、設備や施設の面でも充実しており、大学病院などの特定機能病院に準じる病院であることが条件となる。つまりこれを評価されることは、市中の医療機関にとって、地域の医療における優位性を示すことが出来、若手医師の育成が出来るなどの効果がもたらされると期待出来るわけである。

陽子線治療実施の医療機関が増加中

 がん治療は、先進医療の代表的な領域で、いくつかが認められている。中でも陽子線治療は、治療期間も約2カ月と短く、仕事をしながら外来でも受けられる治療であることから、実施する医療機関が増えている。

 治療に用いるのは、水素原子から電子を取り除き、陽子だけを装置で高速に加速した放射線(陽子線)で、一定の深さで放射線量を調整出来るため、がん病巣に放射線を集中させて効率的に照射する一方で、正常組織への影響を低く抑えることが出来る。

 陽子線治療は、2001年に先進医療に加えられており、12年に、作家・作詞家のなかにし礼氏が受けたことでも知られる。

 装置の設置費用は、施設規模により40億〜80億円。治療費は自己負担で約300万円かかる。保険適用の可否は検討されているが、なお先進医療のままだ。なかにし氏がこの治療を受けたのは、当時実施していた7施設のうち、特定機能病院の国立がん研究センター東病院だった。

 新しいところでは、医療法人伯鳳会(兵庫県赤穂市)が、大阪府内で初となるがん陽子線治療施設「大阪陽子線クリニック」の17年8月開業を目指して準備を進めている。

 伯鳳会は病院や診療所、介護施設などを全国60カ所以上で運営する法人。同クリニックは、地上5階、地下1階、延べ床面積は3000㎡で、11月に先進医療の認可を取得する見込みで、初年度は100人程度の患者を受け入れる予定だ。

 内視鏡手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」を用いた手術でも、先進医療として認可を受けた施設が増えている。12年に前立腺がん、16年に一部の腎臓がんに対して保険適用となった。術野を高精細なモニターに映し出し、アームの可動域も広いため、従来の手術に比べて細かな操作が出来、より安全で正確な手術が出来、傷口も小さく回復も早いとされる。

 保険適用を他のがん種にも広げようという動きは活発で、胃がん切除に対する臨床試験は藤田保健衛生大学など15施設が実施し、18年の保険適用を目指している。それに先駆けて、先進医療として実施する施設も増えている。

 大津市民病院(滋賀県大津市)もその一つだ。16年、胃がんについて全国で8施設目、滋賀県内では初めて、先進医療として認可された。同院では、「ダ・ヴィンチ」を14年に導入、費用は5年リースなどで約3億8000万円かかったが、胃がん切除術で20症例以上の成功という、先進医療の条件をクリアした。

 「ダ・ヴィンチ」は高額機器であり、患者負担は全額自己負担の場合は200万〜300万円。受けられる人は限られている。医療機関には減価償却などの負担もあり、先進医療でそのハードルを少しでも下げ、さらには保険適用になることを期待している。

 がん以外の先進医療もある。がん患者から摘出した腎臓を他の患者に移植する「病気腎移植」は、16年に先進医療の申請がなされていたが、承認は先送りされて継続審議中だ。

 これは直径7cm以下のがんのある腎臓を患者から摘出後、腫瘍を除去した上で別の患者に移植する手法で、09年以降、パイオニアである宇和島徳洲会病院(愛媛県)を中心に、臨床研究として18例に実施された。先進医療技術審査部会では、倫理審査委員会や、治療が安全に行われているかを評価するモニタリング体制に改善点が必要であると指摘した。

先進医療の“規制緩和版”には課題も

 16年4月には、先進医療に加えて「患者申出療養」という新たな混合診療の仕組みがスタートした。厚労省は、「困難な病気と闘う患者の思いに応えるため、先進的な医療について、患者の申出を起点とし、安全性・有効性等を確認しつつ、身近な医療機関で迅速に受けられるようにするもの」と解説しているが、いわば先進医療の“規制緩和版”ともいえるものだ。

 制度創設から1年が経過したが、治療計画を承認されたのは、以下のわずか4件のみだ。東京大学医学部附属病院の胃がんが腹膜に転移した患者への新たな抗がん剤治療(44万円、121人)、慶應義塾大学病院のステロイド治療で十分な効果が出ない難治性皮膚疾患への新治療(145万円、10人を予定)、大阪大学医学部附属病院の心臓移植が適用外の患者への植え込み型補助人工心臓の活用(1613万円、6人を予定)、名古屋大学医学部附属病院(小脳にできる悪性腫瘍への未承認薬の使用(73万円、5人を予定)。

 同制度は臨床研究として一定の症例数で区切ってしまうことも課題だ。

 先進医療、そして保険適用の拡大が、医療費の増加に繋がることは間違いない。医療機関においては、自己を利する目的で先進医療に走るのでなく、本当に必要な人に届くことを真剣に考慮して事に当たるべきだろう。

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