SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

第14回「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」開催リポート

第5世代重粒子線がん治療装置「量子メス」研究開発プロジェクト
重粒子線治療は進歩と続けてきました。がんを塗りつぶすように照射する「スキャニング照射法」や、さまざまな方向から照射できる「回転ガントリー」が開発され、「強度変調イオン照射(IMIT)」も実用化に至っています。ただ、決定的な欠点がありました。施設が巨大で高額なことです。第1世代の放医研のは、120m×65mの大きさで、320億円。現在の第3世代でも、60m×45mで140億円になっています。これでは、普及しません。専用の建屋が必要なほど大きく、高額すぎます。また、性能は向上していますが、まだ1回照射ですべてのがんを治療できるところまではいっていません。更なる性能の向上が求められています。

大きさについては、第4世代で45m×34m、第5世代では10m×20mまで小型化し、病院の2部屋程度で入る大きさにします。さらに、すべてのがんを1回照射で治療できる高性能を目指します。これが第世代重粒子線がん治療装置「量子メス」です。

小型化のためには、超電導技術によるシンクロトロンの大幅な小型化と、レーザー加速技術による入射器の小型化が必要です。さらに、炭素以外のイオンも照射するマルチイオン照射により、治療効果を向上させることができます。

この量子メスを研究開発するため、QSTは、三菱電機、日立製作所、東芝、住友重機の4社と包括協定を結びました。1993年に完成したHIMACは、4社連合と放医研によって開発に成功しました。現在、この4社は競争関係にありますが、QSTは4社と技術研究組合を作り、共同開発に取り組んでいきます。

量子メスの市場予測ですが、毎年国内で約100万人が新たにがんを発症しています。量子メスの小型化・低価格化・高性能化が成功すると、25%程度まで量子メスの適用が拡大すると考えられます。1台で年間750人の治療ができたとしても、国内に330台の量子メスが必要になります。海外も含めると、毎年1400万人の患者が発症しており、今後20年で毎年2200万人まで増加すると考えられています。25%が適用とすると、量子メスが7300台必要で、耐用年数を15年とすると、毎年500台程度の出荷が必要になります。1台が20億円なら1兆円、50億円なら2.5兆円の市場となります。

量子メスの研究開発ですが、6年後くらいに超電導シンクロトロンとマルチイオン照射を実現させて第4世代を導入できるようにする予定です。そして、10年後くらいを目標に、レーザー加速入射器を完成させ、第5世代の量子メスを世に送り出す。このようなロードマップになっています。

講演後には質疑応答があり、次のような発言がありました。

質疑応答は、QST田島保英理事、野田耕司所長、鎌田正病院長にもご対応をいただきました。

土屋了介(地方独立行政法人神奈川県立病院機構理事長)
「マルチ照射を行うということですが、70年代から90年代にかけて、アメリカでアルゴンやネオンを試していますが、あまりうまくいきませんでした。放医研は炭素イオンを使ったのがよかったのだと思います。マルチ照射では、アルゴンやネオンが使われるのですか」

鎌田正(放射線医学総合研究所病院病院長)
「ネオンやアルゴンは少し重すぎる、と私は思っています。入る部分とピークの部分にあまり差がなく、腫瘍に届くまでの間で強い生物効果を発揮してしまいます。我々が今考えているのは、それほど重いイオンではなく、炭素よりちょっと重い酸素と、ちょっと軽いヘリウムを組み合わせるマルチイオンです」

土屋「将来は1回照射が可能になるということですが、現在、肺がんは1回照射が可能なのに、前立腺がんでは1回照射ができていません。どういう点が難しいからですか」

鎌田「将来的には、前立腺がんなどでも1回照射が可能だと思っています。現在できていない理由は、前立腺の中心部を通る尿道にかかる線量も、がん組織にかかる線量も同じだからです。1回照射を行うためには、尿道の耐用線量を探る必要があります。実現させるためには、尿道の線量をある程度下げる必要があると思いますが、スキャニングを使うことで、尿道の線量を下げられることはわかっています。いきなり1回照射にはできないので、8回、4回と減らしていき、最終的に1回照射を実現させたいと思います」

土屋「半導体や太陽光発電を日本が開発したときには、90%くらいのシェアだったのに、5~年たつとゼロに近くなってしまい、会社がつぶれていくということが起きていました。家電でもそうしたことが起きています。つぶれそうになってから1社にしようと言い出すのではなく、最初から各社が協力して1社にしたほうが、開発のスピードも速いし、価格も安くできて世界を席巻できるのではないかと思いますが」

平野「私もそう思っています。落ち目になってから一緒になるより、勢いがあるときに一緒になったほうが力になります。また、まとまって1社になったとしても、ハードだけやっていたら、いずれ負けると思います。やはりシステムとして、ソフト的なものも含めてやっていかないと」


原田
「産業政策一般に通じる話ですね。健全な競争環境を守ったほうがそれぞれ伸びていくという考えもあるし、全体のマーケットを見ながら、一緒に協力したほうがいいという考えもあります。確かにソーラービジネスは、5~6年前までは圧倒的に日本企業が優位でしたが、状況が変わってしまいました。量子メスに関しては、産業政策としてどのようにやっていくべきか、考えていただくといいでしょう」
 

関川浩司(社会医療法人財団石心会第二川崎幸クリニック院長)
「外科は手術でがんを取り除き、重粒子線治療ではがんを焼くわけですが、同じような治療法だと思います。将来的には、実質臓器の固形がんはすべて治療できるのでしょうか。私は消化管の外科を専門にしていますが、消化管はだめだろうと思うのですが」

平野「おっしゃる通り、消化管は難しいと思います。ただ、外科とこの治療は根本的に何が違うのかというと、外科では腫瘍を取り除きますが、重粒子線治療では残すわけです。死んだ腫瘍が残ると、それが免疫抗原となり、免疫が活性化される可能性があります。腹部の腫瘍を治療したのに、肺の転移巣も縮小することがときどきありますが、これはそういったことだと考えられています」

関川「血管に接している腫瘍は、外科医は悩むところですが、重粒子線は安全に照射できるのですか」

鎌田「それについては経験を積んでいますので、適応にならないケースもありますが、かなり安全に照射することができます」

大川伸一(独立行政法人神奈川県立がんセンター院長)
「私は肝胆膵の中でも膵臓がんを専門にしているのですが、切除できない局所進行膵臓がんの患者が増えています。最近の薬の進歩により、1年以上生存する方が増えてきました。その場合、医療費がどのくらいかかるか計算してみると、1年で1000万円余りになります。薬だけでなく、入退院を繰り返すためです。2年ならこの倍です。私の患者で85歳の方ですが、数年前に放医研で重粒子線治療を受けました。この人の場合、最初に314万円必要になりましたが、今は3ヵ月に1回のCTと採血だけですから、年間20万円いくかどうかでしょう。これから手術できない膵臓がんが増えると思いますが、この人たちの治療手段として、特に高齢の人には、体にやさしい治療ですので、もっと重粒子線治療をアピールしていく必要があると思います」

平野「その通りだと思います。そこで私は、がん死ゼロだけでなく、健康長寿社会といっています。医療経済を考えないと、「社会」とはいえません。そして、健康長寿というからには、副作用が軽くQOLが維持されなければなりません。現在の主たる治療法となっている化学療法は、特に分子標的薬ではなく一般的な抗がん剤は、私が先ほどあげた6項目には当てはまりません。将来的には消えていくだろうと考えています」

大川「膵臓がんをオプジーボで治療していて、重粒子線治療を行ったら、よい結果が得られたという症例がありました。オプジーボは膵臓がんにはいい結果を出しておらず、そういうものだと思っていたのですが、将来、免疫治療と重粒子線をからめた臨床試験ができればと思いました」

鎌田「オプジーボを個人輸入して使っていた膵臓がんの患者さんが、重粒子線治療を受けにきたというケースでした。痛みがひどかったので、症状だけ取りましょうということで腹部の腫瘍に照射したところ、あのような結果になりました。現在、症例報告するために準備を進めています。将来的にどうなるかわかりませんが。1つの可能性が示されているとは思います」

邱実(QUEST-ETERNAL GROUP会長)「上海の病院が200億円くらいで重粒子線の機械を買いましたが、うまく使えなくて、ずっとそのまま置いてあるようです。中国の一般の人が、こういった医療機器を使った治療を受けられるようになるまで、どのくらいの年月がかかるのでしょうか。機械が高額ですから、治療費も高額になります。中国の一般庶民は、いつになったら、こんな治療を受けられるのでしょう」
 

鎌田「上海の復旦大学の装置ですね。復旦大学はドイツ製の装置を入れたのですが、企業が製造をやめてしまいましたし、性能も日本の装置に比べるとやや劣ります。復旦大学と我々はお付き合いがあるのですが、復旦大学で日本と同じことをやるのは、難しいのではないかと思います。最近は、中国の各地から、日本製の装置を購入したいという話がきているようです」

平野「今でも日本では300万円ほどで治療しています。将来、量子メスが開発され、量産体制に入れば、たぶん10分の1くらいになるでしょう。私は30万円、あるいは20万円ほどで治療を受けられるようになると考えています」

今回は、プロジェクト開発研究のためにQSTと包括協定を結んでいる、三菱電機、日立製作所、東芝、住友重機の4社のご担当の皆様にも勉強会へ参加頂きました。勉強会後の懇親会は参加者による活発な交流の場となりました。

PDF記事を見る


LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top