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病院経営と医療の質を支える「人材育成」

病院経営と医療の質を支える「人材育成」

宮﨑瑞穂(みやざき・みずほ)1944年東京都生まれ。70年群馬大学医学部卒業。同年群馬大学医学部附属病院脳神経外科。77年近森病院脳神経外科科長。83年前橋赤十字病院脳神経外科部長。97年副院長。99年救命救急センター長兼務。2001年院長。15年名誉院長。16年日本病院会副会長。日本脳神経外科学会専門医。日本救急科専門医。日本診療録管理学会監事。日本赤十字社病院長連盟名誉会長。


医師をはじめとする医療者は、医療技術に優れているだけに止まらず、病院経営に関わることも同時に視野に入れ考えられることが望ましい。例えば、入院患者の単価を上げるには在院日数を短くする必要があり、そのためには合併症を減らしたり、栄養状態を良くしたりしなければならない。病院経営を考えることは、そのまま医療の質の向上につながると、宮﨑瑞穂氏は言う。病院経営における人材育成の重要性について話を伺った。

——人材育成の重要性を考えるようになったきっかけは?

宮﨑 直接のきっかけは、日本病院会で人材育成担当の委員長になったことです。ただ、私自身、前橋赤十字病院で病院長を14年間やっていましたから、人材育成の重要性は身をもって感じてはいました。良い人材が育たなければ、病院経営に影響しますし、医療の質も向上しません。本赤十字社の病院は独立採算なので、病院経営をしっかりやっていかなければなりません。現在、移転先に新病院を建設中ですが、そのための資金集めも各病院でやります。本部から支給されると思う人が多いようですが、そうではないのです。

——病院にはどんな人材が必要ですか。

宮﨑 例えば、医師が診療報酬について理解し、それを念頭に置いて仕事をしているかどうか、ということがあります。患者さん1人1日当たりの診療収入、いわゆる単価を上げるためには、入院の在院日数を短くしていく必要があります。それを理解していれば、入院を長引かせないために何が必要かを考えるようになります。具体的に言えば、合併症を起こさないようにしたり、栄養状態を良くしたりするといったことです。DPC(包括医療費支払い制度)を取り入れていればなおさら、合併症を起こさないようにすることはとても重要です。こういったことからも分かるように、病院経営と医療の質というのは密接な関係があります。質の高い医療を行っていれば、病院経営も安定するわけです。そして、そのために必要なのが優れた人材なのです。

人材育成は人材確保にもつながる

——人材育成のために病院がすべきことは?

宮﨑 日本赤十字社では、各病院に研修推進室を作るように指示しています。医師の臨床研修制度が始まったのは2004年ですが、それを機に、各病院で研修体制を充実させるための部署を作るよう指示を出したのです。最初は医師が対象でしたが、他の職種にも対象が広がっていきました。人材育成は人材確保につながります。良い研修が出来る病院は、自分も優れた医療人になれると思えるので、人が集まるのです。医師不足、看護師不足と言われますが、人材育成に力を入れることは、人材確保にも効果があります。

——人材育成に職種による違いはありますか。

宮﨑 医師は学会に行くなど、専門分野ごとに自分達で勉強していくことが中心になります。また、若いうちは幾つかの病院を回り技術を身に付けていきます。看護師は日本看護協会のクリニカルラダーという制度があります。看護技術をいくつかの段階に分けて教育していくのですが、それに沿って研修してもらうことになります。専門看護師や認定看護師の制度もありますし、どの病院でも看護師の人数は多いので、自立して組織的に研修しているところが多いと思います。その点、検査技師や薬剤師は人数が少なく、なかなか組織的にやることは出来ません。しかし、チーム医療のためにも、全ての職種がレベルアップしていく必要があります。

——日本病院会で行っている人材育成は?

宮﨑 職種別に研修を行っています。看護師については、日本看護協会がやっているのでまだこちらではやっていませんが、他の職種については薬剤師や放射線技師向けの研修を行っています。医療技術職に限らず、事務職のための研修もあり、人事労務関係とか、財務とか、事務の内容別に行っています。

——人材育成には事務職も含まれるのですね。

宮﨑 もちろんです。私は、医師は「高級職人」であると言っています。給料の高い職人ですね。つまり、ある意味事務職がホワイトカラーで、医者はブルーカラーなのです。ところが、病院という社会では、これまではとかく医師が威張っていて、俺の言うことを聞け、という関係になりやすい。そうではなくて、事務職がしっかりしたシステムを作り、その中で医師が職人的に質の高い仕事をしていればいいようにならなければいけません。そのためにも、事務系の職員が自信を持って、プロフェッショナルとして仕事を出来るようになる必要があります。

——病院経営を学ぶコースはないのですか。

宮﨑 去年から、「副院長コース」というのを作りました。病院の副院長と、何人かは院長が受講されていましたが、大変好評でした。副院長になった段階から、しっかり勉強して頂こうというコースです。病院長が大変なのは、それまで医療だけをやっていた人が、ある時から急に病院経営を任されるというケースです。昔は、病院経営の仕事を事務職に丸投げしてしまう人もいました。俺は経営なんかには興味がないから事務の方でやれ、ということです。しかし、今はそんなことをやっていたら、たちまち赤字になってしまいます。病院の利益率は低いので、いい加減なことをやっている余裕はありません。病院経営に疎い病院長ではやっていけない時代なのです。例えば、前橋赤十字病院の収入は年間200億円くらいですから、それなりの企業並みと言えます。

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