高額のC型肝炎治療薬「ハーボニー配合錠」の偽造品が、厚生労働省を揺さぶっている。厚労省は2月16日、卸売業者が医薬品を買い取る際に売り手の身分確認を義務付けるなどの通知を出し、薬の裏流通ルート潰しに躍起だ。しかし、万全とは言えず、同省幹部は「抜け道をふさぐのは難しい」とこぼす。
ハーボニーの偽薬が発覚したのは、1月10日。奈良県などに展開する薬局チェーン「関西メディコ」の本部と店舗で、5本の偽薬入りボトルが見つかった。以降、奈良や東京で計15本が確認されている。いずれもボトルは正規品ながら外箱がなく、流通過程で中身がすり替えられたようだ。ハーボニーの公定薬価は28錠入りボトル1本で153万4316円。偽造による利幅は大きい。
厚労省などによると、偽薬は個人の男女が都内の現金問屋3社に持ち込んだものだった。問屋側は持ち込んだ側の身元を確認せず、添付文書や外箱がないボトルを1本90〜100万円程度で購入、一部を関西メディコに転売し、そのうち1本は患者にも売られていた。
日本薬剤師会幹部は「添付文書すらない薬を患者に売るなんて、同業者として信じがたい」と絶句する。
現金問屋の中には、横流し品を買い取り、正規ルートより安く販売する業者もある。医薬品医療機器法は販売許可を受けていない者に対し、医薬品の販売を禁止する一方、買うことは禁じていない。同法施行規則も、取引相手の身分確認までは求めていない。
このため現金問屋の間では、販売許可のない医師や患者らから余った薬をこっそり安く買いたたき、他に転売する商法が成り立っている。その裏には、薬の横流しによって裏金を作ろうという医療機関側の思惑もある。
今回の厚労省通知は、現金問屋を含めた卸売業者に対し、買い取り時に取引相手の身分確認と連絡先などの記録を義務付けている。医師や患者による薬の横流しを難しくする効果はありそうだ。
同省の伊澤知法監視指導・麻薬対策課長は2月28日、全国薬務関係主管課長会議で、「患者に偽造品が渡ったことは、薬事行政を預かる立場として痛恨の極み」と述べ、今後、業者への立入検査は事前通告無しで行うよう求めた。
とはいえ、通知の効果は限定的である。販売許可を持つ薬局などによる余剰在庫の転売は防げないためだ。現金問屋はこれまでも薬局に在庫買い取りを働き掛けており、不透明な流通ルートは残る。他の薬局や医療機関がこうした薬を安く仕入れることで、多額の薬価差益を得られる構図は変わらない。
「外箱ごと欲しい」。東京都文京区の薬局店主によると、処方薬でも時折そう持ち掛けてくる人がいるという。「高額薬は箱だけでも商品になるんでしょう。ただ、偽薬に使われる可能性もあります」とこの店主は顔をしかめる。
厚労省幹部は「医療機関や薬局が過剰な薬価差を求める限り、違法販売を根絶することはできないだろう」と漏らす。
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