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未来の会

旭化成

旭化成

子会社改竄事件ミソ付け
期待のアも所

 旭化成は、子会社の旭化成建材が起こした横浜市内のマンション基礎工事データ改竄事件が2015年に発覚して以来、器量を下げっぱなしだ。

 2月に発表した第3四半期決算の数字はひところの勢いを取り戻していない。何しろ、売り上げは前年同期と比べて6・3%減の1兆3568億円で、営業利益に至っては9・9%減。通期でも売上高は前年比3・7%減の1兆8700億円、営業利益も7・4%減の1530億円の予想で、中期経営計画で目指した売り上げ2兆2000億円を下回る数字なのである。

抜擢された社長は1年で退任の憂き目

 14年に飛躍を期待されて「ヘルスケア領域」から抜擢された浅野敏雄氏は、社長就任1年で退任。ケジメをつけたにもかかわらず、同社は未だに後遺症に苦しんでいる。

 旭化成建材が起こしたデータ改竄事件を真相究明する外部調査委員会の中間報告発表後、社長退任発表の席上で、浅野前社長が涙を浮かべたと話題になったが、それも当然だろう。騒動の最中に、社内で「山口信夫名誉会長が存命だったら、こんなに問題にされなかっただろう」などと陰口を叩かれたのである。

 10年に亡くなった山口氏は日本商工会議所会頭を務め、社内ではワンマンでもあった。その山口氏が力を入れたのがヘルスケア領域で、これからの同社を支える事業として、傍流の同領域で実績のあった浅野氏が抜擢されたのだ。

 ところが、同領域ではない中核の「住宅領域」で寝耳の水マンション傾斜騒ぎが起き、その全責任を負わされての退任となった。「山口氏が生きていたら」という声が社内から上がったのでは、浅野氏から悔し涙が出るのも無理はない。

 そもそも旭化成はワンマンを好む体質がある。その典型が「旭化成中興の祖」と言われた故・宮崎輝氏だ。宮崎氏は石油化学事業や住宅事業など次々に事業を広げ、世間から貪欲な「ダボハゼ経営」と呼ばれたほどだったが、社長就任後、社内で「次期社長候補」「プリンス」と嘱望される人物が登場すると、役員から飛ばし、いつの間にか同社の役員は息子のような年代ばかりになってしまった。

 それでもご本人は親しい財界人に「俺はサラリーマン社長だから、いつ辞めさせられるか分からない」と不安を語っていたが、何とワンマン社長・会長を30年間も続けた。

 宮崎氏が亡くなった後、会長になったのが山口氏だが、商工会議所会頭に就任しても代表権を手放さず、ワンマン体制を敷いたのは有名だ。業績を上げ、事業を飛躍させた結果、ワンマン社長になってしまうのならともかく、最初からワンマン社長を待望するような社風ではもたない。

 旭化成は「ダボハゼ」と言われたように、事業は化学繊維、ケミカル、エレクトロニクス、住宅・建材、医薬・医療など多岐にわたっていた。しかし、昨年4月に「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3事業領域に整理・統合し、事業持ち株会社制に移行した。

 同時に3カ年(16年〜18年)の新中期経営計画「Cs(シーズ)for Tomorrow 2018(CT2018)」を発表。グループスローガンとして「Creating for Tomorrow 昨日まで世界になかったものを。」を掲げた。

 これらの「C」は、新市場を創出するための各事業や技術などのConnect(結合)と、従業員の信頼回復に向けた三つの実践(Compliance、Communication、Challenge)の頭文字をCだという。これもダボハゼ的だが、同計画は基礎工事データ改竄事件の後遺症を払拭し、改めて企業価値の向上を目指すのが目的だ。

 データ改竄事件で、旭化成の信頼は地に落ちた。しかし、もともと同社の事業や製品の品質には定評があった。住宅や化学繊維、ケミカル、エレクトロニクス事業でも日本のトップクラスを走ってきたのだ。例えば、同社の「へーベルハウス」は高級住宅として同業者から羨ましがられる評価を得ていた。

 しかし、庶民が生涯で最大の買物であるマンション建設で手抜き工事を行っていたのでは、会社に対する信頼性が失われるのは当然だし、浅野社長が引責辞任するのも当然と言える。

 新体制でスタートした旭化成の実態は、改善したのだろうか。

 主力事業に位置付けられているマテリアル部門では重荷になっていた岡山県水島のエチレンセンターを切り離して以来、順調だった。ところが、東南アジア、とりわけ中国の景気減速に加え、為替が多少円高に振れただけで売り上げが大きく減少してしまっている。

 もう一つの主力事業である住宅もデータ改竄事件の影響で昨年度の受注が伸びなかったため売り上げ減に陥っている。皮肉にも唯一好調だったのは賃貸管理事業だけだった。

ヘルスケア領域は社内では「傍流」

 三番目の柱として期待されたヘルスケア領域はどうか。同領域には「医薬事業」を担う旭化成ファーマ、血液透析や輸血フィルターなど「医療事業」を行っている旭化成メディカル、「クリティカルケア事業」を展開している米除細動器メーカーのゾール・メディカルの3社がある。結論から言えば、同領域も成績は芳しくない。

 三菱ケミカルや住友化学でも似たようなところがあるのだが、旭化成の社内でもマテリアル領域や住宅領域こそ本流で、ヘルスケア領域は付け足しと見なす意識がある。いわゆる名門意識だ。

 データ改竄事件の折、浅野社長を中心にまとまるのではなく、宮崎社長の右腕として住宅事業を赤字部門からグループ最大の稼ぎ頭に転換した「山口氏がいたら」と口にするのも、そんな意識からだろう。

 三菱ケミカルが化学部門の不振に喘いでいた時、田辺三菱製薬が利益を稼ぎ出していた事実を他山の石とすることは出来なかったようだ。

 今、旭化成の屋台骨であるマテリアル領域も住宅領域も好調なわけではない。中国の景気減速はさらに続くと見られ、マテリアル領域の今後は要注意なのである。住宅領域は国内需要がメインだが、少子高齢化社会が進む現状では需要拡大は望めない不安が付きまとう。

 では、社内であまり高く評価されていないヘルスケア領域はどうか。

 実は、これこそ今の日本での成長産業なのである。「限界集落の成長産業は、医療と介護にお寺と葬祭業だ」と言われているほどだ。

 「ミスター旭化成」の異名を取った山口氏がヘルスケアへの進出を後押ししたのも、藤原健嗣元社長が自身の後任社長に医薬品畑出身の浅野氏を抜擢したのも、ヘルスケア領域を成長させ、同社を支える柱にしたかったからだといわれている。

 浅野氏の後を継いだ小堀秀毅社長の下で同領域の実情はどうなっているか。

 旭化成ファーマの医薬品は骨粗鬆症治療薬を中心に、救急救命に不可欠な血液凝固阻止剤、免疫抑制剤、排尿障害改善薬、抗うつ剤がある。骨粗鬆症治療剤は「テリボン」、年1回投与のビスホスホネート製剤「リクラスト(一般名はゾレドロン酸水和物)」「エルシトニン注20S」と揃っている。また、血液凝固阻止剤「リコモジュリン」、排尿障害改善薬「フリバス」はよく知られている。さらに、免疫抑制剤「ブレディニン」、抗うつ剤「トレドミン」などがあるが、その多くがニッチな医薬品である。もっとも、旭化成はニッチの商品から事業展開し、徐々に主要な商品で市場を席巻することが得意だ。

 しかし、医薬事業を引っ張るテリボンは18年まで市場拡大再算定の対象で、毎年、薬価引き下げが続くと見られている。昨年秋に承認されたリクラストは伸びてはいるが、まだ浸透していない。むしろ、テリボンもリコモジュリンも販売数量は伸びても薬価改定の影響を受け、フリバスはジェネリック医薬品の進出で価格が下がる一方で、共に売り上げ増に繋がらない状態だ。しかも、政府は毎年薬価改定の方向に進めようとしている。販売数量は伸びても、売り上げ増加にさほど貢献しそうもない慢性的な悩みを抱えている。

「ニッチの得意な企業」で終わるか

 旭化成はフィンランドの製薬企業や米国のバイオ製薬企業と提携し、疼痛領域への進出を計画しているが、これもどちらかといえばニッチな領域だ。もちろん、ニッチな領域の医薬品も重要だが、患者数の多い疾患向けの大型医薬品を開発しなければ、飛躍は難しい。

 医療事業の旭化成メディカルは透析に必要な血液浄化器、白血球除去フィルター、ウイルス除去フィルターなどで、旭化成のフィルター事業から発展した企業だが、国内は競争が激しく、輸出では円高が進むと利益が無くなってしまう。日本銀行の異次元の超低金利が頼りでは、心許ない。

 多少期待できるのはクリティカル事業くらいだ。12年に22億1000万㌦(当時の為替レートで約1800億円)を投下して100%子会社にした提携先の米医療機器メーカー、ゾール・メディカルの事業だ。

 ゾールは自動体外式除細動器(AED)や救急機関向けのITネットワークシステムなど救命救急領域に特化した医療機器を製造している。全米でトップのAEDは日本国内では他社に先んじられ、販売増は厳しいが、米国は着用型(ライフベスト)が伸びており、救急分野でまだ拡大が期待出来る。

 ゾール買収は旭化成最大の買収金額と言われた。円高時代の買収は価格的にも成功だったし、ゾールの血管内温度管理システム「サーモガード」が心肺停止蘇生後の低体温療法に有用として適用拡大を取得したように、事業内容でも成功だった。

 しかし、救命救急分野もまたニッチの領域だ。成長への寄与度は低い。

 結局、第三の柱と期待されるヘルスケア領域は、まだまだニッチな事業にすぎない。

 旭化成では4月1日付で旭化成ファーマの堀一良社長が退任し、旭化成メディカルの柴田豊社長が旭化成ファーマ社長に転じるとともに、旭化成メディカル社長には姫野毅・取締役兼常務執行役員が昇格する人事を発表した。両氏共、旭化成でヘルスケア領域の執行役員を務めた経歴がある。

 旭化成のトップはヘルスケア領域に期待しているが、問題が起こるとワンマン頼りに陥る体質を改めないままでは、「ニッチの得意な大企業」で終ってしまうだろう。

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