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現状に即した「高齢者の定義と区分」提案

現状に即した「高齢者の定義と区分」提案

大内尉義(おおうち・やすよし)1949年岡山県生まれ。73年東京大学医学部卒業。三井記念病院内科医員、東京大学医学部第3内科助手、米テネシー大学医学部生理学教室留学、東京大学医学部老年病学教室講師などを経て、95年同大学大学院医学系研究科加齢医学講座教授。05年同大学医学部附属病院内科部門長。2006年同病院副院長。11年東京大学保健・健康推進本部長。13年虎の門病院院長、東京大学名誉教授。日本老年医学会理事長、日本老年学会理事長などを歴任。


で意欲の65歳以上が活躍で社会
日本老年学会と日本老年医学会は、新しい「高齢者」の定義と区分を提案した。65歳以上を高齢者とする従来の定義を見直し、高齢者は75歳以上、65歳〜74歳を「准高齢者」とするものだ。65歳以上を高齢者とするのが実感にそぐわなくなっていたのは確かだが、この定義と区分は何に基づき、何を目指しているのだろうか。両学会の前理事長で老年医学の専門家である大内尉義氏に話を聞いた。

——高齢者の新しい定義を提案した理由は?

大内 日本を含めた先進国では、高齢者の基準は65歳以上になっています。しかし、これには医学的・生物学的な根拠はありません。この定義の由来については諸説ありますが、最も有力なのは、WHO(世界保健機関)が1956年に「65歳以上の人口が7%以上の社会を高齢化社会とする」としたことです。当時の平均寿命は、欧米で70歳前後、日本で65歳前後でしたから、そのまま受け入れられたのです。しかし、それから60年ほど経過し、人々の寿命はどんどん延びて、日本人の平均余命は男性でも80歳を超え、女性は87歳くらいになっています。この時代に、65歳以上を高齢者とすることに対し、我々は学問的な立場から違和感を持っていましたし、日常生活でおかしいと感じていた人も多いでしょう。例えば、65歳以上でも、電車の中で席を譲られることに違和感を持つ人はたくさんいます。見た目にも若々しく元気な人が増えています。そこで、実際のところどうなのか、学問的に調べてみようということになったわけです。2013年のことですが、日本老年学会と日本老年医学会の理事長を務めていた私が音頭をとって、検討を始めることにしました。

——具体的にはどんなことを調べたのですか。

大内 重要な点は、医学以外の分野の研究者に参加してもらったことです。日本老年学会の、看護や介護、社会学、心理学といった幅広い分野の人が集まって、いろいろなデータを出し合い、高齢者の定義について検討したわけです。

10歳ほど若返っていることが明らかに

——分かったのはどのようなことですか

大内 まず、病気にかかりやすいかどうかですが、脳卒中を例にとると、死亡率は大きく低下していました。治療が進歩して亡くなる人が減っただけとも考えられますが、受療率を調べてもやはり下がっているのです。骨粗鬆症や心疾患など他の多くの病気も同じ傾向にあります。その原因として、肉体が若返っているのではないかと考えられたわけです。次に体力を調べてみると、歩く速度も握力も向上していることが分かりました。それから、外出する、風呂に入る、家事をするといった生活機能は加齢に伴って落ちていきますが、最近は同じ年齢で比べると、20年前の高齢者に比べて生活機能が高いことが分かりました。歯の数についても、高齢になった時の歯の数の減り方が大幅に遅くなっていることが分かったのです。

——知的機能は?

大内 最近、認知症は増えていますが、認知症でない方の認知機能を経年的に調べた結果では、良くなっていることが分かりました。10年から20年若返っているという結果が出ています。

——これらを総合的に判断したのですか。

大内 そうです。最近の10〜20年のスパンで見てみると、項目によって差はありますが、大体5〜10年、中には20年ほど若返っているものもあります。そういったことから、平均的に10年くらい若返っていると考えたのです。これらの知見を総合して、やはり65歳以上を高齢者の基準とするのは適切ではなく、これまで後期高齢者と言われてきた75歳以上を高齢者と定義するのが妥当ではないかと考えたわけです。

——65〜74歳を「准高齢者」とした理由は?

大内 「成人後期」とする意見もあったのですが、高齢という言葉を残して「准高齢者」、英語では「pre-old」としました。これから高齢期に移行し、健康面でも社会との関わりの面でも、大きく変化する可能性のある次のステージに備えてほしいというメッセージを込めて、あえて高齢という言葉を残したのです。90歳以上を「超高齢者」としたのは、平均寿命がまだ90歳には達していないので、これが妥当だろうと考えました。ここは従来と変わっていません。

——高齢者の若返り現象は今後も続きますか。

大内 この現象が起きたのは高度経済成長期以降です。経済が良くなって栄養が改善し、医学が進歩したことで、若返り現象が起きてきたのです。しかし、現在の子供たちが高齢者になる頃、同じ現象が続いているという保証はありません。特に最近の子供は、栄養過多や運動不足が問題になっています。健康教育などをきちんと行う必要があります。これは我々、医師の責任ですね。

65歳を過ぎても活躍できる社会に

——この提言が年金支給年齢の引き上げにつながると危惧する意見もあります。

大内 そのように、国の政策に安易に利用されるのは、我々としては不本意です。それが目的で新しい定義を作ったわけではありません。一部のメディアは、国と結託しているなどと言っていますが、そんなことは全くありません。超高齢社会を目前に控えた我が国にとって、プラスの面が大きいと思っています。

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