経営に活かす法律の知恵袋
井上法律事務所所長 弁護士 井上清成
1. センター理事の一部は勇退を
平成24年(2012年)6月、内閣府の所管に係る「死因究明等の推進に関する法律」(死因究明推進法)が制定され、その後も死因究明の推進の在り方が模索されている。
ただ、そのうちの診療関連死についてのみは、死因究明推進法第16条で「医療の提供に関連して死亡した者の死因究明のための制度については、その特殊性に鑑み、政府において別途検討するものとする」として別途の取扱いが定められていた。そこで、早々に平成26年(2014年)6月には医療法改正が行われ、平成27年(2015年)10月からは固有の「医療事故調査制度」が開始され、すでに施行から1年半近く、順調に運用されてきている。
その中で唯一残念なことは、医療事故調査制度の中核を担う「医療事故調査・支援センター」を運営している組織の中心人物達の中には、今もって、十数年前の昔のままの観念で固定されてしまった者が一部にいて、いつまでも居座っていることであろうか。
とは言え、「医療事故調査制度」の創設に協力して、制度のスタートを順調に進めた功績は大きいとも評し得よう。そこで、ひと区切り付いたところでもあるので、中心を担った理事の一部に対しては、これを花道に勇退をお勧めしたい。
2. 次は診療関連死以外の死因究明を
診療関連死については、後は、手堅く進めていきさえすれば十分であろう。これからの問題は、診療関連死以外の死因究明を何とかして推進することである。
まず、「診療関連死以外の死因究明」とは、死因究明推進法における定義を参考にすれば、「死因究明(死体(妊娠四月以上の死胎を含む。ただし、医療の提供に関連して死亡した者を除く。以下同じ)について、検案、解剖その他の方法によりその死亡の原因、推定年月日時及び場所等を明らかにすることをいう。以下同じ)」といったものになるであろう。
次に、その基本理念の総論は、死因究明推進法第2条第1項を引用すれば、「死因究明の推進は、死因究明が死者の生存していた最後の時点における状況を明らかにするものであることに鑑み、死者及びその遺族等の権利利益を踏まえてこれを適切に行うことが生命の尊重と個人の尊厳の保持につながるものであるとの基本的認識の下で行われるもの」となる。
3. 厚労省は公衆衛生の向上を
問題は、その基本理念の各論であろう。
もともと、死因究明推進法第2条第2項では、その基本理念の各論について、「死因究明の推進は、高齢化の進展等の社会情勢の変化を踏まえつつ、人の死亡が犯罪行為に起因するものであるか否かの判別の適正の確保、公衆衛生の向上その他の死因究明に関連する制度の目的の適切な実現に資するよう、行われるものとする」と定められていた。大きく分けると、「犯罪行為の判別」と「公衆衛生の向上」の二つが定められていたと言ってよい。
前者の「犯罪行為の判別」はそもそも警察庁の所管であり、後者の「公衆衛生の向上」はそもそも厚生労働省の所管である。ただ、所管の大きく異なる各省庁にまたがっていたので各省庁を調整するために、その担当省庁は内閣府とされてしまう。結局、内閣府という中途半端な位置付けとなってしまったので、死因究明推進という総論的な理念は良かったものの、各論的には遅々として進まなくなってしまった。
こうして見ると、二つの理念を包括したままでは事は進まない。二つの理念を分離し、まずは厚労省としては単独で、「公衆衛生の向上」を進めていくべきであろう。
従って、死因究明推進法第2条第2項の基本理念の各論は、「死因究明の推進は、高齢化の進展等の社会情勢の変化を踏まえつつ、公衆衛生の向上に資するよう行われるものとする」というように、シンプルに改めるのがよい。
4. 死亡診断・死体検案の充実を
「死因究明の推進」を「公衆衛生の向上」に絞ったとすると、その重点は自ずから、「死亡診断・死体検案の充実」ということになろう。特に今は、「高齢化の進展等の社会情勢の変化を踏まえ」るべき時である。つまり、喫緊の課題の一つの例は、「在宅医療の下での在宅死」、すなわち「在宅看取り」における「死亡診断の充実」と言ってよいかもしれない。
充実した死亡診断は、当該死者の病状を最も良く知っていたかかりつけ医が一番である。少なくとも直近やその頃に診療を行った各医師の診療情報は必須であろう。
ところが、現状では、何かというと救急搬送や警察沙汰となってしまい、今までその人を診療したことがない医師が死体検案をすることになりがちである。さらには、死体検案書を作成する際にも、それまでの当該死者の各所での生前の診療情報が考慮されないことも多い。
つまり、「死亡診断・死体検案の充実」のためには、生前に診療をした医師が、生前の各所での診療の各情報をも十分に踏まえて、当該医師自らで「死亡診断・死体検案」を行うべきなのである。出来れば警察や消防を介在させず、警察医などの第三者の医師でなく、いわば「かかりつけ医」が「死亡診断・死体検案」を行い、「死亡診断書」を作成するのが最もよい。
5. かかりつけ医への死体搬送
以上のような方向での「死亡診断・死体検案の充実」のために、厚労省は、例えば次の2点のような発想で、施策を進めるべきであろう。
1点目は、地域における当該死者の診療情報の共有である。死者が発生したら、その者の生前の各所での診療情報を相互に提供・収集し合って、最も適切な医師が「死亡診断書」を作成できるような情報共有体制を組むのがよい。
2点目は、速やかな「かかりつけ医」への死体搬送の合法化・正当化である。往々にして救急車による搬送や警察の介入が行われがちであるが、それは出来る限り排除すべきであろう。また、警察医による死体検案書の作成も減らしていくとよい。
と言っても、在宅医療の「かかりつけ医」が直ちに自宅に「死亡診断」に行くのも困難であろう。そこで、家族や葬儀業者が死亡診断を受けるために「かかりつけ医」の医療機関まで(死体)搬送することを合法化・正当化すべく、行政運用や法令を改めるとよい。
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