カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備推進法案の審議で、にわかに注目を集めているのが「ギャンブル依存症」だ。法案に反対する民進党などは「カジノを解禁すればギャンブル依存症が増える」と反対の論陣を張った。
厚生労働省研究班の調査によると、日本にはギャンブル依存が疑われる人が536万人いると推計されており、世界でも有数の「ギャンブル依存症」大国だ。成人人口の実に4・8%で依存が疑われるといい、米国の1・58%、韓国の0・8%などと比較して際立って高い。もっとも、駅前のパチンコ店、公営の競馬、競輪、ボートレースなど、ギャンブルの選択肢の広さを見ていれば、さもありなん。新たにカジノが加わろうというのだから、さらなる依存症の蔓延が心配される。
ところが、IR法案に対する医療関係者の見方は意外と冷静だ。依存症に詳しい精神科医は「ギャンブル依存症と言っても、アルコールや覚せい剤、大麻などの薬物の依存症とは根本的に異なる」と解説する。ギャンブル依存は病的な興味の対象が「ギャンブル」に向いているだけで、対象はいつでも変わり得る。ギャンブル依存から買い物依存、恋愛依存……と移っていく可能性も高いのだという。「カジノができて数年間は依存症が増えるが、その後は減っていったという海外の事例もあるそうだ。ギャンブルをやる人間は限られているし、カジノがギャンブル依存症を生産し続けるというデータはない」(医療担当記者)。
では、なぜこれほど騒ぎになるのか。ある研究者は「米国で大麻解禁の動きに反対運動が起きたとき、その運動に資金提供していたのは、客を奪われることを心配したアルコール飲料メーカーだった」と語る。同様の理屈が当てはまるとすれば、カジノ解禁で客を取られるのは果たして……。
小児移植への不信感を募らせた
「臓器移植募金詐欺」二つ目の罪
他人の善意に付け込んだ許されない事件が起きた。2016年11月8日、東京・霞が関の厚生労働省にある記者クラブ会見場に現れた36歳の女性が、拡張型心筋症に苦しむ6歳の甥の海外渡航移植のために1億5000万円の寄付を求めていると訴えた。同様の会見は過去にも同クラブでたびたび開かれていることから、会見の様子は複数の全国紙や通信社で報じられた。ところが、翌日になってこの会見が完全な嘘であったことが判明する。女性から記者クラブに「甥が急死したので記事を止めてほしい」と連絡があり、説明を求めたクラブ側に会見の内容が嘘だったと白状したのだ。
「女性の甥は実在していたが病気ではなく、生活費に困っていた女性の完全なる詐欺だった」(全国紙記者)。会見当日に配布されたチラシや画像以外に、女性は寄付を募るホームページや男児の様子をつづるブログも事前に開設しており、用意周到に計画されたものだった。各社は早々に渡航移植が嘘だったことを報じたが、前日の記事を見て実際に募金を振り込んだ人もいた。
だが、この女性の嘘の会見によって影響を受けたのは、募金を振り込んだ人たちだけではない。小児の脳死移植が少ない日本では、海外での渡航に一筋の望みを賭ける子供たちが一定数いるが、そうした子供たちの募金活動も「嘘ではないか」と色眼鏡で見られるようになったというのだ。医療担当記者は「自国で必要な臓器は自国で賄うのが世界の潮流で、海外渡航移植は年々、高額化している。募金に頼らないと海外へは行けない」と解説する。小児の移植に対する理解を広げることが不可欠なのに、女性の軽率な行動は移植医療そのものへの不信感を募らせてしまったというのだ。
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