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未来の会

医療・介護政策で「場当たり対応」繰り返す安倍政権

医療・介護政策で「場当たり対応」繰り返す安倍政権
権内で展開され「暗闘劇」が背景に

倍政権の介護政策は軸が定まっているとは思えない。このまま場当たり的な対応を繰り返したのでは、政策の整合性が取れなくなる」。介護施設を抱える地方医師会幹部が困惑気味に漏らした。

 この幹部がとりわけ問題視するのが、11月10日の政府の「未来投資会議」における安倍晋三首相の発言だ。介護保険について「これからは、高齢者が自分でできるようになることを助ける『自立支援』に軸足を置く」と語ったのである。

 首相はさらに「介護でもパラダイムシフトを起こす。本人が望む限り、介護が要らない状態までの回復を目指していく」とも述べ、塩崎恭久厚生労働大臣などに「特定の先進事例を予算などで後押しするだけでなく、医療や介護の報酬、人材の配置基準といった制度改革に踏み込んでいく」ことを検討するよう指示した。

 別の地方医師会幹部も「介護報酬に成果主義を取り入れようといっても簡単ではないだろう。介護は医療とは異なり、病気を治すわけではない。首相は介護保険制度を理解しているとは思えない」と批判する。

効率性ばかり求められる介護施設
 厚労省OBが「政府としては膨張を続ける介護費用を何とか抑制しようというのが本音だろう」と続けた。

「確かに、現行の介護報酬体系には欠陥がある。要介護度の高い人ほど点数が高く、要介護度が下がると報酬は低くなる。要介護度の高い人を抱え込む施設が高い報酬を得る一方で、状態の改善に一生懸命に取り組んだ施設の報酬が下がる。これを改めなければならない」と一定の理解を示しつつも、成果主義の導入には疑問を投げ掛ける。

 「どんなに自立支援を叫んでみ↖たところで、年齢を重ねるとともに身体能力が衰えるのはやむを得ないことだ。成果主義が入ったら、施設側は自立できそうな人ばかりを集め、自立困難な人が敬遠される可能性だってある」というのだ。

 「そもそも、要介護度が改善したからといって、それが介護サービスを受けたことによるものなのか、高齢者自身の努力によるものなのかを証明することは難しい。結果的に、自立困難な高齢者の受け皿がなくなったのでは、何のための介護保険だか説明がつかなくなる。成果主義はとても認められない」との主張である。

 介護施設経営者の1人も同調する。「安倍政権の介護政策に対する姿勢というのは、効率性ばかり追い求めている」との指摘だ。「安倍政権は外国人労働者を介護の現場に積極的に受け入れようとしているが、これも成果主義の導入と同じで現場の声を汲み取っていない。日本語のできない外国人が増えれば、現場は混乱するばかりだ」と不安を口にする。

 そして「我々が政府に急いでほしいのは、外国人ではなく、介護の仕事にやる気のある日本人が給与の低さに辞めてしまう現状への対策だ。具体的に言えば、実感できる処遇改善の実現である。低賃金で働く外国人が増えれば、日本人スタッフの待遇がむしろ低下する恐れがある。安倍首相は来年度予算で『介護を重点支出項目にする』と語るが、何ともチグハグな印象を受ける」と続けた。

 安倍政権の場当たり的な対応は介護分野に限った話ではない。先の厚労省OBは「医療改革でも強引さが目立つ。薬価の毎年改定だって、どこまで影響を踏まえて語っているのか」と切り捨てるように語った。

裏で糸を引くのは経産省人脈
 日本薬剤師会の関係者は「薬価が狙い撃ちされている。毎年改定になれば、製薬各社は売り上げ予測が立てづらくなり、結果として新薬開発に影響が生じる。新薬開発は安倍政権のイノベーション戦略の目玉策の一つではなかったのか。これでは政策が全く矛盾している」と不快感を隠さない。

 一方、永田町関係者はこのような安倍政権のドタバタぶりについて、「裏で糸を引いているのは、首相官邸の経産省系人脈の面々だろう」と見立てる。

 「経産官僚は財務省のように組織で動くのではなく、個人プレーに走る人が多い。それぞれ安倍総理に耳打ちするため、政策全体としての一貫性がなくなる。最近の医療・介護政策はその悪い面が出たということだ」との推測である。

 これについて、自民党厚労族のベテラン議員が「首相官邸が厚生労働省を遠ざけてきたことが遠因だ」と付け加えた。「安倍首相は、第1次政権時代に退陣のきっかけとなった年金の混乱が忘れられず、いまだ厚労省を信用していない。厚労官僚たちが首相に接触する機会が少ないことをいいことに、経産官僚たちは厚労利権に食い込もうとしているのだろう」というのだ。

 医療政策に詳しい政界関係者が、さらに別の視点からの分析を加えた。「個々の政策のチグハグな対応もあるが、社会保障費をめぐる経産省と財務省の路線の違いが新たな火種になりつつある」というのだ。

 この政界関係者は「首相周辺の経産系官僚たちには、社会保障費の抑制がアベノミクスの足かせになっていると認識している人が少なからずいる。これに財務省がピリピリしている」と明かした。

 この話を裏付けるような発言が11月8日の経済財政諮問会議で飛び出した。民間議員から「これから日本は成長していくと確信を持てるような形に、予算はメリハリを付けて使うことが重要だ」、「ただカットするだけではなく、成長していくために、お金がどう使われているかをロードマップにすることが必要である」といった意見が出され、首相も「来年度の予算編成に向けて、財政健全化への着実な取り組みを進める一方で、足元の景気状況に配慮する必要がある」と述べたのだ。

 先の自民党厚労族のベテラン議員は「経産省が安倍首相に『歳出カットをやり過ぎるとアベノミクスにブレーキが掛かる』と吹き込んだのだろう」と推測する。「経産省にしてみれば、医療・介護産業は成長戦略の大きな柱だ。政策面での後押しが欠かせず、ふんだんに予算を投じたいとの思惑だろう。彼らにとって、財政健全化は二の次ということのようだ」と警戒する。

 こうした政府内の〝暗闘劇〟に呼応してか、与党内では「安倍政権は医療・介護の制度改革に本気ではない」との見方もくすぶり続ける。次期衆院選をにらんで有権者に負担増を求めなければならないことを嫌う議員たちからは、社会保障費の自然増を年5000億円に抑える政府方針を「ただの目安だ」となし崩しにしようとの動きだ。

 経産官僚を重要ポストに据え〝経産省内閣〟と揶揄されることも少なくない安倍政権だが、医療・介護政策については首相自らが確固たる方針を示さない限り、今後も迷走は終わりそうにない。

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