第9回「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」を開催いたしました。
2016年12月21日(水)17:00~18:30、紀尾井フォーラムにて、「日本の医療と医薬品等の未来を考える会」の第9回勉強会を開催いたしました。
詳細は、月刊誌『集中』2017年2月号にて、事後報告記事を掲載いたします。
まず、当会主催者代表の尾尻佳津典より、挨拶させていただきました。
「大手メディアが、患者=弱者という構図に基づいて紙面を構成し、世論がそれを受け入れるようになってから、それを追い風に患者が訴訟を起こす時代になりました。そして、それまで普通の患者だった人が、ある日突然モンスターペイシェントになる。今、医療界はこうした事態に大変苦慮しております。本日は、『患者は何故怒る クレーム・暴力の対応』と題して横内昭光氏にご講演いただきます」
続いて、当会国会議員団代表の原田義昭・衆議院議員からご挨拶いただきました。
「本日は、訴訟などを含めた医療を取り巻くさまざまな社会的な関わりについてのお話です。警察で仕事をされてきた横内先生から、豊富な経験に基づいた明確かつ大胆な知恵を授けていただけるのではないかと期待しております」
今回の講演は、横内昭光氏(HSSホスピタルサポートサービス代表)による『患者は何故怒る クレーム・暴力の対応』と題するものでした。以下はその要約です。
2004年に警察OBの私は学校法人慈恵大学に就職した。要請は、①暴力対策、②警察との対応、③悪質なクレームへの対応の3つだった。現代の医療現場では暴力は日常化しており、過去1年で暴力を受けた職員は44%というデータがある。患者が医師や看護師を刃物で刺す事件や発砲事件も発生している。それにも関わらず、病院の危機管理は「憂い有り、備えなし」の状態になっていることが多い。院内暴力対策をしないと、当該患者の言動がエスカレートし、他の患者がそれをまねるようになり、医療者が萎縮して退職者が増加し、善良な患者が受診しなくなる、と状態になっていく。適切な対応が必要である。暴力発生時には110番通報をする。悪質クレームには、できないことは「できない」とはっきり言う。こうした初期対応が大切である。また、暴力やクレームを予防するには、相手の目を見て応対し、誠意を示すのが効果的である。
講演に関して質疑応答が行われ、次のような発言がありました。
大場俊彦(慶友銀座クリニック院長)
「患者対応で困ることはないが、組織犯罪に関わるように人がきて、うちのクリニックに入り込もうとするようなことがありました。怖いので警察OBの人に顧問になってもらっています。大学病院ではそういったことに対して、どのような対策をとっていますか」
横内
「慈恵医大ではそのような問題は起きていませんが、反社会的な組織の人たちが、病院を狙っているということはもちろんあります。薬が目的だったりすることもあります。ある人が診察のたびに贈り物をもってくる。そのうち食事に誘われる。そうしているうちに、引き込まれるわけです。絶対にモノをもらわない、ということは徹底しています」
尾尻
「医療事故が起きたとき、病院に捜査が入るかどうか、起訴するかどうかは、どんなことが影響するのですか」
横内
「業務上過失事件を扱う班があるのですが、被害届が出されたら、医師に当たって、こういうケースですがどうですかと話を聞きます。それをまとめて検察に事件を上げるわけです。刑事事件として進む一方、民事は民事で進んでいることが多いわけですが、そこで示談がまとまっていれば、起訴することは少ないと言えます。逆に示談がぜんぜん進んでいないとなると、起訴される可能性は高くなります」
真野俊樹(多摩大学医療・介護ソリューション研究所所長、教授)
「全国にはクリニックも含めると多くの医療機関があります。1つの施設で、暴力・クレーム対応の専門職を1人置くとなると、かなり大変です。それに対して、何かいい方法はないのでしょうか」
横内
「現在、300人ほどの警察OBが病院に入っていますが、最低でも400万円程度の給料が必要ですし、さまざまな経費もかかります。その人件費は大変です。そこで「HSSホスピタルサポートサービス」を作り、主に中小病院を対象にして、月5万円からの顧問料で病院を助けるための活動を始めています」
井手口直子(帝京平成大学薬学部教授)
「薬局でもクレームに苦慮することがあるようです。HSSのサービスを医療機関だけでなく、薬局にも広げていただけるとありがたいのですが」
横内
「呼ばれればどこにでも行きます。もちろん、薬局のクレーム対応もやります」
瀬戸皖一(脳神経疾患研究所付属総合南東北病院 南東北BNCT研究センター長)
「私どもの病院では、特定の事務員にトレーニングさせ、院内交番として仕事をしてもらっています。そのためのトレーニングを担当してもらうことは可能でしょうか。また、外国人患者のクレームが多く苦労していますが、いい対応策はありますか」
横内
「私は42年警察にいた経験があり、どんな相手にも対応できますが、最初の頃はふるえが止まらずに困ったこともあります。場数を踏むことで慣れていくのですが、最初は大変かもしれません。ただ、そうしたトレーニングを担当することはできます。外国人のクレームに関しては、文化的な背景などを理解することが、トラブル防止に役立つかもしれません」
窪田光(特定医療法人財団健和会柳原病院事務長)
「うちの病院の非常勤医師は、患者さんの訴えを真に受けた警察によって逮捕され、105日間拘留されました。これから裁判が始まります。現在の生活も、これから先のことも、大きな影響を受けることになります。こうしたことが起きると、医療の萎縮を生み、結果的には患者さんの不利益につながります」
横内
「警察でも、男性の刑事が女性の被疑者の取り調べを行うときには、必ず女性を立ち会わせるようにしています。病院でも、そうしたことを考える必要があるかもしれません」
自見 はなこ(参議院議員・医師)
「小児科医として働いてきましたが、リスクマネジメントについてはいつも考えていました。訴訟がこじれてしまうのは、信頼関係が築けなかった場合に多いと感じています。東海大学に私が在学していた当時、子どもの患者が死亡する医療事故が起きたことがあります。数年後、両親が授業に来てくれたのですが、そのとき「一番初めに謝ってもらえたのがよかった」と話していました。それもあって、真摯に、包み隠さず、タイムリーに対応することが大切だと考えています。ただ、それだけでは通用しない事例もあるのかもしれません」
原田
「本日はしっかり勉強できました。横内先生が示した対応策は、病院内だけで通用するものではなく、社会一般で通用すると感じました。初期対応が大切で、毅然として言うべきことは言う。その対応を間違うと、こじれて訴訟ということにもなるのでしょう。社会一般でも通用することをたくさん学ぶことができました」
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