天下り先のない歯科医出身医系技官の食いぶち
「元厚生官僚のコンサルタントが歯科医院の診療報酬資料改ざんを指南した」
そんな驚きの記事が11月4日、毎日新聞朝刊の1面に大きく掲載された。記事には、厚生局の個別指導に対し、歯科医院の院長が書類をコーヒーに浸して古く見せかけたり、レントゲン写真を銀の色鉛筆で着色したりして不正とされないようにしたことが書かれていた。さらに、改ざん手口を指南したとされるコンサルタントは同紙のインタビューに、「大阪の人は全部他人のせいにするからこりごりだ」と言い放つ始末。とはいえ、違法とまでは言えない事件がなぜ記事になったのだろうか。
記事によると、大阪市内の歯科医院がコンサルタントに〝指導〟を受けたのは2014年11月。この歯科医院は近畿厚生局の個別指導を前に、診療報酬の不正請求が見つからないよう偽装する必要があった。「さまざまな太さのペンを使い同じ日に書いたのではないとアピールする」など、コンサルタントの指示は細かい。院長はその指示の多くに従ったが、訪問診療の不正請求を隠すため医師の名義借りを提案される段になり、そこまではできないと指導を断り、不正請求分を返還したという。
「個別指導にはいくつかのパターンがあるが、この医院のように長期にわたり何度も行われるのは異例。おそらく当局は相当の疑いを持っていたのだろう」(全国紙記者)。記事を読む限り、歯科医院で行われた診療報酬の不正請求は多岐にわたり、不正の一つ一つを改ざんしていくコンサルタントもなりふり構わずだ。
では、このコンサルタントはどのような人物なのだろうか。記事によると、1980年に厚生省(当時)に入り医療指導監査官を務めた後、97年に退職して00年にコンサル会社を設立した65歳、とある。歯科大で博士号を取得した医系技官で、在職中の姿を知る厚労省職員は「指導監査に詳しく、堅実な仕事ぶりだった」。
だが、こうした診療報酬請求書類の改ざんは罪にならないのか。厚労省によると、「改ざんが認められれば不正請求が確定し、行政処分が科される。ただし、処分を受けるのは医療機関で、改ざんを指示した人物を教唆や共謀に問うには捜査当局に告発する必要がある」という。悪質であれば刑事事件になるが、今回の事件がそうなるかは微妙だ。
前述の厚労省職員は「医師免許を持つ医系技官は退職後も医療関連の団体に引く手あまただが、個人のクリニックばかりで大きな医療機関がない歯科医出身の医系技官は天下り先がない」と指摘する。そのためコンサル業で食いつなぐ元技官は他にもいて、「今回と同じ人物かは分からないが、元官僚による診療報酬不正のコンサル業が新聞沙汰になるのは今回が3、4回目」だという。
厚労省担当記者も「徹底的にメスを入れると、厚労省の〝天下り事情〟や監査の甘さが明るみに出る。そのため調査には及び腰だ」と話す。それでもこうした記事が出るのは、「高いお金を払ってコンサルを依頼しているのに、当局の目も厳しくなり見逃してくれない。そうなると話が違うともめて、報道機関に情報が持ち込まれることになるから」(同記者)。
毎日新聞の取材に、灰色のものを白に近い灰色にするのが仕事と語っていたコンサルタント。白くすることは最初から望んでいないようだ。
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