経営に活かす法律の知恵袋
井上法律事務所所長 弁護士 井上清成
1. センター業務としての「情報の整理・分析」
平成27年10月1日から開始された医療事故調査制度が1年を経過した。医療事故調査・支援センター(日本医療安全調査機構)の平成28年10月11日付プレスリリースによると、この1年間の医療事故報告の累計が388件、院内調査結果報告の累計は161件に上るという。
医療事故調査・支援センターのセンターたるゆえんは、院内調査結果報告によって収集された情報の整理・分析の業務を行うことである。情報の整理・分析業務こそがセンター業務の中核といってよい。
今後、医療法にのっとった整理・分析業務が適切に行われ、実効性のある再発防止策が案出され普及啓発されていくことが期待される。
2. 整理・分析と報告のやり方に注意を
医療法第6条の16は、「センターが行う、院内事故調査結果の整理・分析とその結果の医療機関への報告」に関して、明瞭な規定を置いた。医療法第6条の16柱書は「医療事故調査・支援センターは、次に掲げる業務を行うものとする。」と定め、この第1号では「第6条の11第4項の規定による報告により収集した情報の整理及び分析を行うこと」と定めて、整理・分析のやり方を一義的に明示したのである。
「第6条の11第4項の規定による報告」とは、「院内調査結果報告」のことであり、この1年間では161件であった。つまり、この161件の「報告により収集した情報」を整理・分析する。
さらに、センターは、整理・分析した結果を、この161件の「報告をした病院等の管理者に対し、」まとめて報告しなければならない。なお、センターにはこの161件の「報告をした病院等」以外の病院等に対しては「情報の整理及び分析の結果の報告を行う」権限はないし、「報告を行うこと」ができないのである。
この点は、医療法第6条の16第2号において、「第6条の11第4項の規定による報告をした病院等の管理者に対し、前号の情報の整理及び分析の結果の報告を行うこと」と明示された。
3. 平成27年5月8日付医政局長通知を遵守して
以上の法律の定めにのっとって、平成27年5月8日、厚生労働省医政局長(当時は二川一男氏。二川氏は現在、事務次官)が通知を発し、その中で「報告された院内事故調査結果の整理・分析、医療機関への分析結果の報告について」分かりやすく示達している(11頁の表参照)。
・「報告された事例の匿名化・一般化を行い、データベース化、類型化するなどして類似事例を集積し、共通点・類似点を調べ、傾向や優先順位を勘案する」
・「個別事例についての報告ではなく、集積した情報に対する分析に基づき、一般化・普遍化した報告をすること」
・「医療機関の体制・規模等に配慮した再発防止策の検討をすること」
センター業務について
センターが行う、院内事故調査結果の整理・分析とその結果の医療機関への報告
・そして、「複数の医療機関→複数の個別事例→類別化→分析→一括して複数の医療機関」という明確な図解も付けた。この図解では特に、整理・分析結果を単数ではなく複数の医療機関に一括して報告するという点が重要である。また、院内事故調査結果の報告をした医療機関以外の医療機関に整理・分析結果を返してはいけないという点も忘れてはならない。
4. 法律にのっとったセンター業務を
今までは、第三者機関の事故調査というと全て、「個別の医療機関の個別事例ごとについて分析し、その分析結果を当該個別の医療機関に報告し、その上で、個別の分析結果を広く普及啓発する」というスタイルであった。しかしながら、今般の医療事故調査制度はパラダイムシフトをした結果、スタイルを一新している。
普及啓発すべきは、再発防止策であって、整理・分析結果ではない。整理・分析すべきは、個別医療機関の個別事例ではなく、複数医療機関の複数事例を集積してまとめた情報である。そのため、センターの分析結果の報告対象は、個別医療機関ではなく複数医療機関であって、それも院内調査結果報告をした複数医療機関だけにとどめねばならない。
センター業務は、このようなパラダイムシフトした法律の定めにのっとって運用されねばならず、センターとしては、旧来型の事故調査手法などに固執して誤った運用がなされないようにくれぐれも注意が必要である。もしも旧来型に固執した誤った運用がなされた時には、その責任者たるセンター役員は更迭されなければならない。
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