渡辺雅子(わたなべ・まさこ)新宿神経クリニック院長
1977年鹿児島大学医学部卒業。81年同大学大学院医学研究科卒業後、同大学神経精神科入局。85年国立療養所静岡東病院(てんかんセンター)精神科医長、2006年国立精神神経センター病院精神科医長、10年独立行政法人国立精神・神経医療研究センター病院精神科医長、14年同病院精神科非常勤医師、大宮西口メンタルクリニック医師を経て、15年から新宿神経クリニック院長。日本てんかん学会理事、日本精神神経学会男女共同参画推進委員会委員、国際抗てんかん連盟神経心理学委員会委員などを務める。
てんかん患者の発作による事故などにより、てんかんに対して偏見を持つ医療者さえ少なくない中、患者が通いやすいように都心にてんかん専門クリニックを開院した渡辺雅子院長。社会的偏見を払拭するための啓発活動や、これまで危ぶまれていたてんかん患者の妊娠・出産や子育て、就労のサポートまで行っている。てんかん医療の現状と展望を伺った。
◆てんかんになりやすい年齢はありますか。
渡辺 発病年齢は3歳以下が最も多く、40歳から50歳にかけて減っていきます。そして、60歳から急に増加します。脳の老齢化が大きな原因の一つです。日本では高齢化に伴い、高齢発症てんかんはますます増加すると思われます。てんかんは倒れてひきつけをおこす病気と思っている人が多いと思いますが、ただ動作が止まってじっとしている発作もあるので、周囲に気づかれないこともあります。また、てんかんの病気があることに気づかず車の運転をし、運転中に発作がおきて交通事故の加害者になってしまった患者さんもいます。日本のてんかん患者数は約100万人で、ある時突然発病する場合がほとんどですから、誰もがてんかんになり得るともいえます。
◆患者数が多い疾病なのですね。
渡辺 現代は日本人の100人に1人がてんかんの病気を持っているといわれます。しかし、てんかん専門病院は数えるほどしかありません。しかも、長期間の治療が必要ですので、当クリニックのように長く通えるてんかんの専門医療機関であれば患者の安心感につながると考えます。
「パープルデイ」という世界的な啓発活動を展開
◆専門クリニックならではの活動は?
渡辺 来院する患者さんは、軽い方から重い方までさまざまですが、妊娠・出産を希望する女性の方も多く来院します。軽度であっても薬物治療をしながら子供を産み育てるのは、薬による催奇性のリスクとの戦いにもなるので、とても勇気のある行動です。奇形を防ぐ方法を見いだし、医療的にサポートしていきたいと思っています。また、就労支援もクリニックでしています。てんかんに対してははまだまだ社会の偏見がありますから、正しい知識を社会に伝えるのも当クリニックの役割です。さらに、いま薬も旧薬から新薬に変わる時にあります。新薬は副作用が少なくなっていますから、うまく切り換えることができない患者さんへ、きちんとした薬の指導が必要です。加えて、女性医師の活躍の場を広げる活動もしています。実は、てんかん分野の医療者は女性が多いのです。私が専門クリニックを運営していくことで、女性医師に興味を持ってもらうことも目的の一つです。社会的には、てんかんの啓発運動もしています。
◆啓発運動の具体的な内容は?
渡辺 てんかんについての啓発活動を世界的に行っている北米のアニタ・カウフマン財団が「パープルデイ」(3月26日)を企画していますが、日本では2015年からスタートしたイベントのサポートをしています。パープルデイはてんかん患者であるカナダの女子高生キャシディ・メーガンさんの発案で始まりました。この日は世界各国の人々が、てんかんと戦う人たちへの応援として「紫色のもの」を身に着け、てんかんに関する知識を広める活動をします。紫はラベンダーの色で、花言葉で「孤独」を意味します。周りから理解してもらえないてんかんの方の孤独感や苦しみに対して、「分かっていますよ。あなたは一人ではありません」というメッセージを色で表現するのです。ウォーク、講演会、音楽会など、皆が楽しみながらてんかんへの理解を深められるイベントを世界各地で開催します。日本では「全国てんかんリハビリテーション研究会」内に設置された「パープルデー企画実行委員会」が普及活動を展開しています。2017年は東北大学てんかん科、東京大学、順天堂大学と当クリニック、静岡てんかん・神経医療センター、名古屋市福智クリニックが中心になって講演会や啓発ウォークを予定しています。
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