安易な転換は結局 立ち行かなくなる恐れがある
従来は看護師の頭数をそろえることで「急性期病院」を名乗り、高い入院基本料を算定できた。2016年度の診療報酬改定では、7対1病棟の施設基準となる「重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)の要件が見直され、一気にハードルが引き上げられた。本気で急性期医療を提供しているのかが問われる中、その転換先として注目を集めているのが「地域包括ケアシステム病棟」である。
「地域包括ケア病棟」は、14年度の診療報酬改定で新設された新たな病棟区分であり、団塊の世代が後期高齢者入りする25年に向け、地域包括ケアシステムを活性化させるとともに、都道府県の地域医療構想の回復期機能の担い手として期待されている。
具体的には、ポストアキュート(急性期経過後に引き続き入院医療を要する状態)、サブアキュート(重装備な急性期入院医療までは必要としないが、在宅や介護施設などにおいて症状の急性増悪した状態)、周辺機能(糖尿病の教育入院など高額の治療を要しない入院治療)の三つの受け入れ機能、2段階の在宅・生活復帰支援、という四つの機能を併せ持たせたものである。入院期間は60日以内で、最も高い入院料を算定するためには、在宅復帰率7割以上という要件を満たさなくてはならない。
12年度の診療報酬改定で、過剰とされる7対1病床の数を減らし、在宅医療にシフトする方向性を打ち出されたものの、急性期と在宅と2分類だけでは、25年を支え切れるものではない。
16年度の診療報酬改定では、14年度改定から引き続いて、7対1入院基本料の取り扱いが焦点となったが、看護必要度の項目が見直され、さらに基準を満たす重症者の割合が15%から25%へと引き上げられた。こうした厳格化の背景には、手術患者や救急患者の受け入れが少ない病院の病床転換を促進する狙いがある。病院の機能分化・連携を目的とした地域医療構想策定とも連動した動きである。この急激な変化に対して、9月末までの半年間は診療報酬上の経過措置が設けられた。
病院の2割が7対1病棟を変更
一方、地域包括ケア病棟においては、手術や麻酔などの費用が包括対象から外れて出来高算定となった。病床転換にはそれなりの準備期間が必要で、手術の出来高算定のみが理由だとは言い切れないが、7対1病棟から、その受け皿とされる地域包括ケア病棟へのシフトが背中を押される形で進んだことは間違いないだろう。
今夏には「地域包括ケア病棟」の届け出医療機関は1500を超えた。4月時点において、厚生労働省への7対1届出病院は1530病院あった。
13団体から成る日本病院団体協議会は9月、「一般病棟7対1入院基本料」届出病院の対象として、16年度診療報酬改定後の動向調査の結果をまとめて公表した。回答したのは894病院で、7対1届出病院の6割に達する。
「7対1病棟の全部または一部について地域包括ケア病棟などへの変更」に関する意向では、193病院(21.6%)が、「変更した」または「変更する予定」と回答。変更先として最も多かったのは、「地域包括ケア入院料」(112病院)である。
病棟群単位の届出を利用した10対1病棟入院基本料は、15病院にとどまった。病棟群単位の届出とは、7対1から10対1への移行を促進するため、次期18年度改定までの経過措置として導入されたもので、7対1と10対1の併算定を病棟群単位で認める仕組みである。「病棟群単位の入院基本料届け出」を行わない理由は、94病院が「再々変更が認められない」を挙げており、届出が1度しか行えないという使い勝手の悪さが敬遠された格好だ。また、14病院が全病棟を10対1へと変更していた。
地域包括ケア病棟への変更時期は、「2016年9月まで」が最多の68病院、「2016年10月から2017年3月」(36病院)、「それ以降」(8病院)と続く。また、7対1から地域包括ケア病棟へ変更した112病院の理由では、「重症度、医療・看護必要度要件が満たせない」(56病院)が最も多く、次いで「医療計画を踏まえて」(24病院)、「平均在院日数要件が満たせない」(7病院)の順となった。
看護必要度については、「改定前からクリアしており、特段の対策が不要」とする病院は300余りあったが、「基準はクリアしたものの、一定の対策を講じた」(334病院)、「改定による基準をクリアするために対策を講じた」(219病院)で、新基準をクリアできなかった病院も32病院あった。
急性期病院が、院内に7対1病棟を残したいと望む場合の選択肢には、早期の転院・退院を図る、救急車の引き受け件数を増加させる、病棟の一部を10対1看護にする、病床数を削減する、といった方策が考えられる。それらに加えて、地域包括ケア病棟への転換があるが、こちらは現場スタッフへ大きな負担増を強いたり、地域の評判を落としたりすることなく進められるという大きな利点がある。
地域包括ケア病棟に一部転換し7対1守る
高齢化の進展に伴い、複数の疾患を抱えている患者が急性期病院に入院した後、慢性期病院での受け入れには限界があり、政策的にも在宅復帰できるように支援することが求められている。地域包括ケア病棟のような在宅復帰支援機能を併せ持つ病棟は、在宅ケアに関する地域ニーズに応える手段となり得る。そして、7対1を守りたいのであれば、一部の病棟を地域包括ケア病棟に転換しつつ、看護必要度を満たすのが現実的である。自院にそうした機能がなければ、急性期医療も立ち行かなくなる恐れさえある。
実際に、転院させる代わりに地域包括ケア病棟に転棟させて、リハビリテーションを実施するなどした結果、再入院の防止につながるなど、一定の効果を挙げている医療機関は少なからずある。早期退院を無理に強いるのでなく、在宅復帰に向けた準備をしっかり行うことで、患者・家族の不安解消につながれば満足度も高く、地域住民の信頼も獲得できようというものだ。
経過措置の期限切れを迎え、「地域包括ケア病棟でもやるか」という安易な転換では、結局は立ち行かなくなる恐れがある。地域包括ケア病棟の意義をいま一度考え直し、自他を利する志を持った転換を期待したい。地域包括ケア病棟への移行期間は最低でも1カ月以上必要になる。ベストなタイミングを見極め、院内での議論を望みたい。
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