管理医療図る官邸、製薬業界へ浸透狙う経産省にどう抗すか
「事務官のポストだった保険局長に医系技官の鈴木康裕氏が抜てきされたことで、医療界には『今後の医療・介護改革は、医療現場を理解した改革になる』との期待もあるようだが、むしろ官邸の介入が強まるだけだ」。厚労官僚OBが冷ややかに語った。
別の厚労官僚OBも「鈴木氏は診療報酬改定のスペシャリストだが、医療改革は理屈だけでは済まない。官邸、与党、財務省、そして日医(日本医師会)とそれぞれの立場、利害を考えながら進めなければならない。あうんの呼吸による政治決着だ。医系技官がまとめ役で、利害調整や政治的根回しができるのか」と疑問を投げ掛ける。
「歴代の保険局長というのは、日医の顔を立てるのに苦労してきた。どう見せ場を作るかだ。首相や財務大臣が最終調整のギリギリの段階で〝政治カード〟として切るが、どのタイミングが一番効果的なのか、シナリオを絶えず書き直さなければならない。現在の保険局の陣容でそんな芸当ができる人物がいるとは思えない」と続けた。
今回の鈴木氏の起用について、厚労行政に詳しい永田町関係者は「塩崎(恭久)厚労大臣の覚えがめでたいことがその理由だ」と推測する。「社会保障と税の一体改革など医療保険改革に精通していた武田(俊彦)政策統括官などは保険局長の最適任と見られていたが、医薬・生活衛生局長に押し込められた。1億総活躍推進室の室長代理補として出向中の木下(賢志)氏も、厚労省の局長として戻ると思われていたが、塩漬けである。まさに宝の持ち腐れだ」と突き放した。
自民党議員OBが声を潜めて語った。「厚労省内では『塩崎大臣は、政策に詳しい武田氏を保険局長にしたのでは自分の思い通りにならないと考え、医薬・生活衛生局長にした』といわれている。塩崎氏は最初から、お気に入りの鈴木氏を保険局長に抜てきしようと計画していたのではないのか」というのだ。
医務総監は鈴木局長のためのポストか
この自民党議員OBは、さらに面白い見方を披歴してみせた。「鈴木氏は医学部を卒業後に海外経験もあるスマートな国際派だ。WHO(世界保健機関)での勤務歴もあり国際医療分野での実績は十分だ。一方、塩崎大臣は国際医療に強い関心を持っており、最近は各国の保健大臣たちと会談するため精力的に外遊を行ってきた。塩崎大臣にしてみれば、鈴木氏の経歴は魅力的というわけだ。自分が国際舞台に立つための右腕として大いに活用しようということだろう」との見立てだ。
これに関して、厚労官僚の一人が興味深い話を明かした。「塩崎大臣の下で厚労省の組織改編作業が行われているが、目玉は医務総監ポストの新設だ。その医務総監を言い出したのは塩崎大臣自身である。今後の関心は、誰が初代医務総監になるのかという点に移るが、厚労省内では『鈴木保険局長で決まり』との空気になっている。むしろ鈴木局長を就任させるために用意されたポストとの見方だ」というのである。
自民党関係者が呼応して語った。「安倍(晋三)首相はTICAD(アフリカ開発会議)でユニバーサル・ヘルス・カバレッジを打ち出した。これは外務省と厚労省の合作だが、今後、安倍政権の外交の軸の一つになっていくことは間違いない。塩崎大臣としては自身の関心の強い分野でもあり、持ち味を出せるということだろう。ここで実績を上げれば、次の内閣改造で外務大臣を狙える位置に行けるとの思惑だ」との指摘である。
その上で「厚労大臣ながら、わざわざTICADや国連総会にまで同行するあたりは、さすがパフォーマンスに長けた塩崎氏というところだ」と皮肉った。
塩崎氏を知る政界関係者は「塩崎大臣は得意の経済で成果を挙げようと経済界にアプローチをかけ、『働き方改革』の弾として仕込もうとしていた。ところが、官邸サイドは労働者の立場に立った働き方改革を目指しており、目立つのは加藤勝信担当大臣ばかりだ。自己顕示欲の強い塩崎氏にしてみれば、自分の出番はないと察知したのだろう。そこで目を付けたのがユニバーサル・ヘルス・カバレッジだったということだ」と解説する。
「これまで厚労省は国際医療分野の取り組みが弱かっただけに、ここで存在感を発揮できれば、ポスト安倍としても名乗りを上げられるぐらいのことは考えているだろう。塩崎氏は第1次安倍政権で官房長官を務めたという自負が強い。ポスト安倍の有力候補も見当たらず、自分にもまだチャンスはあると思うのが政治家というものだ」というのだ。
ただ、国際医療に活路を見いだそうとする塩崎氏に対して懸念の声も少なくない。
自民党厚労族の中堅議員は「消費税再増税が先送りにされたこともあり、今年から来年にかけては医療も介護も極めて大きな改革が待っているが、塩崎大臣の熱意がなかなか伝わってこない。このまま行けば、官邸や財務省のシナリオ通りの改革案になってしまうだろう」と危機感を募らせる。
これについては、日医関係者が「患者の窓口負担や介護サービスの自己負担を大幅に上げようとしている。これも看過できないが、われわれが注目しているのは地域医療構想の策定だ。病院機能の再編だとか、地域の人口動態だとか言っているが、要は開業と診療科の標榜の自由を奪おうということだ。安倍政権はどんどん管理医療に突き進もうとしているのでは」と疑問を口にした。
地方医師会の幹部も怒りを込めてつぶやいた。「厚労省は来年度予算の概算要求で『医師の地域的な適正配置のためのデータベース構築』という新規事業を要求した。医師免許取得から生涯にわたり、個々の医師の勤務先や診療科などの 情報を追跡するデータベースの構築構想である。都道府県が医師確保をするための情報を一元管理するというが、これなど管理医療に向けた一歩としか思えない」との警戒感だ。
塩崎氏と官僚の不仲で厚労省弱体化
一方、先の自民党関係者は「安倍首相の厚労省不信が強いこともあって、塩崎大臣は医療・介護改革についても官邸に下駄を預けてしまっているのだろう。だが、もともと、塩崎大臣と官僚の折り合いは良くない。しかも鈴木氏を保険局長に登用したことで事務官たちとさらに距離ができた。これでは、とても厚労省は戦う組織とはならない」と分析する。
そして警告した。「安倍官邸を取り巻く経産官僚たちは『医療は成長産業』と考えている。厚労行政の本丸とも言うべき医療や介護改革について口出しできれば製薬会社にも影響力を及ぼせるだけに、彼らにすればチャンスとの思いだろう。厚労官僚の踏ん張りが利かなければ、厚労省は草刈り場になる」
塩崎大臣と厚労官僚たちのギクシャクした関係が続くようならば、いよいよ厚労省は弱体化の道を歩むことになりそうだ。
浪人時代の武見敬三参議が洞爺湖サミットの前からずーっと唱えてる。安倍晋三総理も2度ほどランセットに論文を書いてるのも武見先生の御指南だと思われる。受け売りでしかないなあ。
UHCって完全の武見敬三参議の受け売りだろ。浪人時代の洞爺湖サミットの時から一貫して唱えている。