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未来の会

第96回 精神科と内科の音楽療法を統合 「音楽療法士」の病院での活躍を推進

第96回 精神科と内科の音楽療法を統合 「音楽療法士」の病院での活躍を推進

音楽一家で育ち、音楽家を目指すが、高校時代にピアノの家庭教師から医師になることを勧められた村井理事長。音楽への関心は絶ちがたく、医学部卒業後に東京芸術大学音楽学部に進学。その後、精神科医になり、病棟で音楽療法に出会った。医療における音楽の効果を聞いた。

音楽療法に関する最近の動向は?
村井 音楽療法は、精神科病棟・施設、また児童精神科で行われています。重症心身障害児施設での知的障害、発達障害の子供たちの特別学級では必ず音楽の授業があります。音楽の教員は音楽好きな子供に、その好きな歌を使って発語訓練など療法的なこともしていました。こうして児童精神科の中で音楽療法が盛んになっていき効果も現れていることから、大人の精神科・精神病院にも入り病棟に勤務する音楽家も出てきました。最近の精神科は高齢者も入院してくるようになり、統合失調症やうつなどの精神病の他に認知症患者も増え、高齢者の音楽療法も実施している状況です。

病棟で実施される音楽療法はどのようなものですか。
村井 私が精神科医になって以来、長年勤務した国立下総療養所(現・国立病院機構下総精神医療センター)には、赴任当時、音楽好きの所長がいて、ピアノの上手な医師とともに患者さんへ音楽療法を行っていました。大学医局からそこへ引っ張られたのは、私が芸大の音楽学部出身だったからで、一緒に音楽療法を行うことになりました。毎週金曜日、芝生のレクリエーション広場でバッハの曲をかけ患者さんたちにコーラスしてもらうのです。時にはカラオケ大会で大いに盛り上がりました。大学病院の精神科と精神病院の医療は、前者は外来医療、後者は入院医療で、かなり違っていました。精神病院では患者さんへ治療をしているのか、一緒に遊んでいるのか区別できないような治療をしていました。精神科医は朝から患者さんと話をしたり散歩をしたり、遊んだりすることで患者さんを診ていきます。その中で音楽療法を行っていました。

患者自身が歌うことで治療効果が上がるのですね。
村井 はい。大部屋の病室の患者さんは、心を閉じ合っているので、お互い名前も知らず、全く交流がありません。普段はベッドの端に座って動かないので、作業療法の一環として、音楽療法により声を出して歌ってもらうのです。例えば、統合失調症の人は攻撃的になったりする症状もありますが、歌を歌うことでストレスが発散され、心のバランスを保つことができるのです。また、自分の世界に閉じこもり、他者とのコミュニケーションが取れない場合でも、歌はコミュニケーションのツールになります。

病棟勤務の音楽療法士資格を認定

学会設立の経緯は?
村井 当学会名誉理事長の日野原重明・聖路加国際メディカルセンター理事長は、自身の患者さんに内科治療の中で音楽を使っていました。音楽療法が盛んに行われているアメリカで情報を得て、カナダの著名な音楽療法家、ドーン・アレキサンダー女史を聖路加国際病院に呼び、内科病棟に音楽療法を取り入れたのがきっかけです。病院にピアノが弾ける先生もいて積極的に音楽療法をしていました。私は精神科医として精神科病棟で音楽療法をしている中で、日野原先生の活動により内科でも音楽療法が広まっていることを知りました。そこで、精神科と内科を統合した団体の必要性を感じ、2001年に当学会を設立しました。会員の大半は音楽家です。

これまでの取り組みは?
村井 音楽療法士が病棟で仕事をし、現場で患者さんを診ながら学んでいく音楽療法の研究、音楽による医療レベルの学術研究を行っています。また、専門家の先生方を呼んで音楽療法に関する講演を主催し、音楽療法を広めるべく毎年全国を回り、学会を開催しています。今年9月の学会総会で16回目になります。学会活動により音楽療法は、作業療法や芸術療法と同じ精神科総合医療の一つとして定着しつつあります。

16年間の成果はどんなことに感じますか。
村井 「音楽療法」という言葉が浸透してきています。特に精神科病棟ではすでに一般的になっていますから、それを受けて認定音楽療法士という資格を作りました。音楽療法は「音楽を福祉・医療の場で役立てることができる新しい学問」として認識され、現在、日本大学芸術学部、聖徳大学、同志社女子大学など全国26カ所の音楽大学や一般大学、音楽・医療系専門学校が音楽療法コースを設けています。そこを卒業して試験に合格すると、音楽療法士(補)の学会認定資格が得られます。資格取得者のほとんどは病棟に勤務しており、患者さんの治療に貢献しています。現在、500〜600カ所の病院・施設の臨床現場で音楽療法士が活躍しています。ちなみに、アメリカでは音楽療法だけの精神科クリニックもあり、薬を使わないので患者さんやご家族にも好まれているようです。学会では音楽療法士による病棟での活動促進だけでなく、音楽療法士の職業安定のための施策も検討しており、その一環として、認定校コースに加え一般コースも創設しました。

認定の幅を広げ上位資格も検討

一般コースの目的は?
村井 新たに設定された一般コースの対象者は、他職種に在職中などの理由により受験資格校での履修が困難または不可能な人たちです。認定校コースと同様、当学会が主催する音楽療法士認定のための必修講習会で系統的な知識と技術を学び、学会認定音楽療法士(補)試験を受験します。現代社会には複雑な人間関係によるストレス、さまざまな障害や疾病による苦しみや痛みを抱える人々が多く、その解決を求めています。音楽療法士の資格認定の幅を広げることで、社会の期待に応え得る質を備えた多くの音楽療法士が誕生することを期待しています。

今後の活動を教えてください
村井 音楽療法士は現在、全国の多くの精神科医療の専門病院で活動をしています。しかし、いまだ国家資格化は実現していませんので、今後はその達成に向けて全力を傾注したいと考えています。第一に音楽療法の社会的認知度を高めるため、従来の施設型音楽療法に加え、数年前から着手している一般市民を対象とした「音楽療法地域プラン」の実践を加速すること。第二に認定の上位資格制度を創設して音楽療法士の質の向上を目指すこと。第三に関連する他団体と連携し、その団体の資格者が学会認定を得やすくする資格条件の構築を先方と協議することで、認定者の拡大と裾野の広がりにつなげること。第四に議連活動の復活。第五に2017年に日本で行う世界音楽療法大会を成功に導くことです。これらの延長線上に、音楽療法士の国家資格化が実現すると考えています。

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