第100回 日本の未来 南淵明宏(昭和大学教授)
有識者といわれる偉い人と話をすると、必ず次のような言葉を聞く。
「今の若い者は草食系」「いや絶食系」「元気がない」「良い子過ぎる」「リスクを取らない」「欲がない」「マイペース」──。そんなふうに見えるのだろう。
ワーク・ライフ・バランスという言葉もある。仕事を効率良く仕上げ、余暇の時間を充実させる生活。これが当たり前になりつつあるのか。
長時間労働、グループの結束重視、能力均一主義。かつての人口ボーナス期間の成功体験を忘れられない労務管理はもう負け組!
短時間労働、人材活用、モチベーション重視。人口オーナス期間の今、そんな企業が勝つ!
なるほどもっともな話だ。
それにしても、そもそもできる奴はどんな環境でも仕事ができる奴だし、できない奴はどんな環境でも仕事はできない。そんな格差がどんどん目立っていくように想像される。
ワーク・ライフ・バランスとは結局究極の能力主義ということなのだろう。
そんなことをあれやこれやと考えていたのだが、先日、「青空エール」という映画を観た。
球速162km/hの直球ど真ん中の正統派青春スポ根ドラマだ。なかなか良かった、というか素晴らしかった。いや、ど真ん中に剛速球を投げ込まれてのけ反って見逃して三振してしまった。
吹奏楽部の女子と野球部の男子の恋愛ドラマとして大ヒットしたマンガの映画化だ。セリフが良かった。
「近道はあるけど。楽な道のことじゃないのよ」
特にしびれたのは最後のセリフだ。思いがかなって見上げた青空は、想像していたよりずっと高く、青かった。
少し前に観た「ちはやぶる」も良かった。感動した。「むすめふさほせ」の速攻で心を奪われた。この映画も女子向けに大ヒットしたマンガが原作だが、恋愛の要素は少ない。自分に打ち勝つ、仲間を大切にする、が強烈なテーマだ。
ぱっと見で広瀬すずと土屋太鳳の区別も付かない私だが、若い世代はこれらの作品を通してこんなに素晴らしい感動、そして人生で何が大切か、を共有しているのだ、と感心した。
ついでに、少し前の「ビリギャル」も良かった。目標に向かって正面から潔く挑戦する姿が描かれていた。受験生の親を経験した人は皆、HPで受験番号を見つけるシーンにはつい涙腺が緩んでしまうことだろう。
識者は「今の若者には、リベラルアーツにさらされる機会がもっと必要」と指摘する。
くだらない薄っぺらな俗悪マンガや小説もあるが、紹介した作品のように「普遍的真理」をしっかり伝えているものある。それらはまさにリベラルアーツに他ならない。
そう考えると若い世代に不安はない。正義や友情、努力と挫折、強さと弱さをしっかり学んでいるではないか。マンガを通して、全き人が育成されていると思うのだ。
だが、そんな若い世代にも我欲丸出しのゆがんだエリートどもはやはり一定数繁殖し、談合、利権食い、天下り、隠蔽、ねつ造、盗用、責任転嫁に奔走するのだろう。
新世代の中では、そういうと全き人たちとの間の隔たりは、どんどん大きくなっているに違いない。
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