資産運用委託先の投資失敗で 2・7億円が回収不能に
公益財団法人日本サイクリング協会(JCA)がコンサルティング会社に運用を任せていた資金が回収不能になっていたことが判明した。回収不能になった金額は2億7000万円。コンサルティング会社が勧めるシンガポール銀行の割引円建て債を購入するという投資話に乗って虎の子の資産3億円を預けたが、コンサルティング会社は割引債を買わず、「別の事業に投資して失敗した」というのである。3000万円は返してもらったが、2億7000万円が戻ってこない。JCAは基本財産がなくなり、運営資金が枯渇。いまや解散の危機に陥っている。
会長は入院中の谷垣・自民前幹事長 そんな折も折、参議院選挙後、サイクリングが大好きで、JCAから「サイクリング名人」に選出されている自民党前幹事長である谷垣禎一氏が、皇居一周のサイクリング中に転倒して入院した。脊髄損傷の重症と伝えられ、組閣で幹事長留任が見送られる悲運に見舞われたが、実は、谷垣氏はJCAの会長である。もはや回収不能の約3億円は、こっそり参議院選挙に流用されたのではないか、などという怪情報まで流れている。
JCAの資産が回収不能になっていることをスクープしたのは読売新聞だった。同紙によれば、2011年3月ごろ、資産運用を相談した東京・銀座のコンサルティング会社からシンガポール銀行の割引円建て債を2億6000万円で購入すれば、3年後に3億円になり、さらに約4000万円の利息も入る、と有利な投資話を持ちかけられた。JCAは資産運用のコンサルティング契約を結び2億6000万円を振り込んだ。3年後の14年、話の通り、3億円になったことから契約を更新し、再び3億円の運用を委託した。ところが、今年3月、コンサルティング会社から預かった資金はシンガポール銀行の割引円建て債の購入には充当せず、無関係のサーバー関連の会社に投資し、焦げ付かせた、と報告されたという。
3億円がゼロになったと告げられる前に、JCAが手元不如意から3000万円を受け取ったから差し引き2億7000万円が回収できていないという内容だ。
この報道に対して、JCAはホームページで認めている。ある幹部は各紙の取材に「11年以前にもコンサルティング会社に資産運用を任せたことがあり、そのときには成功したので、すっかり信じ込んでしまった」と言い、返済要求にコンサルティング会社は「今進めているM&A(企業の合併・買収)を成功させて返済したいと言っているので、待つべきか、それとも告発すべきか検討している」と煮え切らない態度を取り続けている。
実際、JCAの12年度の決算報告書の基本財産の項目には、定期預金6450万円と並んで、有価証券としてシンガポール銀行割引円建て債2億8650万円、ゴールデンゲート合同会社ゴールデンゲート投資ファンド6000万円が記載されている。
JCAの13年度の貸借対照表にも定期預金6450万円、有価証券3億4650万円と、同様の数字が記されている。しかし、次の14年度の貸借対照表では有価証券がゼロとなっていて、基本財産がスッカラカンになっていることを示している。
むろん、15年度の貸借対照表でも有価証券はゼロと記載されている。JCAの話と貸借対照表の記載との間に1年間のズレがある。貸借対照表に虚偽記載するはずはない。本当はコンサルティング会社が「別の投資に使い込み、ゼロになってしまった」と分かったのは今年3月ではなく、昨年3月だったのではなかろうか。どちらにしても、JCAは基本財産がなくなった財団法人ということになる。
JCAはスポーツとしてのサイクリングの普及と振興を目的にした団体で、1961年に制定されたスポーツ振興法に基づき、サイクリングを国民の心身の健全化に有効なスポーツとして国が奨励することを明文化したのを機に、64年に競輪の収益金を財産にして文部省(現・文部科学省)認可の財団法人として発足した。その後、75年には「サイクリングの普及は自転車関連の機械工業の振興につながる」と経済産業省も認可に加わり、両省が管掌する財団になっている。
事業は設立目的に沿って各都道府県のサイクリング協会と協調してサイクリング教室を開いたり、指導者の育成に乗り出したり、あるいは「全日本マウンテンサイクリングin乗鞍」を筆頭に「神宮外苑サイクリング」など各種のイベントを支援したりしている。
さらに、ヤマト運輸と提携し、各地のツーリングに参加するための自転車を割引配送するサービス「サイクリングヤマト便」や、自転車保険を扱っている。
最近、自転車に乗りながらポケモンに夢中になり事故を起こしたりする騒ぎも起こっているが、皮肉なことに、谷垣会長が自民党の野党時代の落車事故に続く二度目の転倒事故を起こしたことで、サイクリングはますます注目されている。
ちなみに、各都道府県にもサイクリング協会があるが、JCAの傘下団体ではない。その昔、イギリスで世界最初のサイクリング愛好者の組織が生まれたように、各都道府県でサイクリング愛好家が団体を結成、サイクリング大会を開催したりしている。
むしろ、後から官製で誕生したJCAは都道府県のサイクリング協会の大会を支援しているという関係だ。今回のJCAの資産損失に対して東京、神奈川、千葉、埼玉の首都圏4都県のサイクリング協会は「JCAの下部組織でも包括・被包括団体でもない。イベントには関係も影響もない」と声明を出し、他の道府県協会も混同されないようにアピールしている。
事件ダンマリに参院選絡みの怪情報
ともかく、基本財産で運営される財団法人にとって、JCAの虎の子の基本財産喪失は存続の危機といってよい。サイクリング愛好家からは「全日本マウンテンサイクリングin乗鞍は開催できるのか」「自転車保険はどうなるのか」「サイクリングヤマト便は利用できるのか」といった不安を
訴える声が聞かれている。
しかも、JCAは公益財団法人であるにもかかわらず、資産損失をスクープされるまで公表していなかった。それどころか、報道後も詳しい経緯や今後の対応を発表していない。
こうした態度がさまざまな憶測、うわさを生んでいる。その中には「2億7000万円は自民党の参議院選挙の資金に流用されたのではないか」という怪情報まである。JCAが事件を隠し続けたこと、スクープされたのが参議院選挙直前という時期も、この情報に真実味を与えている。
JCAは13年に公益性の高い内閣府所轄の公益財団法人に認定されているが、これもJCAの会長が谷垣自民党幹事長(当時)だったからではないか、とうがった見方さえされている。たとえ、谷垣氏が働き掛けなくとも、あうんの呼吸で公益財団法人にしてくれた、というのである。JCAが事実経過や対応だけでなく、こうした憶測に対してさえ、「何を言ってもいろいろ言われるから、事件について一切言わない」と口をつぐんでいるために、怪情報も立ち消えない。
公益財団が乗った稚拙な投資話
憶測や怪情報が生まれるのには、それなりの土壌がある。資産を運用してもらったという話が、あまりにも安直なのだ。
JCAの幹部は「シンガポール銀行の割引円建て債を2億6000万円で買えば、3年後に3億円になり、さらに別途4000万円の金利も付くと説明された」と答えている。割引による利益分と4000万円の金利を合わせると、10%もの金利が付くことになるが、こんなことは異次元の超低金利の時代にあり得ない。そもそも割引債には通常、利息が付かない。利息相当分を割り引いているのである。
こんな幼稚な投資話に立派な公益財団が乗ること自体、信じ難い。サムライ債とも呼ぶ円建て債は日本国内で発行される債券であり、幹事の証券会社や銀行から購入せず、わざわざコンサルティング会社に委託すれば、手数料を取られて割高になる。詐欺師にだまされたのではないか。
大切な基本財産の運用なら、運用実績を考慮した上、信頼が置ける銀行や証券会社、ファンドなどに運用を任せる。かつて財務大臣も務めた谷垣氏がトップの財団がやることとは考えにくい。だまされたのでなければ、政治資金か選挙資金に使ったのではないか、と勘繰られても仕方がない。
加えて、銀座のコンサルティング会社も謎とされている。JCAは社名を隠し続けているが、事情通の間では「銀座のコンサルティング会社とは七丁目のM社ではないか」と見られている。同社はシンガポール銀行の割引円建て債に投資していたことがあるという。
その一方、JCAはゴールデンゲート合同会社のゴールデンゲート投資ファンドにも6000万円を投資している。合同会社とはかつての有限会社のことだが、「同社は適格機関投資家等特例業務届出に『平成26年10月から当分の間休止中』と記載されている。どちらも得体の知れない連中」(事情通)と言われているそうだ。
こんな推測も登場している。「彼らをたどっていくと、かつてイギリスの賭け屋であるブックメーカーへの投資話で巨額の資金を集めたスポーツブック投資詐欺事件のグループに突き当たるのではないかとも疑われている。どうやらJCAは詐欺師の餌食になったようだ」(ある調査会社)と言うのである。
JCAは資産損失後、コンサルティング会社から「M&Aで取り戻して返済する」と言われ、それを信じているが、それも詐欺師の時間稼ぎの手口に似ているようだという。
そもそもJCAは文科省、さらに経産省が加わって上から作った組織だ。天下りの組織ともいわれているが、本来、スポーツ推進と普及が目的のはずの団体は、都道府県にある組織が全国組織を持ちたいという意思でつくられるべきである。政府が競輪に金を出させて官がつくった団体は、今回の不祥事を機に解散した方がよさそうだ。
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